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22話 クインと勇者

今日もシアを膝の上に乗せながら試合を見ているが、やはり楽しむよりも不安のほうが先にきてしまう。先日の試合を見る限り、クインは嬲りながら倒すのを好むため瞬殺は無いと思いたい。

今回一番の懸念は、試合開始と同時の瞬殺だ。降参又は戦闘不能になるまで手を出さないとオーゼと約束している関係上、それだけが怖い。

そして俺たちの心配を他所に、遂に試合が始まる。


「さあ!本日最後の試合は、プレデタービー女王クイン対ケンタウロスのオーゼ!」


司会の宣言と共に過剰とも思えるほどの煙幕が焚かれ、その煙幕を切り裂くように両者が出場口から飛び出してくる。オーゼは喉、胸、腹部、肘、4つの膝それぞれに鋼線を編みこんだソフトレザー製の防具を付け、手には何の装飾も施されていない全長150cmほどの短槍を持っていた。

これは俺からのアドバイスだ。

この短槍は、柄の部分を呪桜の木で作成しており、その軽さと反比例するかのように耐久力が高い。穂先にはミスリル製の刃、石突には黒鉄を被せてある。

クインを相手にするには『面』の攻撃が理想だが、オーゼにはその手段が無い。妥協案として出したのが、『打』『切』『突』を状況に応じて使い分けられる槍だった。

短槍にした理由は、クインの防御力が低いため重さによる威力を求めなくても十分にダメージを与えられることと、突きや切る際の手数を重視するためだ。

防具に関しても、クインの針はミスリル製防具であっても貫く威力を誇るため、防御力よりスピードを重視して関節部位と胴体のみの軽装としている。


「クインを見ろ。完全にオーゼを舐めてるようだ」

「ふん、前回の試合を見る限り負ける要素なぞ無いのじゃから当然じゃろう?これはもしかすれば一矢報いれるのではないかの?」


確かに入場してきたクインは明らかにオーゼを下に見ている。覇気も何も感じないうえに、欠伸までしているのだ。見ている側からしてもイラつく態度だ。

その姿を目の前で見ているオーゼの心境は穏やかではないだろうな。


「さあ、両者出揃いました!その圧倒的実力で対戦相手を嬲り殺してきたクイン選手に対して、オーゼ選手はどう戦うのか!」


司会が観客のテンションを上げるために声を張るが、前回の戦いを知っている観客は息を潜めるように静かに、しかしその表情には暗い興奮も見えている。例えそれがどれほどの凄惨な現場であっても、死を見たいという興奮は誰にでもあるのだ。コロシアムに来る様な者達は特に。


「本日の最終試合、クイン選手対オーゼ選手。始めぇ!」


その声と同時にオーゼが飛び出し戦闘が始まった。展開は予想通りに進んだ。

最初こそ、昨日とは比べ物にならないオーゼの速さに戸惑っていたクインだったが、すぐにその速さにも慣れてしまった。そうなればあとは当初の予想通り、クインの一撃離脱戦法によってオーゼが一方的に嬲られる展開が続いた。

オーゼの攻撃は全て空を切るが、少しづつクインの動きに対応していく。武器とクインの身体との差が少しづつ縮まっていくが、当たるまで続ける事はクインが許さないだろう。

実戦を経験する事で集中力が増した結果か、俺が与えた魔力がうまく馴染み始めている。このまま続ける事が出来ればクインに一矢報いる事も可能だが……。クインもそこまで待つ事は無いだろう。


「クインがそろそろ本気を出すぞ。いつでも出れるように準備をしておけ」

「ふむ、いざとなったらナオエを投げてでも止めてみせるかの」

「いや、確かにシアの腕力でならすごいスピードが出そうだが、俺も死ぬかもしれないから却下な」


実際にシアに投げられたら音速を超えそうで怖い。

本来のスピードで動き始めたクインには、すでに槍などかすりもしない。遠めに見ている俺ですら目で追うのがやっとなのだ。実際に戦うとなればスピードでは絶対に敵わないだろう。

実際に戦っているオーゼにはクインの姿が見えていない。ここからがオーゼ最後の賭けになる。

いかにクインが速かろうと、針を刺す瞬間は必ず動きが止まる。その瞬間にカウンターを決めることさえ出来れば……。

槍を更に短く握り締めると、魔力を周囲へ放出していく。この魔力のセンサーは、クインが刺しに来るほんの刹那を捉えるための布石になる。

時間にして十数分という短い攻防の中、ついにクインとオーゼの戦いに決着が着く。


そう、思われた。しかし、クインは動かず静寂がコロシアムを支配する。不意に、オーゼと対峙していたクインがこちらを見て笑った。


「大変な事。ナオエ!」


俺の影が盛り上がったかと思うと、ホロウが頭だけを出現させる。


「ホロウか?今こっちは目が離せないんだが」

「襲われた、ケンタウロス。守ってる、皆。手が足りない」

「何だと!?何に襲われているんだ?」

「蟲。多い、数。300以上。抑えてるアラマユ、パメラ、リノセロス達」

「スリャとメリザンドはどうした?」

「守ってる。結界で。皆を、勇者から」

「は?勇者だと?何故あんな王国から離れた場所で……ックソ!そういう事か!」


協力、いや、利害の一致か?まさかクインと組むとは思わなかった。完全に誤算だ。

さすがにこのままではマズイ。いつから計画されていたのかは解らないが、完全に嵌められた。ここでの判断ミスが、俺の大事な一部を失わせかねない。


つまりは、オーゼか、仲間か、俺の本来の計画のどれかだ。

ここに残れば仲間が危険。仲間の下へいけばオーゼが危険。どちらにも対処しようとすれば最悪の場合、新魔王軍と王国両方を相手取っての戦争が始まる可能性すらある。

戦争をおこされては、俺の目的はまた1からのスタートになってしまう。それは避けたい。


「ホロウ、シュカクかスメラギを移動させれるか?」

「……無理、邪魔されてる。何かに」

「勇者がいる時点で察しが付くが、人間側の結界だろうな。勇者を提供するだけでは足りないと踏んだんだろう。相変わらずそういう危険察知能力だけは高いヤツだよ、あのクソ女」


俺は1つの決断を下す。

次回投稿は8月になります。仕事がひと段落着く予定なので、投稿ペースを以前のように戻せるかと思います。

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