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17話 オーゼとホロウ

「俺の事を知っていたのか?」

「知っていたと言うのには語弊があるな。教えてもらったのだ」

「教えてもらった?誰にだ?俺はずっと顔を隠していたはずなんだがね」

「彼女にだよ」


そう言うとオーゼはスッと俺の影を指差した。

その影が盛り上がり中から全身に黒い甲冑を着込み、『頭を左手に抱えた』女性が同じく首無し馬と共に出てくる。

影渡り、と言うと思いつくのは1人しかいない。


「ホロウか、俺の事を教えるとはどういう事だ?」

「調べた。ナオエに近づくやつは全員。役立ちそう、戦力。都合良かった、困ってたから」

「いくら困っていて都合良かったって思っていても、本人を前にして言うのはどうかと思うけどね?」


苦笑しながら話すオーゼの言葉を、ホロウがそのまま無視する。


「必要な事、ナオエのため。ナオエのため。救う、ケンタウロス族」

「ケンタウロス族を救う?」

「自分達ケンタウロス族は今重大な危機を迎えているんだよ、あの全ての蜂を従える女王『クイン』によって」

「クインと言うと魔王軍幹部の1人じゃったか?どんなヤツだったかのう?」


・・・勇者だった頃に、シアと一緒にクインの部下達と何度も戦っていたはずなんだがな。

まぁ、本人と戦った事は無かったから仕方が無い・・・のか?


「魔王城の防衛と食料の確保、兵站を担っていた幹部だな。とは言っても俺達が魔王城まで攻めた時には、こっちの作戦に引っかかって見当違いの場所を防衛していたため戦ってはいないが」

「ふむ、それなら覚えが無いのも仕方が無いのう。で?ケンタウロス族が危機を迎えているとは一体どんな状況なんじゃ?」

「正にその食料の確保というのが問題でね。魔王城が無くなり本拠地がここサレムに移ったために、ヤツらの狩場が私達の狩場と被ってしまったのさ」


理由は解ったが、それだけで存亡の危機と言えるのか?

ケンタウロスの足を持ってすれば、狩場が多少遠くなろうとも問題は無いはずだが。


「その顔は納得できないという事かな?そうだろうね、ヤツらと狩場が被っただけであれば」

「狩られてる、ケンタウロス。クインの部下に、他の獲物と一緒」

「な、ケンタウロスは魔王軍に隊長クラスがいただろう!?」


信じられない。

魔王が統率していた頃は人外、魔族間での戦争行為、略奪、捕食は禁じられていたはずだ。

個人間での決闘などは例外としても、表立っての争いなど無くこちらを攻めてきていた。

それが何故?


「自分達の部族長は死んだよ。原因は不明の病による急死とされているけど、真相はクインの毒だろうね」

「何故そんなことをするのじゃ?これから魔王軍を再建すると考えればケンタウロスは貴重な戦力じゃろうに」


そう聞かれたオーゼの顔が悲しそうに歪んだ。


「実はだね、1年程前から私達ケンタウロス族全体でキミ達に下ろうかという案が主流を占めていたのだよ」

「俺達に?それはまたどうして・・・ああ、さっき言っていた狩場の件か?」

「最初の頃はただ単に獲物の取り合いだけだったのだよ。だが、狩りでしか食料を得る事の出来ない我等には死活問題だったんだ。狩る者が増えれば獲物は減る、結果として得られる食料が減っていく、ならば道は2つ。クイン達と争うか、他の場所へ行く事だった」

「その候補として俺達が上がったと言う事か?」

「人間に下れば良くても奴隷としてしか扱われないだろう?」

「それはそうじゃの」

「かといって獲物が減り続けていた自分達には新天地を目指せるほどの力も、クインと戦って確実に勝つ力も残っていない。だからこそ最終手段として魔王様を討った勇者に下ろうという話になったのだよ」


つまり、今回ケンタウロス族に起こった悲劇は・・・。


「それをクインに知られてしまってね。裏切り者として粛清の対象になってしまったと言う事さ。向こうにしてみれば、粛清という大義名分を得て狩場の独占を行えるうえにケンタウロスという新たな獲物まで手に入れることができる」

「つまり、今回の大会に参加した目的はクインというわけじゃな?」


オーゼの表情に真剣な色が灯る。

そこには先程見せた悲しそうな雰囲気は微塵も無く、決意を秘めた戦士としての顔を見せるオーゼがいた。


「そうだね、試合で戦うという事は部下のいない1体1。桁違いな数の部下を操るクインには、この場でしか勝つ方法が無いんだ」

「勝つ?殺すの間違いではないか?しかし、それにはお主の実力が不足しておるようじゃが」

「それは解っているよ。しかし、それに関しては触れられたくないね。どういう手段を取るにしてもクインに知られるわけにはいかない」


それはそうだろう。

何せ、未だこちらは協力するとは言っていないのだから。

しかし、俺の心はもう決まっている。


「それで、俺達に助けてくれと頼んだ理由は何だ?まさかクインの暗殺じゃないよな?」

「それは違うよ。クインとの問題は我等ケンタウロス族が決着すべき事だからね。自分が頼みたいのは、クインと戦うまでの護衛だよ。どうやら自分の事を狙っているヤツらがいるみたいでね」

「虫、複数いる。昨日から、オーゼの周り。強い、オーゼより」

「成る程・・・この件引き受けよう。話を聞く限り、遠因として俺がいるようだしな」


そう、この件の元を辿るとその全ての原因が俺にあるようだ。

とは言え、俺は自分の行動に後悔などしていないし、この件を正面切って攻められても結果論でしか無いため痛くも痒くもない。

・・・だが、すでに被害が出ているという話をその本人から聞いてしまった今となっては、断るという選択肢は無い。


「済まない、そう言う意味合いで言った訳じゃないんだ」

「ああ、分かってる。俺が勝手にそう思ってるだけだよ」

「ワシ等が力を貸すとして、その報酬はなんじゃ?そうそう安くは無いぞ?」

「キミ達の望む物を、自分達に出来る範囲で」


随分と曖昧な回答だ。

何でも良いと言っている様だが、弱体化しつつあるケンタウロス族に出来る範囲でとなるとそれなりの要求しか出来ないと言う事になる。

とは言え、先程の話を聞いたため戦力としてケンタウロス族全体を取り込むことも出来そうだ。

オーゼがクインを殺した場合でも、クインの部下達からの復讐が待っているだろう。

それならば、俺達の街近くを開拓すれば良い。

当面の食料はこちらで持てばいいだろうしな。


「先程の話にあったように、ケンタウロス族が俺の配下に加わるというのはどうだ?オーゼがクインに勝っても負けても今の場所には住めないのだろう?」

「・・・見抜かれていたようだね。確かに自分が勝っても負けてもケンタウロス族に先は無いんだ。そちらがその申し出を受けてくれるなら、こちらとしても有難い。だが、良いのかい?自分達は400を超える人数がいるのだが」

「問題は無い。元々1000人単位での移住を計画して拡張しているからな。では、これで契約成立だな。ホロウ、ケンタウロス族の所へ行き今のうちに移動を開始させろ。護衛としてスリャとメリザンド、夜目の利くアラマユとパメラさん。リノセロス族からも50人ほど連れて行ってくれ。あ~、あと居たらで良いからスメラギにも声をかけてやってくれないか?」

「分かった。伝える。・・・足りない、影渡り、力が。使う。補給しながら」


・・・前にもあったな、こんな事。

だが、今回は移動する距離と人員が多い。

ホロウの魔力だけでは足りないか。


「連絡する、スリャに。また来る、その後。・・・準備しておいて」

「分かったよ、オーゼが予定通り勝ち進んだ場合クインと当たるのは6日後だ。それまでには移動が開始できるようにスリャに伝えてくれ。では、頼んだぞ。ホロウ」


では、俺達はオーゼ警護のために宿を1つ貸しきるとしますか。

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