11話 上級騎士の事情
この物語には、人によっては嫌悪感を抱く可能性のある人外娘が登場する可能性があります。
自己責任においてお読みください。
※昆虫類など
また、お使いの作者は正常(?)です。
ご安心してお読みください
ようやく辿り着いた我が家に入り、着替えるために寝室を開けると、シアがオルストニアに足を舐めさせていた。
「・・・ちょっとジェラシーを感じる自分が嫌だなぁ」
しかもオルストニアの表情が、あのドMコンビと同じ恍惚の表情をしている・・・。
あのシア以外には何にでも噛み付いていた女に何があったんだ。
「お、帰ったか。鬼はどうじゃった?ナオエ」
「ただいま、シア。鬼・・・シュカクはかなり強かったな。恐らくシアと良い勝負になるんじゃないか?」
「ふむ、それほどに強いのか。だが、ワシが聞いたのはアッチの具合じゃったんじゃがの」
・・・うん、シアも怒ってるな。
「あ、あ~。体格が違うからな。うん、楽しくはあったが」
「ワシもコヤツで楽しく遊ばせて貰ったわ。人間のメイドというのも良いもんじゃの」
「いや、普通人間世界でのメイドにそんなオプション付いてないから」
分から無さそうに首を傾げるシア。
くそ、カワイイな。
「そうじゃ、メリザンドが例の件の報告書を置いていったぞ」
「例の件か?早いな」
そう言いつつ仕事机の上に置かれた報告書に目を通す。
メリザンドの書く字は、小さく丸みを帯びた何ともかわいらしい字だが、個人的にはかなり読みにくい。
苦労して読むと、予想していたのよりも悪い結果が書かれていた。
「シア、これはもう話したのか?」
「いや、それを伝えるのはナオエの仕事じゃろ」
全く、憎まれ役はいつも俺だ。
まぁ、これも仕事だ。
「上級騎士殿、あんたに話がある」
呼び掛けるが、オルストニアはこちらを見もしない。
そう言えば、俺が部屋に入ってきたにも関わらず無反応なのも変だ。
「おぉ、すまんの。奉仕に集中させるために結界を張っていたのを忘れていたわ」
シアが指を鳴らすと、気配を察したのか『ハッ』とオルストニアが顔を上げ周りを見渡し、そのまま俺と目が合うと完全に硬直した。
数秒ほどその状態を維持した後、羞恥に顔を真っ赤にしたオルストニアの叫びが家の中に響き渡った。
「落ち着いたか?」
「くっ、うるさい!私に話しかけるな!」
「のう、人間のメイドよ。ワシがいつナオエにそんな口を利くことを許可したのじゃ?」
「申し訳ございません、シア様」
うわ~、一瞬で土下座してる。
この数日で一体何が・・・。
「なぁ、どうやったらこのプライドの塊みたいだったこの上級騎士殿がこんなになるんだ?」
「ふむ?ナオエのやっておる方法を真似してみただけじゃぞ。まずはお主がスリャに行ったアレを」
「分かった、それ以上言うな」
何でシアがその事を知ってるんだ?
スリャが自身から話したとは考えにくい。
腐ってもエルフだ、プライドの許す最後の一線があるはず。
まぁ、ここで追求しても意味は無いか。
・・・すでに知られてるようだしな。
「上級騎士殿、悪い知らせだ。アンタに身代金が支払われなかった理由が分かった」
「何!それは本当か!さっさとおし・・・教えていただけませんか?」
う~む、ここまで変わるとはな。
俺が裏切られる前に会っていたオルストニアとはまるで別人のようだ。
「結論から言えば、俺を国が裏切った事を『新勇者』に知られないようにするためらしいな」
「な、何?お前を?それはどういう」
「つまり魔王を倒した勇者が『理由は解らない』が人間を裏切った。そういう事にしたいんだろう。そのためには真相を知る者の排除が必要だった。心当たりが無いか?『あの時』あの場所にいたメンバー全員が何かしらの『事故』で死ぬか、生きていても療養のため自宅で休んでいるんだがね?」
「そ、そんな。王女が、王女がそんなことをするはずが」
「するんだよ。お前等はあの王女の本質を知らないだけだ。あの女にとっては、前王女の周りを固めていたお前等親衛隊と貴族連中が邪魔だったんだろ」
うな垂れるオルストニアを尻目に話を続ける。
「王国でのお前の扱いは、王国商人の護衛中に魔物に襲われて生死不明らしいな。魔物が多く生息する場所だってことで捜索はされてないようだな」
「そんな、そんな・・・馬鹿なことが」
「まぁ、向こうは身代金請求されたことすら隠しているらしいからな。つまりは死んでいても構わないって事だろう」
すでに言葉も無いオルストニアに、少しだけ同情する。
良い話題も話しておくか。
「ああ、あとお前の一族な、謂れの無い告発で有罪になってな、処刑されそうだったから助けておいたぞ」
「そんな、国が、王女が・・・家族にまで・・・・・手を出そうとするなんて」
「だから助けておいたと言っているだろう。今は中立都市『ムゥジザ』の商業ギルドに隠れ家を用意させて、そこに住まわせている」
のろのろと顔を上げたオルストニアは、そのまま縋るような目を向けてくる。
プライドの高い上級騎士がこういう目をしていると、グッとくるな・・・。
まぁ、今は真面目な話なので表情には出さないが。
「こっちの正体は隠したままだから、今後どうしたいのかという要望があれば多少は聞くことが出来る。まぁ、貴族のままでいたいと言うのは無理な話だろうがな」
「私の父上は、そこまで恥知らずではない。状況は理解しているはずだ」
「ふむ、なら問題は無いか。当面の生活資金は屋敷から持ち出しているようだし、ムゥジザは人魔問わず争いごとに関しては徹底的に自衛するからな、王国の手が伸びる事は無いだろう。逆に言えばムゥジザから出てしまえばその限りではないが」
「それは・・・、いや、これから先のことを決めるのは父上達だ。私にはどうする事も・・・」
「父親の所に行きたいのなら解放しても良い。家族が大変な時だしな。王国に帰るという選択肢が消えた今となっては、アンタの今後に俺は干渉しない」
「・・・勇者、あんな事をしてしまった私にそこまで」
「勘違いはするなよ、俺はあの裏切りを許したわけじゃない。だが『自分の意思とは無関係に家族と離れ離れにされる』気持ちは誰よりも解るつもりだ」
「・・・・・すまない」
「まぁ、お前に対して本気で言ったわけじゃないさ。主犯は前王女だしな」
俺もオルストニアも、そこから先の言葉も無く不意に訪れた沈黙に少し気まずくなる。
映画館でポップコーンを齧った瞬間に周りの音が無くなり、咀嚼音が響いてしまったあの感じに似ている・・・かな?
「ワシを無視して話を進めるのは、いかがなもんかの?メイド、お前は誰の物じゃったかな?」
「は、はい!私の全てはシア様の物です!」
条件反射なのか、間髪いれずに宣言するオルストニア。
・・・今までの良い話っぽい流れは一体なんだったのか。
「シア、この流れで強制的に引き止めるとかちょっと空気読もうぜ?」
「ふん、解っておるわ。じゃが、ワシにもメイドにも心の準備というものがある。そうじゃろう?」
「心の準備?何のだ?」
「それは秘密じゃ。とりあえず、メイドを解放するのは明日以降でないとワシが許さん」
「明日?まぁ『仲良く』していたようだったしな。上級騎士殿の準備もあるだろうから、どちらにしろ今日すぐに移動とはいかないだろう」
「なら良いのじゃ、ほれ、さっさと貯まっておる仕事を片付けてこんか」
シアに追い出される形で我が家を追い出された俺は、そのままスリャとメリザンドの仕事場へ向かい貯まっていた仕事と2人の欲望を片付けたのだった。
仕事環境の変化と連日の大雪による雪かきで書く時間が中々取れず、遅くなってしまい申し訳ございません。
今回はストーリーを先に進めるために、あまりare系な話は入れておりません。
次回が本番ですけどね!
ただ、次回に関しては恐らく嫌悪感が生じる恐れが『それなり』にある感じです。
普通に人間とヤッちゃうZE!みたいな感じではありません。
人外スキーな皆様方に受け入れられると信じて頑張って書きますw




