第2話 - 華麗なるへんt……隣人達 【中編】
休憩なんだから好きなように過ごして良いのよ、と、わたしはメルさんからあっさりとお茶会参加への了承を頂いた。
ついでに、謎の美人シスター・サリアさんについて色々と話を聞いてみる。
本人が口にしていた通り、サリアさんは王国客員魔術師。
シュリも言っていた、王国内に数名しか居ないという、魔法というものが使える人物のひとりだという。
この国で言う魔術師とは、その身に内在する魔力を行使して天の声を聞き、吉となる方角、行い、日程などについて助言を行う人物のことを言うのだそうだ。
その他様々な不思議現象を操るそうだけれど、何と言うか、手から炎を出したり天変地異を起こしたりするわたしが想像していたようなものではなくて、昔の日本でいう陰陽師の西洋版的な立場なのかな、と。そんな風に理解する。
アルス・ノーヴァ城内に勤務する客員魔術師は2人居て、その片方がサリアさん。
もうひとりは男性で、エリアスさんという名らしい。
魔術師と呼ばれる者は、必ず透き通るような銀髪に紅い目という外見的特徴があるため、見ればすぐにそうだと判るとのことだ。
……しかし、益々判らない。何故そのような人物がわたしをお茶に誘うのか。
「うーん、客員魔術師の方とはお話をしたことも無いし、流石に意図までは判らないわねえ」
さりげない観察眼を研ぎ澄ませつつ皿洗いの手も休めないまま、メルさんが言う。
「何か気に触るようなことでもしたんでしょうかね……」
「とても穏やかな方だと聞いているし、そういうことでは無いような気はするけどね」
確かに、サリアさんはとても優しそうな人だった。
皿を拭きながら、少し前に向けられた穏やかながらも魅惑的な笑顔を思い出す。
と、人の姿もまばらになってきた食堂内が、少しざわついた。
残っている騎士達の殆どが顔を赤くして食堂の出入り口付近を注視している。
彼らの視線を一身に浴びているのは、話題の人物、サリアさんだった。
目が合うと、サリアさんはまた穏やかに微笑んで、こちらへ向けて手を振ってくる。わたしは慌ててぺこりと頭を下げた。
視線を浴びながらこちらへと近付いてくるサリアさん。
見た目も綺麗で、物腰も柔らかくて上品で。22歳だというメルさんよりも少し年上に見える、お姉様という言葉がぴったりと嵌る彼女に、若い騎士達が注目するのも良く判る。
彼女は厨房のカウンター越しにわたしの正面に立って、胸元に両手を添えて首を傾けた。
「ごめんなさい、楽しみだったで少し早く来てしまったの。休憩時間はお時間を頂いても大丈夫だったかしら?」
「あ、はいっ! ここの片付けが終わればご一緒できます!」
「まあ、良かった。では早く終わるように、微力ながらお手伝いをさせていただきますわね」
そう言って、サリアさんは近くに置いてあった台ふきんを手に取る。それには流石に、わたしだけでなく厨房スタッフのおばちゃんもメルさんも慌てた。
客員魔術師といえば、親衛隊隊長であるシュリと同格の地位を持つという。そんな人に、拭き掃除などさせられない。
けれど、両手で摘むように台ふきんを持ったサリアさんは、にこりと笑った。
「客員魔術師なんて、有事でもなければただの暇人なのよ。少しは有意義な時間の使い方をさせて頂戴?」
有無を言わせぬ笑顔を向けられれば、頷くしかない。
結局、わたし達はサリアさんに昼食後の後片付けを最後まで手伝わせてしまった。
-*-*-*-*-*-*-
わたしはサリアさんに続いて屋外を歩く。
彼女の勤務地でもある聖堂は、騎士棟と行政棟の間くらいに設置されているとのことだった。特殊な区画というやつのひとつなのだろうと思う。
わたしの前を歩くサリアさんは心なしか軽やかに跳ねるような足取りで、心底嬉しそうに、満面の笑みを湛えていた。
「あの、何故わたしなんかを誘ってくださるのです?」
本気で謎だったので、わたしはストレートに聞いてみる。と、サリアさんは少し振り返って、まあ、と、咎めるような声色で言った。
「アコ様、ご自分を貶めてはいけません。アコ様は小さくて、可愛らしくて……わたくしの理想とする人物像がそこにあって、2日前に城内でお見掛けした時から、是非お近付きになりたいと思っていたのです」
小さい、の部分は気になったけれど、そこまで言われると流石に照れる。
背が高くて大人の魅力むんむんなサリアさん。外見的に見ればわたしは彼女と正反対だ。そんな自分には無いものに焦がれるという心情が、完璧に見えるサリアさんにもあるということなのだろうか。
それとも小動物的な目で見ているのか。
どちらにせよ、悪い感情から来るものでは無さそうなので安心した。
彼女に連れられて辿り着いた聖堂前で、わたしは驚愕と感動に口を開いたまま目を瞬く。
目の前にあるのは、各所にステンドグラスがあしらわれた白い綺麗な建物。
正直、もっと質素なものを想像していた。
促されて中へと足を踏み入れ、更に驚愕する。
入って正面の奥には司祭が説教をする台座のようなものがあり、台座を中心に、床には円形の複雑で美しい模様が描かれていて、入り口方向へ向かって、それを邪魔しないように長椅子の座席が幾つか設けられていた。
幻想的なカテドラル。
建物内に照明は無いけれど、台座の背後の壁と天井にもあしらわれたステンドグラス越しに光が差し込んでいて、床を、台座を、屋内の全てをゆらゆらと色とりどりの光が照らしていて。その光景が、何よりも美しかった。
あまりにも現実離れしているので、足を踏み入れることを戸惑うほどに。
「ふふ、気に入って頂けましたか?」
そんな光景にも見事に馴染んでしまうサリアさんに微笑まれて、わたしは口を開けたままこくこくと無言で頷いた。
感動を言葉にしようと試みたけれど、言葉なんて出てこない。
わたしは幻想的な光がたゆたう床を恐る恐る踏みしめながら奥へと進んで、サリアさんに促されるまま、正面から見て台座の左側の壁に位置する質素な木製扉をくぐった。
対照の位置、右側の壁にも同じような扉があったけれど、そちらはもうひとりの客員魔術師さんの部屋に繋がっているらしいが、現在は留守とのこと。
扉の奥の室内は応接室のような場所らしく、ソファとテーブルのほか、最低限の調度品が置かれていた。
更に奥へと続く扉がひとつあり、その先がサリアさんの私室になっているという。
美女の私室というものにも興味はあったけれど、流石にそこまで覗く訳にもいかない。わたしは彼女に勧められたソファへと大人しく腰を降ろした。
サリアさんは上機嫌のまま、静かにお茶の準備をしてくれる。
わたしがやろうと思ったけれど、制されたうえに勝手の判らない他人様の部屋では下手に動くことも出来ず。けれども何となく落ち着かず、そわそわしてしまう。
やがてお茶の準備を終えたサリアさんは、テーブルの上にそれらを並べた。
お茶請けに美味しそうなクッキーまである。
飴も含め甘いものがそこそこ好きなわたしは、思わず表情が緩んだ。
「アコ様は変わった飾りを着けていらっしゃいますわね。それは何という飾りなのです?」
2人掛けのソファが2脚あるというのに何故かわたしの隣へと腰を降ろしたサリアさんが、興味深々といった風にわたしの顔を覗き込んでくる。
飾り……?
疑問に思って彼女の視線を追い、ようやく合点がいった。
「これは“めがね”といって、視力を補正するレンズが入っているものです。わたしは目が悪いので、これが無いと生活もままならないんですよ」
この国の人々をくまなく見た訳では無いけれど、そういえば、めがねを掛けた人物というものを見掛けたことが無い。彼女が疑問を持つ程度には珍しいものなのだろう。
「まあ。手に持って使うものや片目に嵌めるものでしたら知っていますけど、あれと同種かしら? 外見と実益を兼ねた素晴らしい飾りですのね」
めがね、めがね、と口の中で反芻するサリアさん。
この世界のめがね製造技術はあまり進んでいないらしい。下手にその辺に放って無くしたり壊したりしないように気を付けなければ。ここで情報を得られて良かった。
「それにしても、わたくし、アコ様に出会えたことが本当に奇跡のように思っているのですよ。アコ様のような容貌の妹が居ればと、ずっと思い描いていたのです」
「妹ですか」
話題を変えたサリアさんは、ええ、と言って微笑む。
「天が遣わしてくださった恩恵に違いありませんわ」
サリアさんは祈るように手を組んで、天を仰いでうっとりとした表情で目を閉じた。
そこまでただならぬ感情を抱いてくれていたとは。
妹が欲しいというくらいだから、サリアさんはひとりっ子なのだろう。かくいうわたしもひとりっ子。サリアさんは美人で、優しくて穏やかで、高位職者であるのに自然に女中の仕事を手伝ってしまうような人格者だ。こんな姉が居たらきっと自慢出来るだろうという気持ちは理解出来る。
そんな人が何故わたしを妹対象としてロックオンしたのかは謎だけれど、この頼りなさげな外見が、面倒見の良さそうな彼女の感性を動かしたのかも知れない。
少々荷が重い気はしたけれど、素直に喜ばせてあげたいなぁ、なんて。そう思ったので、わたしは言った。
「サリアさんさえ良ければ、そう思ってくださっても大丈夫ですよ。その……わたしなんかで良ければ」
ぱあっと。サリアさんは神々しいまでの笑顔を浮かべる。
喜んで貰えたのは嬉しいけれど、眩しすぎて直視出来やしない。
「ではでは、早速わたくしのお願いを聞いてくださる? わたくし、妹と“ぺあるっく”を着るのが夢でしたの」
神々しい笑顔はそのままに、サリアさんはそんなことを口走った。
ぺあるっくって……ペアルックですか。
姉妹なんて居ないから気持ちは判らないけれど、姉とは得てして妹にそんな気持ちを抱くものなのだろうか。
「ですので、アコ様を一目お見掛けしたその時から、是非着て頂きたくてご用意していましたのよ」
うっとりしながら、サリアさんはどこぞからシスター服らしきものを取り出した。
確かに彼女が着ている質素なローブと似た形だけれど、何ていうか、その。丈がやたら短くないですか。
拒否したい気持ちに駆られたけれど、もはや脅しにすら見える笑顔には逆らえそうも無く。
わたしは若干引き攣った表情でそれを受け取り、どうぞ、と示された物陰で着替える。サリアさんにとっては背後となるその場所からでも、彼女がうきうきと着替え終わるのを待っていることが判った。
手早く着替えてしまい、元着ていた女中の制服を畳む。
しかし、これは……
「き、着替え終わりました、よ……?」
そう言ったわたしの表情は、明らかに引き攣っていただろう。
黒いローブの袖は手首へ向かうにつれてふわりと広がっていて手首が隠れるほどの長さもあるのに、ボディの方はやたらぴったりとしていて、丈もおしりが辛うじて隠れる程度とぎりぎりだ。
何より、他の丈に合わせると大概胸が入らないのに、正にわたし用に誂えたかのようにジャストフィット。
見掛けてご用意したとか言っていたけれど、ここまでぴったりだと正直引く。
一見だけでどんだけわたしの身体のサイズ把握してんのこの人。
「まあ、まあ……!」
サリアさんは着替えたわたしを見て、頬を紅潮させ恍惚とした表情を浮かべた。
心なしか息も荒い。ハァハァ言っているような気さえする。
いや、実際ハァハァ聞こえる。
ハァハァ言ってるこの人……!!?
ドン引きして後退しようとしたわたしの頬を、サリアさんはガッと両手で挟んだ。勢いをそのままに、わたしの頬にサリアさんの紅潮した頬をぐりぐりと執拗に擦り付けてくる。
ひぃ!?
わたしは心の中で悲鳴を上げた。
「あぁん、似合うだろうとは思っていましたけど! ここまで可愛らしくかつ如何わしい姿になるなんて思いませんでしたわっ! あどけない少女にそんなモンを着せているという背徳感が堪りませんわっ! 衝撃ですわっ!」
いやいやいやいやこっちの方が衝撃ですからねこれ。
妹とペアルックとかそんな純粋な気持ちから来るモンじゃないですよねこれ。
自分で用意したものをそんなモンとか言いやがりましたよ確信犯ですか。
なんなのこの人。アレなの。
ロリコンなうえに着せ替えしてハァハァする趣味まであるの。
素敵な人だと信じていたのに、とんだ変態じゃねえか。
いやしかし、落ち着け亜己。ロリコンだというならば、わたしの年齢は範疇外の筈だ。
年齢を告げれば萎えてきっと元のサリアさんに戻ってくれる。わたしはそう信じている。
「わたし19歳ですからね。少女時代過ぎてますからね。貴女が着せ替えて喜ぶようなあどけなくて可愛らしいイキモノじゃないですからね」
なるべく感情を抑え単調にそう告げると、サリアさんはぐりぐりしていた頬を離してぱちぱちと目を瞬かせた。
やったか。やったのか。平穏が戻ってくるのか。
そう思って安堵したのも束の間、彼女は殊更恍惚とした表情を浮かべ、のたまった。
「この外見なのに、如何わしいことをしても罪にならない年齢だなんて……! 素敵すぎですわ……っ!!」
駄目だどうしようこの人。
真性だ。真性の変態だ。
天は人にニ物を与えずなんて言うけれど、こんな完璧な人に変態属性を付与するとか、あまりにも重い咎を背負わせ過ぎなんじゃなかろうか。色々と与え過ぎなんじゃなかろうか。
何事も過剰なのは良くないと、善良な一般市民であるわたしは訴えたいと思います!
「いやいやそれ本人の同意が無ければ罪になりますからね。犯罪ですからね」
「的確で素早い突っ込み。素敵ですわ! ちなみにわたくしも性的な意味で突っ込むのが得意なのですけど、体験してみる気はございません?」
「ございません。全力で遠慮いたします。ていうかあんた突っ込むモン持ってないでしょうが!」
「あら、乙女には秘密の七つ道具がございますのよ?」
真っ青になって牽制しながら後退するわたしに、ハァハァしつつとんでもない発言をぶちかましながら、サリアさんはにじり寄ってくる。
まずい。非常にまずい。どうしようこれ。こんな所で同性相手に貞操の危機とか酷過ぎやしないですか。
じわじわと後退してカテドラルへ戻る扉へともうすぐ差し掛かるところであった、その時。
どん。
わたしは背中から何かにぶつかり、後退の足を止められた。
退路である扉までもう少しだったというのに、道筋を誤ったのか……けれども壁というにはいささか柔らかい気がする。
涙目のまま振り返って見上げると、そこにあった驚くほど整えられた顔は、俄かに驚きを含んだ表情でわたしを見下ろしていた。
銀糸のような長い銀髪は緩く編まれていて、切れ長の双眸は深い深い紅。長い睫毛がその目許に深みのある翳りを与えている。
ぶつかってきたわたしの肩に手を添えて立っていたのは、サリアさんの男性版のような眉目秀麗な男性だった。
“魔術師と呼ばれる者は、必ず透き通るような銀髪に紅い目という外見的特徴があるため、見ればすぐにそうだと判る”
メルさんが言っていたことを思い出す。
この人が反対側の扉の奥の住人である、もうひとりの客員魔術師か。
「んもう、良いところでしたのに!」
さも憤慨したかのようにそう言って腰に手を当てたサリアさんの攻勢が止まった。
わ、わたしは助かったのか……!?
帰ってきてくれてありがとう! 本当にありがとう! シュリと同格の恩人として認定させていただきます!
確か名前はエリアスさん。
「こちら側が賑やかだったのでつい、ね。それにしても、サリア。幾ら気に入ったからといって、ほどほどにしておかないと嫌われてしまうよ」
苦笑交じりでそう言ったエリアスさんの声は、低めで落ち着いていて、やけに色気のある音色だった。
いえいえ、ご心配には及びませんとも。
もう彼女への評価は下落の一途を辿ってこれ以上落ちようが無いくらい落ちてますから。
「そんなことはありませんわ。アコ様はわたくしの妹になると約束してくださいましたもの」
「そんなもん取り消しに決まっておる! 貞操が幾つあっても足りやしない!」
「酷いですわ! わたくしを騙しましたのね!」
「騙されたのはこっちですが!?」
思わずノリツッコミを発動してしまい、はっとする。
わたしは窮地を救って頂いたにも関わらず、背後に立つ彼にお礼の一言すら述べていなかった。
肩に手を置かれたままなので半分振り返りながらだけれど、わたしはエリアスさんの顔を見上げる。
「あ、あの、危ないところを助けて頂き、ありがとうございました」
「……ん?」
微妙な間があってから、エリアスさんは極上の笑みを浮かべて首を傾げた。
……あれ、わたし助けて頂いたんじゃないんですか。
今すぐ性的な意味でわたしにあれこれするのをとりあえず諦めたらしいサリアさんは、ソファへと腰を降ろし直してすっかり冷めてしまったお茶のカップに口を付ける。
たったそれだけで優雅で神々しくすらある雰囲気を醸し出すというのに変態だなんて、何なんでしょうね。
「まあ、スキンシップはおいおいで構いませんわ」
こちらも極上の笑みを浮かべるサリアさん。
おいおいだろうが何だろうがもう貴女とはスキンシップなど図りたくありません。
「今日は準備した衣装を着ていただけましたものね。エリアスの良い仕事のお陰で眼福ですわ」
不穏な台詞を聞いた気がして、わたしは表情を強張らせる。サリアさんは再び恍惚とした表情を浮かべて、更に続けた。
「わたくしは胸の辺りがもう少しお小さいと思っていましたけど。貴方の目測でぴったりでしたわね」
「まあね。親衛隊長に連行されている時、随分と腕に乗っていたようだったから」
「流石ですわ」
頭上から、ははは、なんていう甘やかな笑い声が聞こえてくる。
えっと。
わたしの身体のサイズを一見で把握した変態はサリアさんではなくて?
こげないやらしい服を着せられる羽目になった原因は、背後の人物にもあって?
要するにキミタチ、グルですか?
嫌な汗が流れるのを感じながら状況把握に努める。
嘘だと言って欲しくて背後の人物を見上げると、わたしの縋るような視線に気付いたエリアスさんは、にっこりと。それはもうにっこりと微笑んだ。
変態属性は一端隅に追いやるとして、例えるなら、サリアさんの微笑みは天使だ。
柔らかくて、優しくて、穏やかで。性癖さえ知らなければ、誰もが一瞬で彼女に魅了されるだろう。
けれど、エリアスさんが浮かべたのは。
凶悪で、含みがあって、妙な凄艶さがあって。
見た者を戦慄させる、悪魔のような微笑みだった。
目を見続けていたら殺られる気がしたので気力を振り絞って彼から視線を逸らすと、くす、と、静かな笑い声が降ってくる。
背後に立つ彼の、わたしの肩に置かれていた左手がするすると降りていって、抱え込むように胸の下へと回された。
右手の方は更に下へ。
つつ、とやけに色気のある所作で硬直するわたしの右膝の辺りへと伸ばされ、そこから短いローブの裾の辺りまで、太股をゆっくりと撫で上げられる。
屈み込んだエリアスさんは、背後からわたしの耳に柔らかい唇を寄せ、熱の篭った言葉を吹き込んだ。
「良く似合っているよ……アコ」
ぞわぞわぞわ。
一瞬で全身が粟立つ。
この場に味方なんて居なかった。
早く逃げないと色々と危ない。
幸い、拘束は緩い。
わたしはしゅばっと身を屈めてエリアスさんという名の変態の腕から脱出し、彼が入ってきたお陰で半端に開いていた扉の隙間から脱出した。
こんな時ばかりは、自分が小柄であったことに感謝さえする。
「一方的に言葉攻めされながら堕ちて行くアコ様だなんて萌えますわああぁ」なんていう桃色の叫びが背後から聞こえるけれど、そんなもん無視だ。命には代えられよう筈もない。
わたしは聖堂の出口へ向かって全力で疾走しながら、エリアスさんの恩人認定も全力で取り消した。
ほろり、涙が零れる。
美人なのに、美形なのに。
ふたりとも変態だなんて、神様は残酷過ぎだ。