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アコ様の秘密のメモ帳  作者: エシナ
ACT1 - A pianist's birth unknown episode.
24/26

幕間4 - 或る親衛隊員の手記

※小話的な閑話です。

(こうし)の月 十日』


 もうすぐ騎士隊内で、親衛隊員への挑戦権を賭けた実技試験が行われる。

 言わずもがな、親衛隊になるのは騎士の憧れだ。

 そのための挑戦権を得るには騎士隊内で頂点に立たなければならないが、決して奢らずに鍛錬を重ねてきた。

 必ず結果を出してみせる。

 意気込んでいたら、憧れのメリクールさんから応援の声を掛けてもらった。

 メリクールさんは、明るくて、優しくて、思慮深くて、働き者で……居るだけでその場が明るくなるというか、素敵な女性だと思う。

 よく気にかけてくれるし……

 ……ともかく。これで勝てそうな気がしてきた。

 頑張ろう。




『猛虎の月 二十日』


 親衛隊員の席を賭けた試合当日。

 騎士隊内での頂点をもぎ取ったとはいえ、現親衛隊末席に勝てるかどうかは五分五分だったが……

 勝った!!

 現末席のニールさんに、勝ったんだ!!

 これで俺も、親衛隊員を名乗ることを許されるんだ……!!

 ニールさんは酷く悔しがっていたが、頑張れよ、と、背中を押してくれた。

 応援と後押しに応えられるように頑張ろうと、強く思う。

 ちなみに、現親衛隊員の方々からお祝いに何か欲しいか聞かれたので、シュリ隊長との手合せを所望してみた。

 当然ながら、結果は惨敗。

 夢がひとつ叶ったとはいえ、高みはまだまだ遠い。




『白兎の月 一日』


 引き継ぎなども無事に終え、今日付けで親衛隊員の末席として正式に名を連ねることになった。

 第五宿舎の騎士達が、激励をくれる。

 メリクールさんからも、また声援を掛けてもらった。

 そうか……これからは親衛隊員用の部屋に移動するから、彼女とも頻繁には顔を合わせられなくなるのか……

 ……後ろ髪を引かれている場合じゃないな。




『王蛇の月 二十四日』


 最近、ようやく親衛隊員であることに慣れてきた気がする。

 こうして数か月を過ごして判ったことは、意外と行政方面へ携わる仕事が多いということだ。気が付けば一日執務室に居たなどということも、稀にある。

 剣の腕を鈍らせないためにも、俺は度々隊員の先輩方に勝負を挑んだ。

 先輩方は強く、未だ一度も勝てたことはない。

 それにしても……

 全員と手合せさせてもらうことで、シュリ隊長の実力が別格であることを改めて実感した。

 隊長に強さの秘訣を訊ねてみたが、上手いことはぐらかされてしまった。

 きっと何か、特別な心構えがあるのだろう。




『花鳥の月 八日』


 長期休暇に入っていたシュリ隊長が、一日早く帰城したとの報せが入った。

 ……が、女連れで、しかも子供まで……?

 情報の交錯で、一時は孕ませた女が子供を連れて認知を迫ってきたという噂にまでなったが、どうやら身寄りのない女の子の面倒を見るということらしい。

 ただれた事情でなくて本当に良かったと思う。

 流石は隊長。懐が広い。

 ちなみに川に落ちてたとか言っていたが、本当だろうか……




『花鳥の月 十日』


 先日のただれた噂が落ち着いたばかりのシュリ隊長に、今度は幼女趣味という噂が持ち上がった。

 あまつさえ、幼女にしか性的興奮をもよおさないとか何とか。

 まさかそんな訳は無いだろう。みんな、普段は浮いた噂ひとつ無い隊長の話題だからって喰いつきすぎだ。

 ……とは思いつつ、女の子を拾ってきたというし、気にはなる……

 …………

 気になりすぎて仕事がおろそかになりそうだったので、思い切って率直に聞いてみることにした。

 顔面に茶を噴き掛けられた。

 よほど心外だったのだろう。殺気まで飛ばし始めた。恐ろしい……

 その後、噂の鎮静化に駆り出されることで何とか許して貰えた。




『赤狼の月 二日』


 第五宿舎の近くを通った時、偶然、隊長の姿を見掛けた。

 どうやら女中の誰かと話をしているようだが……割と本気で驚いた。

 シュリ隊長があんなに柔らかい、優しげな表情をしているところなんて、初めて見たのだから。

 背中側しか見えなかったので、女中が誰だったかはよく判らない。

 メリクールさんで無いことだけは確かだ。

 随分と小柄な女中だった。




『赤狼の月 十日』


 今日は三回も「あ、俺死んだかも」という気にさせられた、散々な日だった。

 それと共に、隊長が面倒を見る少女……女性と、初めてまともに対面した日でもある。

 間近で見たアコさんは、予想よりも酷く小柄だった。そのうえ髪型や顔立ちも幼いせいか、年齢を……俺よりも年上だと聞いても俄かには信じられない。

 だが、よくよく観察していると、どことは言わないが子供らしからぬ身体つきをしていたり、くるくると変化する表情の中に、酷く大人びたものが混じっていたり……年齢相応以上の様相も見せる。

 アンバランスな女性、というのが俺の第一印象だった。

 職業もそうだ。女中の制服を着ているのに、音楽家だという。音楽家というのが一体何なのかも良く判らないのだが。そのうち判る、と、隊長は言っていた。

 ここ最近の、その隊長を見ていると、アコさんを気に掛けているというか……はっきり言えば好いているのだろうことがよく判る。何せその所為で死にかけた。

 けど対立勢力が……第一行政室長と、客員魔術師様とは。

 なかなか難儀そうだが、俺としては、隊長を応援したいところだ。

 ……それにしても、ここまで豪華な面子に好かれるとは、アコさんってある意味凄いな……




『赤狼の月 十八日』


 アコさんの執務室の近くを通り掛かった時に、アコさんに呼び止められた。

 何事かと少し身構えてしまったが、焼き菓子が大量にあるから貰って欲しいとのことだった。大した用件じゃなくて良かった。

 が、メルさん達が焼いたんだって、って……え? まさかこれ、メリクールさんの手作り……?

 それは……た、食べてしまうのが憚られる……腐らせないよう保存する方法って、何かあっただろうか……

 葛藤していたら「ちゃんと食べなさいよ」とアコさんに指摘されてしまった。

 か、顔に出ていたのだろうか。

 ……じっくり味わって食べよう。




『幻猪の月 七日』


 最近、騎士棟女中の新人……モニカの姿をよく見掛ける。

 しかも、騎士棟周辺ならともかく、行政、司法、果ては王族の棟付近でまで。一体何の用事があるのか。

 一度率直に訊ねてみたら、ほの暗い笑みを浮かべて「情報は武器なんですよ」と言っていた。俺の直感がこれ以上踏み込むなと訴えるので、それに従っておくことにする。

 それでもふと気付いたのは、どうやらアコさんの周辺を観察していることが多い、ということだ。

 アコさんに関わる人間模様はなかなか見応えがあって面白いとのことだったが、確かに、それには同意する。

 ところで、先月アコさんから貰ったハンドクリームをメリクールさんが気に入っていたようだったので、メリクールさんへプレゼントしてみた。アコさん経由で貰った焼き菓子のお礼も兼ねて。

 ……何個かまとめて渡して、騎士棟の女中みんなで使ってください、という形で……

 …………

 ともかく、喜んではくれたようなので、良かったことにする。

 その様子を見ていたモニカが、生暖かい視線を向けてきていたのがどうにも気掛かりではあるが……




『幻猪の月 二十九日』


 アルノルト団長の口から魂がはみ出ていたので、一体何があったのか訊ねてみた。(本当はこの状態の団長には近付きたくないが、親衛隊の執務室でこれ見よがしに落ち込んでいるというのに先輩方全員が無視するので、俺が聞かざるを得ない)

 団長の話を要約すると、どうやら年頃の娘さんに「パパとは二度と口をきかない」とか言われたらしい。

 休みにご自宅へ帰った時に、一番風呂に入ったのが原因なのだそうだ。

 これに関しては、流石に同情を禁じ得ない。

 先日も「洗濯物を一緒に洗わないで」とか言われていたようだが、年頃の娘さんというのはみんな、父親に対してはそんなものなのだろうか。

 そんな娘さんの態度からくる反動なのか、団長はアコさんをよく構う。

 だが十三歳の娘さんと同じような態度で接する所為で、最近では割と冷たくあしらわれている感が否めない。

 団長、そろそろアコさんの実年齢に気付いても良さそうなものだが……

 ……まあ、あえて言うことでも無いので黙っておこう。




『地鼠の月 十日』


 合同演習開幕の日。

 俺は、開幕セレモニーでの各国騎士入場で、親衛隊の先輩方と共に騎士隊の前を歩いた。

 先頭を歩くのは勿論、シュリ隊長だ。国旗を掲げて堂々と歩く隊長は、酷く様になっていた。

 その後の技の披露でも、間近で見ることで先輩方の凄さを改めて実感させられた。自国ばかりでは無い。他国にも、強い騎士は沢山いる。

 以前は、一般騎士大隊のうちの一人に過ぎなかったので、もっと離れた場所から見ていることしか出来なかった。

 それを考えれば。強者への道程はまだ遠いが、確実に近付いてきてはいるのだ。

 改めて、邁進への気持ちを強く意識する。

 ……そして、そんな強者の頂点に居るような人に、観客席に迎えに行かせたうえに城まで送らせるなどという大業を成し遂げたアコさんって……

 本当に、ある意味凄いな。




『地鼠の月 十一日』


 音楽家について、そのうち判る、と。シュリ隊長が言っていた言葉を思い出す。

 俺は晩餐会会場の警備をしながら、その“演奏”を聴いていた。

 アコさんが“音楽家”であることは知っていたし、王女様達に教鞭を取っていることも知っていた。ただ、アコさんの執務室はエリアス様によって防音の魔術結界が施されているため、その内容までは、今日まで知る由も無かったのだ。

 ひとつひとつが意味を持ち、情景を表すかのような音の羅列。

 王女様達の腕前にも感服したが……アコさんの演奏は、その比ではなかった。

 あんな小さな身体と楽器ひとつで、一体どれほどのものを表現しようというのか。悲しくも喜びに満ち溢れた、美しい演奏だった。

 一瞬たりとも目が離せず、背筋が粟立つのを抑えきれない。ともすれば、不覚にも涙まで溢れそうになる。

 俺達は、一体なぜ、こんなに素晴らしいものを忘れてしまったのだろうか。


 今後、良くも悪くも、アコさんの周辺は騒がしくなるだろう。

 この女性は、国を挙げて守っていかなければならない人物になると、そんな予感がした。

 俺にもその手助けが出来ればと思う。


 ……ひとまずは、サリア様の手から護るのが先決のようだが。

 本当に、色々な意味で凄い人だ、アコさんは……

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