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Time Slip 〜あの日見た虹〜

作者: 草薙若葉

「タイムスリップをしたんだ」


私は口を開くなりそういった。


ユイとルリカと私は喫茶店にいた。


中には、私達しかいなかった。


ユイは訝しげに私を見つめた。


「タ、タイムスリップ?」


ユイが、訳が分からないというふうに、繰り返す。


「そう」


「ちょ、ちょっと待って。それ冗談?」


ルリカが咳き込みながら言った。


驚きすぎて、さっきまで飲んでいたメロンソーダが器官に入ったのだろう。


「まさか」


冗談でも、嘘でもない。


本当にしたんだ。


というか、してるんだ。


現在進行形で。


いや、でも能動というよりも受け身だ。


そうなったと言った方が正しいか。


ユイとルリカは、まだ半信半疑のようだ。


それはそうだろう。


私だって、二人の立場だったら信じない、信じられない。


「でさ、どこに?いつへ?」


ルリカが、興味の混ざった声で訊く。


「一日前」


「一日前?!」


多分、ルリカが望んでいた答えは、江戸時代だとか未来だとかだろう。


でも違う。


「一日前って最近過ぎでしょ」


「信じられないだろうけど、本当に起こったんだ。今から話すから、覚悟して聴いてね。特にユイ」


「私?」


「ユイには酷かもしれない」



        * * *


夏休み最後の日。


さっきまでざぁざぁ降りだった雨はいつの間にかやんでいた。


私は宿題も既に終わらせ、ぐーたらケータイゲームをしていた。


  ♪〜♪〜♪


着メロが鳴る。


ちょうどラスボスを倒せそうな時にっ!


タイミング考えろよと無理なことを心の中で呟いて、ディスプレイに目をやった。


ルリカからだ。


ルリカとは中学時代にユイとスリカと私の三人でいつもつるんでいた仲間である。


高校が違う所為もあって、今はあまり接点はないが・・・。


「はぁい、もしもしぃ?」


電話に出るとすすり泣きが。


「ルリカー?何泣いてんの?」


「ぅう・・・アイ・・・」


「何よ?悪戯いたずらならきるよ」


ルリカはよく私に冗談や悪戯をして笑っていたので、言ってみたが、そうでないことに気づいた。


ルリカは嘘泣きが下手なのだ。


まるで、ルリカの嘘泣きはオットセイが食べ物を喉に詰まらせたときのような音なのだ。


こんなリアルに泣けるはずがない。


「ルリカ?」


「ユイが・・・」


悪い予感がした。


私は固唾をのんで、次の言葉を待った。


「ユイがトラックに轢かれて・・・死んだ・・・」


ユイが?


死んだって・・・なんで?


昨日遊びにいったばかりだよ?


あんなに元気そうだったのに?


どうして・・・。


「私とユイ・・・遊びにいってて・・・道路渡る時に・・・」


ルリカはその先が言えず、泣き崩れた。


そんなルリカを慰めるわけでもなく、一緒に泣くでもなく、


私は案山子かかしのように突っ立ていた。


「もうご飯よ」


お母さんが部屋に入って来た。


間もなく、私の異変に気づき「どうしたの」と訊いた。


しゃべろうとしても金魚の様に口をぱくぱくするだけで、声が出なかった。


お母さんは、私の持っていたケータイをとり、なにやらルリカと話していた。


そして、電話を切ったとたん「○○病院に行くわよ」といって、私の腕を引っ張り


病院まで連れて行った。


車窓から外を見ると、空は嘘の様に晴れ渡って、虹がかかっていた。


まるで、私を嘲笑うかのように・・・。



病院には既に、ルリカとユイの家族がいた。


ルリカは泣きながら友だちにユイの死を告げていた。


ユイのお母さんと妹は泣き崩れていた。


しかし、そこにいるべきはずのユイのお父さんがいなかった。


ユイのお父さんはDV(家庭内暴力)だってユイから聞いたことあるけど、


娘が死んでも来ないユイの父親に、心底腹が立った。


それから医者が出て来て、淡々とユイの死因をはなした。


ユイは脳死だそうだ。


脳死というのは、脳だけ死んで心臓は動いているという状態だ。


髪は伸び、肌も温かい。


けど、『死んでいる』


ニュースで見たことがある。


あまり、深く考えたことがなかった。


無関係だと思ってた。


そのあと、病室に入り、『死んでいる』ユイをみた。


けど、私にはそれは死んでいる様に見えなかった。


しかもユイはドナーカードを持っていたため、臓器提供は可能だと医者は言った。


家族もそれを承諾した。


私は許せなかった。


ユイは生きてる!


生きてる、死んでなんかいないよ!


そう訴える私に、ユイのお母さんは、優しい目をして


「アイちゃん、私もユイの体を傷つけるのはいや。

けどね、ユイの臓器によって助かる人がいる。

ユイはその人の中でまた生きられるのよ。そう思ったの。それが私の出した答えなの」


と言った。


でも・・・。


でも、ユイは生きてるよ・・・。


無情にも、時は過ぎる。


新学期が始まった。



いつも通り、ユイの家まで迎えにいき、待っていた。


一時間も二時間も。


けど、ユイが死んだことを思い出し、重い足取りで家に帰った。


夢だと思いたかったーー・・・。


こんな気分じゃ、学校に行けないよ。


ユイ・・・。


あの笑顔を見せてよ。


また遊びにいこうよ。


ねぇ・・・。


ユイがいないと・・・・・・


寂しいよ・・・。


ぽとんと涙がこぼれる。


すると、景色は一変し、上を見ると分厚い雲が空を覆いかぶさっていた。


まるで昨日のような天気だ。


昨日、私がケータイゲームに夢中になっていた時間帯の。


さっきまで晴れてたのに・・・。


もう暦上、秋だしね。


秋の空は女の心くらい移り変わりが激しいと言うし・・・。


私は特に気にも留めず、かえろうと一歩踏み出した時のこと。


「どこ行く〜?」


と聞き慣れたハスキーボイスが。


ルリカ?


塀に隠れながら私はのぞいた。


っていうかなんで隠れてんだ私・・・。


ルリカが楽しそうに話してるのが見えた。


ルリカのやつ・・・


ユイが死んだというのに・・・!


相手は・・・?


塀で相手が見えない。


「とにかくぶらぶらしようよ」


私はその声を聞いて、心臓が飛び上がるかと思った。


あの澄んだ声は・・・ユイだ!


私は気がつくと飛び出していた。


「ユイ!!!?」


「アイ?どーしたの?制服姿で」


ユイが人懐っこそうな笑みを浮かべる。


やっぱりユイだ!


死んでなかったんだ!


「ユイとルリカも学校サボリ?」


「学校?」


二人が首を傾げる。


あれ?


私、変なこと言ったかな?


「何言ってんの〜、アイ。学校は明日からでしょ。制服まできてそんなに楽しみなの?」


え?


学校は今日からでしょ・・・?


「だって、今日は九月一日の朝じゃん?」


「何寝ぼけてんの?八月三十一日だよ?しかも夕方だし」


「うそっ!」


「ほんとだよ」


そういってルリカは自分るりかの携帯を私に見せた。


ーーーーーーーーーー

8月31日


pm 4:11


ーーーーーーーーーー


えぇ?!


もしかして、私タイムスリップしちゃったの?!!!!


         * * *


「っていうわけ」


「タイムスリップねぇ・・・」


とルリカが呟く。


「あ、そうだ!私のケータイ見てもらえば、分かるんじゃない?」


九月一日と表示されてたら説明がつく。


私は、大急ぎで通学バッグを探った。


「あった、あったよ!」


だけど、私が期待していた通りにはならなかった・


ーーーーーーーーーーー


ー月ー日


ー:ー


ーーーーーーーーーーー


表示されてない!


狂ったのかなぁ・・・。


私は肩を落とし「表示されたなかった」と呟く様に報告した。


証拠があれば・・・。


「アイ」


私は顔を上げてユイを見た。


「私は信じるよ」


「ほんと?!」


「じゃあ、私も」


じゃあって・・・。


まぁ、いっか。


「それよりさぁ、ユイは何時に・・・死ぬの?」


「わかんない。でも電話がかかって来たのは五時頃。ちょうど雨が降り止んだころかな」


私達は窓越しに空を見た。


大雨が降っている。


「ねぇ、アイ」


「ん?」


「私を助けて・・・死にたくないよ」


「あったりまえだよ!そうじゃなきゃ、タイムスリップした意味ないよ」


「今は、四時二十分頃だから、死亡時刻は四時二十分〜五時だね」


「とにかくさ、五時までここにいればいいじゃん?」


私が提案すると、ユイがうつむいた。


「どしたの?ユイ」


「それは無理だよ。塾があるもん」


「そんなこと言ってる場合じゃないだろっ。自分の命と塾どっちが大切なんだよっ?!」


「行かなかったら、パパに怒られるよ・・・」


「ユイ!!」


「ルリカ・・・帰らせてあげようよ。ユイのお父さんがDVなの知ってるでしょ?

 いかなかったらユイ、いっぱいぶたれるんだよ」


「・・・わかったよ。もう」


喫茶店を出ると、むわぁっと湿気と熱が襲った。


横断道路を注意深く渡っていく。


そんな私達はよそから見ればだいぶ変だっただろう。


そして広い道に出た。


そしてまた横断歩道。


これを渡ればユイの家はもうすぐだ。


家はもう見えている。


ーキーッ


甲高いブレーキ音が聞こえた。


私達がもう渡り終わろうという時に。


そして、車同士がぶつかり合う音。


悲鳴。


私達はあっけにとられていた。


周りの車を蹴散らして、まっすぐ私達の方へ進んでくる鈍く光るトラック。


「ユイ、ルリカ逃げてっ」


私は前にいた二人を歩道に押し込んで、自分も行こうとした。


だが、遅かった。


私だけもう突進して来たトラックに跳ね飛ばされたのだ。


ユイとルリカの叫び声がただ耳に残った。


気がつくと、柔らかい感触に包まれていた。


草の青臭い香り。


水が流れる音。


ここは・・・?


「アイっ」


起き上がるとユイとルリカが走ってくるのが見えた。


あーぁ、制服に草の汁と泥がついてる。


お母さんに怒られるよ。


腕が打ち身になった様にひりひりする。


ってことは・・・


「生きてんの?私」


「うん。ってか奇跡だよ!」


ユイが目に涙をためながら言った。


つーか、トラックに撥ねられて死なないってどういうこと!?


「なんで?なんで生きてんの?」


「アイのバッグにトラックが当たったから!んで吹っ飛ばされて横断歩道の向こうの河川敷にうつぶせで 落ちたの!」


私、運よすぎね?


「よかったぁ」


とユイが私を抱きしめる。


「心配したんだから」


というルリカの目には涙があふれていた。


取り敢えず、よかった。


命があって。


こんな友だちがいて


私は幸せだ。


晴れ渡った空にかかった虹は、私達を祝福しているかの様だった。
















思いつきで書いたので

設定が変かも知れませんがよんで下さってありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] テーマをがあって、文がある。筋が通っていて爽やかです。また、社会病理を混ぜているのもいいと思います。それでいて重すぎないので、作者さんのバランス感覚に唸らされます。 [気になる点] 登場人…
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