表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
23/27

アルディア王国との今後 1

ちょっと区切れ悪いかもです。リアクションありがとうございます!


「……歩ける。立つことができます……!」


桐生が身体を起こそうとしたため、医療チームは慌ててそれを制止した。劇的な組織再生に伴う代謝負荷と、肉体の急激な変化に脳が追いついていない可能性を考慮し、慎重に経過観察を行うためだ。


しかし、結果は明白だった。


現代医学では「一生車椅子」と宣言された重度の損傷が、わずか数分のうちに、後遺症の痕跡すら残さず完全に修復されたのだ。


神崎は静かに胸のポケットから暗号化通信端末を取り出し、政府中枢で待機する総理へ直通の回線を繋いだ。


「神崎です。……臨床試験、第一段階は完全な成功です」


受話器の向こうで、総理が息を飲む気配がした。


「傷病者の神経・骨組織は完全に再生。経過は良好、副作用の兆候も一切見られません。アルディア側の主張通り……いや、それ以上の劇的な効果を実証しました」


神崎はガラスの空き瓶を見つめ、静かに言葉を続けた。


「総理。……これで確定しました。この薬は、世界をひっくり返します」


受話器の向こうで、総理が長く重い息を吐き出す音が聞こえた。


「……そうか。真実だったか」


「はい。臨床データ、バイタルログ、再生過程の映像記録……すべて完璧な精度で集録完了しています」


神崎の報告に、会議室側の総理は深く頷いた。


受話器の向こうで、総理が長く重い息を吐き出す音が聞こえた。


「……そうか。真実だったか」


「はい。臨床データ、バイタルログ、再生過程の映像記録……すべて完璧な精度で集録完了しています」


神崎の報告に、会議室側の総理はゆっくりと目を閉じ、そして開いた。


「よし。すでに本件は最高度の極秘案件として管理してきたが、この決定的な証拠を得た今、管理レベルを『国家存亡に関わる特級防衛機密』へと最終引き上げする。防衛省、厚労省、外務省の合同特別対策室のもと、セキュリティをさらに重層化させろ。許可なきデータの閲覧や持ち出しは、いかなる立場であれ国家叛逆と同義とみなす」


「了解いたしました」


通話を終えた神崎が振り返ると、ICU内は静かな興奮と、それ以上の張り詰めた緊張感に包まれていた。


ベッドの上では、桐生三佐が信じられないといった様子で自らの両手を見つめ、ゆっくりと膝を折り曲げている。痛みも、痺れも、そこには一切存在しなかった。


「神崎さん……」


佐藤が声を潜め、震える声で語りかけてくる。


「私たちは、とんでもない領域に踏み込んでしまったのかもしれません。これが外に漏れれば、病に苦しむ人々や医療機関だけでなく、各国の軍事・情報機関がなりふり構わず奪いに来ます」


「ああ。既存の製薬ビジネスを根底から揺るがし、兵士の生存率をも劇的に変えてしまう『万能の神薬』だ」


神崎は静かに、しかし瞳の奥に強い意志を宿して答えた。


「だからこそ、この秘密は絶対に死守しなければならない。アルディア王国との外交交渉、供給ラインの独占、そして……この巨大なカードを世界に対してどう切るか」


その時、医療モニターが電子音を鳴らし、桐生の完全な回復を示す緑色のシグナルを灯した。


異世界の奇跡が、地球の現実となった瞬間。

日本という国家の運命をかけた、新たなる極秘外交と暗闘の歯車が、静かに、そして確実に動き始めた。


――翌朝の冷気はいまだ残る、政府中枢の最深部に位置する地下特別防災会議室。


昨日の臨床試験において、異世界「アルディア王国」より提供された上級ポーションが、地球人の生命をも脅かす重篤な外傷に対して極めて強力な治療効果と不可思議な細胞再生能力を発揮することが明確に実証された。


その揺るぎない事実を重く受け止めた日本政府は、危機管理の観点から急遽、今後のポーションの法的位置付けや運用方針、ならびに安全保障上の取り扱いについて包括的に協議するための閣僚級会議を開催していた。


防音壁に囲まれた広い会議室には、内閣総理大臣をはじめ、防衛省、厚生労働省、外務省、農林水産省、経済産業省、そして国家安全保障局(NSS)といった主要省庁の幹部や最高責任者たちが重々しく顔を揃えていた。


そしてその一角には、プロジェクトの発足当初からポーションの科学的・医学的解析を担当し続けてきた研究員の神崎と佐藤の姿もあった。


正面に据えられた大型高精細モニターには、昨日の臨床試験によって得られた臨床データ、バイタルサインの推移、および高解像度の画像データといった膨大な情報が次々と表示されている。


「では、ただいまより異世界資源に関する特別対策会議を開始しよう」


総理が深く静かな声を響かせ、室内を一望しながら口を開いた。


「昨日、我々はアルディア王国製の『中級ポーション』と称される回復薬が、地球人である我々の肉体に対しても極めて高い治療効果と驚異的な組織復元力を発揮することを、目の前で確認した」


総理の発言に合わせて、モニターには臨床試験の被験者となった自衛官・桐生に対する投与前後の詳細な比較データが映し出された。


「これまで我々が手元に持っていたのは、アルディア王国側から提供された幾分か抽象的な古文書資料と、マウスやラット等を用いた動物試験による基礎的な生物学的データだけであった」


「しかし、昨日の臨床試験によって、その異世界の薬理作用が実際の人間、それも致死的な損傷を負った人間に対しても完全に適用可能であることが、揺るぎない事実として証明されたのだ」


総理は一息つき、重々しく視線を走らせて一度言葉を切った。


「問題は――ここからだ」


その一言により、会議室の張り詰めた空気がさらに一段と緊張感を増し、参加者たちの表情が引き締まる。


「この人智を超えた回復薬を、我々は今後国家としてどのように取り扱い、いかなる管理下に置くべきなのか」


最初に口を開いたのは、厚生労働省の医政局を担当する幹部であった。


「まず、純粋な医学的・薬学的な観点から本件の分析結果を申し上げます」


手元のタブレットを操作し、モニターの表示を詳細な生体データへと切り替える。


「今回臨床試験で使用した『中級ポーション』につきましては、事故によって発生した脊髄損傷、ならびに広範囲に及ぶ凄惨な圧迫創という、現代医学では完全な後遺症なしの治癒が極めて困難とされる重度の外傷に対し、細胞レベルでの急速な再生と劇的な治療効果が明確に確認されました」


「一方で、これまでにアルディア王国側から謝礼として提供されてきた他のポーション群――例えば初級回復薬や各種の解毒薬などにつきましては、まだ人間への直接的な投与試験を行っていないものが大半を占めております」


「それぞれのポーションが持つとされる効能や効能強度につきましては、アルディア王国側の担当者から概略の説明を受けておりますが、我々の厳格な医学的・薬学的基準に照らし合わせた十分な臨床検証や安全性評価が完了しているわけではありません」


「解毒薬の有効性と作用機序についてはどう分析している?」


総理が鋭い眼光で尋ねる。


「それこそが、今後の医学研究における極めて重要な検証課題の一つとなっております」


厚生労働省の担当者が丁寧な口調で答える。


「アルディア王国側からは、自国に存在する毒物や動植物の毒素による中毒症状、あるいは魔法的な状態異常に対して日常的に使用されているとの説明を受けております」


「しかしながら、それらの解毒ポーションが、地球上に存在する多様な化学物質、有機毒、あるいは未知のウイルスや細菌毒素に対しても同様の解毒作用を示すのかどうかは、現時点では解明できておりません」


「つまり、アルディア王国に存在する毒の分子構造や病理作用と、地球上の毒が必ずしも同じ仕様・メカニズムであるとは限らない、ということだな」


「はい、まさにその通りでございます」


研究員の佐藤が、補足するように深く頷いた。


「仮にその解毒薬が、特定の毒素分子を化学的に中和・分解する仕組みではなく、毒によって引き起こされた生体の異常反応や細胞麻痺、あるいは組織破壊そのものを広義に修復・正常化する魔法的な機構であるならば、地球上のあらゆる毒物に対しても普遍的な効果を示す可能性が十分に考えられます」


「逆に言えば、もしも化学的に特定の毒素構造だけを標的としてピンポイントで阻害する性質のものであるならば、地球の毒素に対しては全く効果を発揮しないという可能性も否定できません」


「その通りでございます」


神崎が佐藤の言葉を受け、論理的に説明を加える。


「ですから、解毒薬の真の価値と作用域を見極めるためには、まず地球上に存在する既知の毒素や化学物質を対象とした基礎的な生物学的試験を、段階を追って慎重に進めていく必要があります」


総理は深く頷き、力強い声で応じた。


「よく分かった。安全性の確保を最優先としつつ、研究は引き続き最優先事項として継続してくれ」


「承知いたしました」


続いて、外務省の北米・国際情報担当幹部が新しい資料を大型モニターに表示させた。


「次に、アルディア王国側から今後どのような枠組みで、どの程度の量のポーションを継続的に提供してもらえるのかという、外交および資源調達上の問題に移ります」


画面には、これまでに異世界通信を通じて日本国内へ持ち込まれたポーションの正確な本数と種別が一覧となって映し出される。


「これまで我々の手元に届けられたポーションにつきましては、過日、我が国がアルディア王国側で生じた不測の危機に対して緊急的な情報支援や助言を行ったことに対する、いわば個人的かつ非公式な謝礼という位置付けに過ぎませんでした」


「つまり、これまでの物品の移動は、国家間における正式な貿易や協定に基づいた交易ではなかったということだな」


「左様でございます」


「ならば、我々は今後はどのような関係性と手続きを構築すべきだと考えているのだ?」


外務省の担当者に代わり、神崎が静かに、しかし確かな意志を込めて口を開いた。


「我々が今後も医療や防衛の現場でポーションを必要とし、安定的に調達することを望むのであれば、アルディア王国側に対しても一方的な好意に甘えることなく、相応の価値を持つ対価を対等に提示する必要があります」


総理が深く頷く。


「最大の問題は、その対価として我々が彼らに何を提供できるか、という点だ」


重苦しい沈黙が、再び会議室全体を支配する。


現在の技術的・物理的な制限として、日本から異世界であるアルディア王国へ物質そのものを転送・送信することは不可能であった。


現代のスマートフォンに突如として現れた正体不明の特殊な通信チャンネル。


その不思議な接続を通じてのみ、両世界は音声や映像によるリアルタイムの会話を行うことができた。


そして、アルディア王国側からは特定の条件下で日本側へ物品を送り届けるという一方的な転送現象が確認されている。


しかし――。


日本側からアルディア王国に向けて、物理的な物体や物質を逆送することは、どのような手段を用いても不可能な状態であった。


そのため、地球上の通常の国際貿易のように、現代の通貨や金銀財宝、あるいは工業製品などの物資を送り届けることによって対価を支払うという手段は、物理的に端から閉ざされていたのである。


「となると、物理的制約がある以上、こちらから提供できる対価の選択肢は極めて限定的なものにならざるを得ないな」


経済産業省の幹部が、腕を組みながら苦々しい表情で呟く。


「ですが、我々にできることが完全に何もないわけではありません」


それまで静観していた農林水産省の担当者が、入念に準備された厚い資料を開いた。


「我が国日本には、物質を送れずともアルディア王国へ提示し、彼らの社会を劇的に発展させ得る決定的な『知識と情報』が存在します」


「例えば、どのようなものだ?」


「最も価値が高く、即効性があるのは農業技術でございます」


会議室にいた全員の視線が、一瞬にして農林水産省の担当者へと集中する。


「ただし、誤解のないようあらかじめ申し上げますが、まだ実際にそうした技術を提供したわけではありません」


担当者は語気強めに、誤認を防ぐための重要な前提を明確に付け加えた。


「これまでアルディア王国側へ我が国の高度な農業技術やノウハウを伝授したという事実や実績は一切ございません。あくまで、今後の本格的な交易における対価の候補として提案するものでございます」


「具体的には、どのような技術の提供を想定しているのだ?」


「単位面積あたりの収穫量を爆発的に安定させる栽培手法、長期的な連作障害を防ぐ土壌管理技術、有機・無機肥料の効率的な配合と使用法、土地の地力を維持する輪作体系、科学的な病害虫対策、効率的な水引きを行う灌漑技術、優秀な品種を残す種子の選別法、そして収穫した食料を長期間劣化させずに蓄える食品保存技術など多岐にわたります」


「なるほど……実に理にかなっている」


「これらの技術体系や知識は、物理的な物品や機械そのものをあちらの世界へ送る必要が全くありません」


担当者が確信に満ちた声で説明を続ける。


「我々が通信を通じて論理的かつ具体的に手順を説明し、アルディア王国側が自国の圃場や環境に合わせてそれを現場で実践する。そうすれば、日本から物理的な資材を送ることができずとも、彼らに対して国家規模の莫大な実質的利益と食料安全保障を提供することが可能となります」


神崎もその提案に強く賛同し、深く頷いた。


「提供できるものは農業技術だけにとどまりません」


「公衆衛生の概念、上下水道の構築理論、感染症予防のノウハウ、食品加工や長期保存の技術、土木建築の基礎構造理論、効率的な教育制度、さらには自然災害に対する防災知識に至るまで――日本が長年培ってきた膨大な『体系化された知識』そのものが、何物にも代えがたい極めて価値の高い対価となり得るのです」


「つまり」


総理が全体の意見を整理するように言った。


「我が国からは目に見えない『高度な知識と技術』を提供し、アルディア王国からは目に見える異世界の貴重な『物質』を提供してもらう」


「はい、その相互補完的な構造こそがベストです」


「これならば、物理的な物品を送れないという我々の致命的な制約を、逆に優位な交渉材料として利用できるわけだな」


会議室に集まった幹部たちの数人が、感銘を受けたように大きく頷いた。


「では、肝心のポーションの年間供給量や調達ペースについてはどう交渉を進めるつもりだ?」


防衛省の幹部が、現実的な運用面を見据えて鋭く尋ねた。


「まずアルディア王国におけるポーション全体の年間生産量や、あちらの国内における医療・軍事的な配給状況を正確に把握する必要があります」


外務省の担当者が即座に答える。


「仮に中級ポーションや初級ポーションが向こうの世界では一般的な医薬品であったとしても、一国家として他国へ大量に輸出できるほどの生産上の余裕が常にあるとは限りません」


「もしもあちらの国民や兵士が必要としている分のポーションまで日本が強引に買い取ってしまうような事態になれば、相手国との信頼関係の破綻や現地での混乱を招き、当然ながら重大な外交問題へと発展する」


「はい、まさにその通りでございます」


神崎が静かなトーンで言葉を重ねる。


「我々が求めるべきなのは、アルディア王国の国内医療や治安維持を圧迫するような暴力的かつ過剰な大量供給ではありません」


「まずは、向こうの国内需要を完璧に満たしたうえで、なおかつ余剰となる生産分を、我が国との交易枠として回してもらえるかどうかを確認すべきです」


「そして、実際に確保可能なポーションの供給量に応じて、日本側から提供する農業技術や各種知識の範囲・深さを柔軟に調整していくのが極めて誠実な外交方針と言えます」


総理は深く頷き、確信を持って応じた。


「それが国家間の交際として最も妥当であり、永続的な関係を築く道だろう」


「はい」


「では、アルディア王国側との今後の具体的な交渉においては、具体的にどのような項目をヒアリングするのだ?」


外務省の担当者が、整理された手元の打診リストを確認しながら読み上げる。


「第一に、アルディア王国におけるポーション全体の国内年間生産量」


「第二に、彼らの社会において不可欠とされる国内での年間消費量」


「第三に、自国消費分を差し引いたうえで国外へ継続的に供給可能な余剰量」


「第四に、我が国へ供給可能なポーションの種類、効果のランク、および品質の安定性」


「第五に、それらの対価としてアルディア王国側が今最も強く求めている知識や技術の分野」


「そして、最も重要な第六の項目として――」


神崎が外務省担当者の言葉を引き継ぎ、強調するように言った。


「一回限りの取引ではなく、長期にわたる継続的かつ安定的な交易体制が構築可能なのかどうか、という点です」


総理が重々しく頷いた。


「一度だけポーションをまとめて譲り受けて関係が途切れてしまったのでは、我が国の医療革命や防衛構想にとって何の意味もなさない」


「はい」


「我々が真に必要としているのは、途絶えることのない安定した資源調達のホットラインなのだ」


総理はそこで一度、手元の機密資料へゆっくりと視線を落とした。


「そして……最後にして最大の難問が、この異世界の存在とポーションの効能に関する、国際社会および国民への公表のタイミングだ」


読んでいただきありがとうございます!

もしおもしろいと思ってくれた方はぜひブクマ登録と評価お願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ