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三月

 先月から、王様はほんの少し変わりました。


 多忙な公務も積極的にこなすようになりました。大臣のお小言に口答えしなくなりました。民との謁見の時間でもただ聞くだけでなく時には自ら質問するようになりました。


 その変化に最初に気付いたのは大臣でした。けれど、何も言いませんでした。

 次に気付いたのは、王様自身でした。だけどやっぱり、誰にも言いませんでした。

 そうしてちょっぴり、笑顔の数が多くなりました。


 季節はもうじき春。固く凍った土から、元気な芽が顔を出すようになりました。

 テラスに出てももう寒くはありません。ほがらかな西風に王様は、思わず目を閉じ、澄んだ空気を思い切り吸い込みました。


「では王様、失礼してお髪を整えさせていただきたく思います。いつものように、あごのラインで……」

「あ、それだがな床屋、」


 王様は軽く片手を上げて制止すると、ぷらぷらと揺らしていた脚をぴたりと止めました。


「今回は、いや、今回から、少し髪型を変えようかと思う」

「そう、でございますか?」


 ぱちくりと空色の眼を見開く床屋に、王様はどこか誇らしげに胸をそらして見せました。


「ああ、僕も来月で十六だからな。いつまでも子供じゃないんだ、もっと大人っぽい髪型にしたいと思ってな」


 とは言いつつも、すみれ色の大きな瞳をきらきらさせる様子はやっぱりやんちゃな子供のままです。けれど床屋は彼を笑ったりせず、穏やかに微笑んで言いました。


「しかし王様、今の髪型もとても似合ってらっしゃいますが?」

「そうか? でも、少し子供っぽくはないか?」

「急いで大人にならなくとも良いではないですか」


 控えめな言葉に、王様はきょとんと床屋を見上げました。床屋はアイスブルーの眼にまっすぐ王様の顔を映して、もの柔らかな笑みを浮かべていました。


「王様の歩む一歩一歩、全てに意味があるのです。走る必要など、どこにございましょう」


 こんなとき、王様は困ってしまうのです。王様の長い耳は、ふにゃりと甘えたように伏せってしまうのです。


 床屋の視線から逃げるように、王様はぱっと顔を伏せました。どきどきどきどき、左胸がなんだかやかましくて仕方ありません。床屋は温和に微笑んだまま、さらりとこんなことを言い出しました。


「しかし、髪を短くされるとなると寂しくなりますね」

「? 何がだ?」

「今まではひと月に一度、参城させていただいております。しかし今後はそれほど頻繁に髪を整える必要はなくなりますから、もっと長い期間を置いて……」


 王様の手から手鏡がこぼれかけ、王様は慌ててわたわたとそれを拾い上げました。


「あっ、いや、やはりこの髪型の方が耳も隠しやすいからな! もうしばらく……い、いや、ずっとこのまま、この髪型でいようと思うぞ! うむ!」


王様が早口にまくし立てると、床屋はやっぱり涼しい顔で、「左様ですか?」と尋ねました。そうしてその目を細めると、感慨深げに頷きました。


「しかし、大人っぽくなりたいと仰られるとは。王様も、いよいよ下の毛が生え

「大臣。打ち首だ」

「御意」

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