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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

テセウスの船

作者: 福禄寿
掲載日:2026/04/08

 サイレンの音が鳴り響く。どうやら通報されたらしい。


「こいつはまいったな、自分で自分を殺害するなんて初めてのことじゃないか?」


 目の前には自分の見た目をした男が倒れている。失敗だっただろうか、せっかくもう一人がいなくなったというのにこれでは捕まってしまう。まあいい、どうせ寿命なんてものからは解き放たれたのだ。気長に豚箱暮らしを楽しむとしよう。



                  ◆



 どうにも信仰というのが肌に合わない。なぜあんなあやふ


「以上で終わります」


 授業が終わったようだ。思わず思考がトリップしてしまうほどに話のつまらない教授である。とりあえず隣でグースカ寝ている春宮を起こす。


「やあ、渋川。また不毛なことを考えていたのかい?」

「いちいちそんなことを言わないと会話が始められんのか、寝坊助。いいからなんか食いに行くぞ」

「はいはい、ご承知いたしました」


 大学生、と言ってしまえば聞こえはいいが、こうダラダラしているだけという割には金もかかるなんともいえぬ職業というか肩書である。まともに研究をやってる奴なんてどの程度の割合なのだろうか。


「さっきの教授、心理学の権威らしいよ。何やったんだろうね?」

「寝てた奴にそんなことを言われてもな」

「いやあ、全く話を聞いてなかったもんだからしょうもないことなのか判別できないんだよね」

「気になるなら聞けばいいだろうに」

「だから今こうして君に聞いてるんじゃないか」

「バカ言え、こっちだって話聞いてないのは同じだ」

「そんなこと言ったって起きてたんだから多少はわかるだろう?」

「面倒くさい奴だな、〜〜」


 春宮は横でニコニコしながら聞いている。要領を得ない、しかも断片的な話を聞いて何が楽しいのだろうか。




 カフェで軽く食事をとった後家に帰ると、何か封筒が届いていた。題目は『被験者へのご招待』とあった。とりあえず封を切ると中には折り畳まれた紙っぺらが一枚入っているだけだった。


「どうも怪しい封筒だな」


 そこには招待条件として「不死を望んでいるわけではないこと」、「絶対神を信じていないこと」、「詳細の説明会は⚪︎月⚪︎日、××ホール」などと書いてあった。見た瞬間にどうやらマイナーな掲示板に適当に貼ってあったアンケートの結果であることが思い浮かんだ。暇つぶしに答えたアンケートではあるが、嘘はついていないのでおそらく適合しているのだろう。××ホールはどうも近場のようであったし、ちょうど明日は暇だから行ってみることにしよう。




 翌日、××ホールに着くと驚くべきことに春宮もいた。あのアンケートは送りつけたし、考えも似ているから招待が届いているのではないかと思っていたが、来るとは思っていなかった。まあもう説明が始まる様であるし声をかけるのは終わった後でもいいだろう。


「皆さんようこそお越しくださいました。私は××研究所の広報を務めている者でございます」


 一応と言わんばかりのまばらな拍手が鳴り響く。××研究所なんて聞いたことがあるようなないような名前である。どうも集まったのは20人程度のようだ。


「それでは早速でございますが、説明に移らせていただきます。今回皆様にご参加いただきたいのは、身体の機械化による寿命延長の実験でございます。我らが××博士はすでに機械化を行い研究を進めておられます。極秘の内容ですのでこれ以上の情報は実験に同意した方にのみお伝えさせていただきます」


 会場がざわめく。情報が抽象的すぎて頭が追いつかない。すでに半分程度の人は席を立っており、残りは今にもため息を吐かんばかりに落胆している。当然だ、せっかく多少の期待を込めてきたら何も得られなかったのだから。


「同意される方は前にて手続きがございます」


 一度春宮のところに行ってみようとしたが、見当たらない。どうやらこちらに気づかず出て行ったらしい。どうせ退屈な毎日であるし、やってみることにして前に向かう。


「契約内容を教えていただいてもいいですか」

「はい。守秘義務と定期的なテストの義務のみとなります。契約中は一定の金額が支払われます」

「一定の金額というのは?」

「毎月、金10g分を時価で口座に振り込ませていただきます」


 高すぎるリターンを怪しむべきなのだろうが、こんなに面白そうなこと、受ける以外にないだろう。


「契約に同意しましょう。サインはどこに?」

「こちらへ。それでは内容をしっかりご説明させていただきます。」


 どうやら体を少しずつ機械へ入れ替えるのとともに脳を機械に写しとるというものであるようだ。最終的には食事も出来るがとにかくエネルギーを摂取すればよくなるとのこと。右脳と左脳の間に板のようなものを入れつつ先端から機械に置き換えてゆくらしい。


「時間がかかる作業になりますから、一部ずつ、5年から10年程度かけて馴染ませながら機械へ置き換えていきます」




 置き換えを始めてしばらくが経ち、四肢が機械化した。生活に大きな変化があったわけでもなく、同じようにダラダラしていたらもう大学を卒業することになった。


「一応お互い留年はせずに済んだな、春宮」

「まあ単位も卒論もギリギリだったけどね〜。出席点が全ての元凶だよ」

「卒業できたんだからいいんだろう、就職先は違うからあんまり会わんだろうが元気でな」

「そうだね、ところで実験は順調なのかい?」


 突然のことで冷や汗が走る。あのとき俺がいるのに気づいていなかったのではなかったか。


「んな抽象的な質問じゃ何も分からんぞ」

「そうだよね、よかった。じゃあ、またね」


 バレずに済んだようだ。しかし、こんなことで誤魔化せるほど鈍いやつだっただろうか。どうにも腑に落ちないが、まあいいだろう。次の消化管、というか胴体の取り替えはまだ先だ。意識していないと四肢が機械であることを忘れそうなほどだ、まあおそらく上手くいくだろう。




 今日はついに脳を機械化する日である。長い間思考を読み込ませ続けて記憶が終わったということらしい。


「それでは始めるぞ。大丈夫、私も経験した道だ」

「いざとなると流石に緊張するものですね」

「初回に腕を切り落としたときより動揺しているように見えるな」

「そりゃあそうでしょう、分かってはいても全身機械っていうのはどうにもね」

「まあいい、終わったら感想を聞かせてくれ」


 麻酔が効いてきたようだ。




 目が覚めた。違和感は特に感じない。


「大丈夫そうです。とりあえず暮らしてみることにします」

「それがいい。成功していればこれまでと同じように疲れにくくなっているだろう。また経過観察で来てもらうことになる」

「ええ、分かっていますよ。では、また」


 実際、気分は爽快であるし、生まれ変わったような気分だ。しばらく休みをとっているから、出かけることにしよう。




「全く、これでようやく生身の部分を全て取り出すことができた。これを組み上げることができればオリジナルはこちらだ。ちょうどいい比較実験ができるだろう。」




 目が覚めた。違和感は特に感じない。


「何日か経ってしまっているが、問題ないか」

「大丈夫そうです。とりあえず暮らしてみることにします」

「それがいい。成功していればこれまでと同じように疲れにくくなっているだろう。また経過観察で来てもらうことになる」

「ええ、分かっていますよ。では、また」


 特に変化は感じない。これが成功していることの一番の証明であろう。どうせ休みなのだ、遊びに行くとしよう。



 出先から最寄駅に帰ってくると、自分と全く同じ見た目をした人間がいた。見た瞬間に理解した、してしまった。アレの存在を許してはいけない、本能が警鐘を鳴らしている。手元にナイフはあっただろうか。



                   ◆



「いやいや、まさか刺し合うとはね、それも両名とも。」


 やはりああいう思想を持っていると考えがそうなるのだろうか。いや、もしかすると私が二人分の研究を進められると大喜びしていたのがおかしいのかもしれんな。


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