第三の選択肢
掲載日:2026/06/21
私は人を殺してしまった。
それは、私にとって大切な人だった。
だが、私には記憶がない。
彼を殺した記憶がない。
だから、本当に私が彼を殺したのかどうか、
私自身にもわからない。
ただ茫然としていた。
胸の奥にあるのは喪失感だけ。
頭の中は空っぽだった。
そのとき――
天使が舞い降りてきた。
天使は私の耳元で囁く。
「あなたのせいではない」
私は顔を上げた。
天使の顔を見て息を呑む。
それは、私が殺したはずの彼の顔だった。
今、彼の顔は二つ存在している。
一つは、私の目の前に転がる、
瞳を開いたまま動かない彼。
もう一つは、
翼を広げ、身体を光に包まれた天使の彼。
では、どちらが本物なのだろう。
私は考える。
長く、深く考える。
そして答えに辿り着いた。
本物とは、
私が正気だった頃に見ていた彼の姿だ。
ならば、答えは簡単だった。
この二つの中に本物はいない。
死体でもない。
天使でもない。
正解は、第三の選択肢だった。
そう。
彼とは――私自身だったのだ。




