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人類保全  作者: wwaabb
9/11

第10話 押してみただけです

巨大な円筒穴の縁は、静かだった。


恒星規模かもしれない痕跡の前に立っているのに、

やっていることは地味だ。


黒川は塊をケースから出し、手のひらで転がしている。


「軽くはないですね」


航田が覗き込む。


「いや軽かったらそれはそれで怖いですよ。

 ふわって浮いたらどうします?」


「重力は一定です」


理央が即答する。


棚橋が手を伸ばしかけて、引っ込める。


「触っていいですか?」


黒川は短く言う。


「落とさないでください」


棚橋は慎重に受け取る。


両手で持つ。


少し緊張している。


「……意外と普通ですね」


言った瞬間、足元の小石につまずく。


「あっ」


ゴンッ。


塊が地面に当たる。


全員が固まる。


「すみません!」


棚橋が慌てる。


航田が笑いをこらえる。


「いきなり恒星文明の遺物破壊ですか?」


「遺物って決まってません」


理央が冷静に訂正する。


黒川は塊を拾い上げる。


表面が、わずかに凹んでいる。


「……?」


棚橋が覗き込む。


「柔らかくなってません?」


「衝撃による微細破断の可能性があります」


理央が言う。


だが、黒川は違和感を覚える。


凹みが、均一すぎる。


黒川は親指で押してみる。


少しだけ、沈む。


「押せます」


航田が目を丸くする。


「え、押せる石?」


棚橋が言う。


「それ、石って言っていいやつですか?」


黒川は力を込めすぎないように押す。


沈む。


だが、流れない。


粘土のようで、粘土ではない。


理央がセンサーを向ける。


「内部構造、変化しています。

 分子配列の再編……いや、待ってください」


航田が言う。


「え、やばいですか?爆発とかしませんよね?」


「しません」


理央は即答するが、少し早い。


黒川は指を離す。


数秒。


凹みが、ゆっくり戻る。


「……戻った?」


棚橋が目を見開く。


「戻りましたね」


航田が興奮する。


「もう一回!もう一回やりましょう!」


「実験ではありません」


理央が言う。


だが視線は塊に釘付けだ。


黒川は今度は両側から押す。


角度を変える。


圧力を抜く。


戻る。


しかも、最初より硬い。


棚橋が言う。


「これ、さっきより叩いたときの音、変わってません?」


航田が軽く叩く。


コツン。


さっきより高い音。


理央が小さく呟く。


「圧力履歴で強度が変化している可能性があります」


棚橋が笑う。


「押すと直るとか、便利すぎません?」


航田がすぐ乗る。


「名前つけましょうよ。

 押し直す……オシナオスン?」


理央が一瞬だけ眉を寄せる。


「命名は早計です」


黒川は塊を見つめる。


巨大な穴。


恒星規模の痕跡かもしれない場所。


その縁に転がっていた、小さな塊。


それが、押すと性質を変える。


棚橋がぽつりと言う。


「これ、さっきの穴の副産物だったら」


航田が笑う。


「観光地のゴミですか?」


理央が静かに言う。


「ゴミであっても、

 原理は恒星規模かもしれません」


黒川はケースに戻す。


「持ち帰ります」


軽い発見のはずだった。


だが。


恒星規模の痕跡の縁に落ちていたものが、


人類の手の中で、

簡単に形を変える。


黒川は穴を振り返る。


もしこれが“ついで”なら。


本気は、どこにある。


宇宙服の内部で、

心拍数だけが少し上がっていた。

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