第7話 最初の星
降下が終わる。
外は、灰色の地表だった。
起伏は少なく、遠くまで同じ景色が続いている。
誰かが言った。
「……静かですね」
黒川は判断を急がなかった。
良いとも悪いとも言えない。
初めて降りる場所だ。
ただ、余計なものがない。
観測準備が始まる。
その横で、物資担当の棚橋余が、
慎重に足を下ろした。
「情報、少ないですね」
「ええ」
黒川は足裏で地面を確かめる。
硬い。
沈まない。
棚橋は苦笑する。
「俺、情報多いとダメなんですよ」
黒川は何も言わない。
棚橋は続ける。
「前の職場で、
品番が一文字違いの部品がありまして」
「Oと0。
フォントが同じで、
ほぼ区別つかないんです」
黒川は頷く。
「棚番も隣。
箱も同じ色。
棚の奥で影になってて」
少し息を吸う。
「午後便に間に合わせろって
言われてて」
「確認は?」
「型番は見ました。
ちゃんと見たつもりでした」
棚橋は視線を落とす。
「でも、
合ってる方に
見えたんですよ」
灰色の地面に、
二人の影が落ちる。
「怒られました。
“注意力が足りない”って」
黒川は足を踏み直す。
硬い。
「見分けにくい表示でしたか」
棚橋はうなずく。
「はい」
黒川は視線を上げないまま言う。
「それは、
直すべき部分です」
遠くまで同じ景色。
「人を責めるより、
構造を直した方が
長く動きます」
棚橋は少しだけ笑った。
「前の職場では、
直りませんでした」
「簡単なのは、
人を叱ることですから」
灰色の星は、
何も主張しない。
似たものもない。
紛らわしい表示もない。
「……間違えにくいですね」
「ええ」
「沈み、ないですね」
黒川は頷く。
「戻れなくなる感触ではありません」
灰色の地面は、
ただそこにある。
余計なものを与えない。
棚橋の足取りは、
わずかに軽くなっていた




