第49話 気持ち悪いもの
船はまだ流されている。
だが。
流れは少しだけ乱れている。
理央が言う。
「進行率、44%」
さっきより遅い。
止まってはいない。
だが。
鈍っている。
充が言う。
「ノズル二番、17%」
下がり続けている。
完全に持っていかれる前に。
終わるかどうか。
誰も分からない。
氷室が言う。
「さっきの、効いてたな」
壁を触る。
一体化しかけていた感触。
ほんの少しだけ、戻っている。
完全ではない。
だが。
違う。
棚橋が破片を見ている。
小さい。
黒い。
だが。
確かに“噛む”。
「もう一回いきますか」
黒川が言う。
「やる」
短い。
理央が言う。
「同じ場所は効きが落ちます」
「分散させます」
航田が言う。
「流れ見ます」
主語はない。
だが。
誰も聞き返さない。
のどかが言う。
「体、持ちます」
少しだけ強がりが入っている。
充が言う。
「電力、任せてください」
黒川が言う。
「いい」
「短くやる」
それで揃う。
氷室が境界を見つける。
さっきとは別の位置。
まだ“揃っていない場所”。
そこに押し当てる。
棚橋が破片を構える。
12N。
揺れ。
0.02Hz。
電力。
流れる。
三条件。
揃う。
カチ。
また硬くなる。
その瞬間。
構造が、わずかに歪む。
理央が言う。
「乱れ、確認」
航田が言う。
「流れ、ずれた」
充が言う。
「吸われ方、変わります」
ほんのわずか。
だが。
確実に。
外部の“処理”が乱れる。
黒川が言う。
「いい」
「続けろ」
短い。
だが。
そのとき。
理央の声が変わる。
「……反応、来ます」
画面が更新される。
・状態:再評価中
沈黙。
のどかが言う。
「心拍、乱れます」
0.02Hz。
崩れる。
0.018。
0.025。
揺れる。
氷室が言う。
「来るぞ」
次の瞬間。
船体に圧がかかる。
さっきより強い。
12Nじゃない。
もっと。
棚橋が歯を食いしばる。
「……重い」
理央が言う。
「入力、増えてます」
三条件。
強化される。
揺れ。
電力。
圧力。
全部。
上がる。
充が叫ぶ。
「供給、勝手に上がってます!」
0.00025%。
越える。
0.00028%。
0.0003%。
理央が言う。
「上限!」
氷室が言う。
「やめろ!」
棚橋が破片を離す。
だが。
遅い。
その瞬間。
世界が一瞬、止まる。
音が消える。
心拍が揃う。
完全に。
0.02Hz。
そして。
理央が呟く。
「……見られてる」
画面が変わる。
ログではない。
言語でもない。
だが。
意味だけが伝わる。
・異常検知
・局所抵抗確認
・対象:非適合
誰も動けない。
氷室が言う。
「これ」
小さく。
「完全に」
言い切らない。
だが。
分かる。
黒川が言う。
「バレたな」
短い。
その瞬間。
圧が消える。
揺れも戻る。
0.02Hz。
五十秒。
安定。
だが。
空気が違う。
さっきまでと。
理央が言う。
「進行率、更新」
全員が見る。
・進行率:52%
上がっている。
さっきより。
速い。
充が言う。
「……加速してる」
棚橋が言う。
「やばいですよね」
誰も否定しない。
航田が言う。
「対応変わった」
主語はない。
だが。
意味は明確。
のどかが言う。
「体、きついです」
さっきの“楽”は消えている。
今は。
重い。
圧がある。
氷室が言う。
「選別入ったな」
短い。
黒川が言う。
「だな」
理央が画面を見る。
更新されている。
・状態:再評価中
・分類:非適合
その下。
新しい項目。
・処理方針:排除
沈黙。
棚橋が言う。
「……排除?」
誰も答えない。
答えは分かっている。
航田が言う。
「ここ」
少しだけ間を置かず続ける。
「設備ですよね」
黒川が言う。
「そうだな」
短い。
「工場だ」
氷室が言う。
「不良品、弾くやつだ」
充が言う。
「ライン外すやつですね」
理央が言う。
「均質化できない対象」
のどかが言う。
「……いらないもの」
棚橋が、ぽつりと言う。
「それいるの?」
誰も答えない。
今度は。
答えが出ない。
黒川が前を見る。
何も見えない。
ただの壁。
だが。
そこにある。
見えない“意思”。
人間が家で。
小さな虫を見つけたときのような。
一瞬の判断。
気持ち悪い。
いらない。
排除する。
黒川が言う。
「いい」
低い。
「分かった」
短い。
「俺たちは」
誰も続きを言わない。
だが。
全員が理解している。
ここは。
探索の場所じゃない。
歓迎される場所でもない。
ただの。
設備だ。
そして。
自分たちは。
そこに入り込んだ。
“異物”だ。
理央の画面。
進行率が、また上がる。
55%。
止まらない。
もう。
向こうは。
迷っていない。
処理は。
決まった。




