第48話 持っていたもの
船は流されている。
変わらない。
だが。
中身は変わり続けている。
理央が言う。
「進行率、34%」
静かに上がる。
止まらない。
充が画面を見たまま言う。
「ノズル二番、20%切ります」
19%。
18%。
削れているわけじゃない。
持っていかれている。
使われている。
氷室が壁を触る。
「完全に別物だな」
もう元の感触じゃない。
弾性が違う。
返りが速い。
「一体化してる」
誰も否定しない。
のどかが言う。
「体もです」
違和感が消えている。
呼吸が楽だ。
心拍が揃う。
50秒。
それが普通になる。
「これ」
小さく続ける。
「このままの方が、楽です」
危ない言葉だ。
黒川が言う。
「楽な方は、大体ダメだ」
短い。
それでいい。
理央が言う。
「境界、縮小しています」
画面に表示される。
変化しない領域。
さっきより小さい。
じわじわ。
削られている。
航田が言う。
「時間ないですね」
主語はない。
だが。
全員同じことを考えている。
全部揃う前に。
何かする必要がある。
充が言う。
「止めますか」
黒川は即答しない。
止められる。
だが。
止めた瞬間。
どうなるか分からない。
理央が言う。
「干渉は危険です」
「上限、まだ見てません」
オシナオスンのとき。
0.0003%。
あの先。
誰も知らない。
氷室が言う。
「でもこのままもダメだ」
現場の判断。
正しい。
棚橋がずっと黙っている。
ポケットに手を入れたまま。
握っている。
黒川が見る。
「何だ」
短い。
棚橋は少し迷う。
視線が泳ぐ。
言うか。
言わないか。
でも。
時間がない。
取り出す。
小さな破片。
米粒より少し大きい。
黒い。
理央がすぐに反応する。
「それ」
オシナオスン。
充が息を止める。
「持ってたんですか」
棚橋は頷く。
「……捨てなかった」
誰も責めない。
責める時間がない。
氷室が言う。
「同じ挙動するか」
理央が言う。
「条件が揃えば」
三つ。
押す。
揺らす。
電力。
黒川が言う。
「今、全部あるな」
誰も否定しない。
船全体がそうなっている。
なら。
ここでも。
起きる。
棚橋が言う。
「これ」
手の中で軽く押す。
柔らかい。
揺れに合わせる。
0.02Hz。
充が言う。
「電力、来てます」
勝手に供給されている。
三条件。
揃う。
次の瞬間。
破片が変わる。
カチ。
硬い音。
理央が言う。
「固定」
表面光沢が変わる。
弾性係数上昇。
小さい。
だが。
明確。
氷室が言う。
「完全に同じだ」
オシナオスンと。
棚橋が言う。
「じゃあ」
少し間を置かず続ける。
「これ、逆に使えませんか」
全員が見る。
黒川が言う。
「どうやって」
棚橋はうまく言えない。
だが続ける。
「向こうが使ってるなら」
「こっちも使える」
航田が言う。
「位相、合わせる?」
理央がすぐ理解する。
「逆位相」
充が言う。
「干渉させる」
氷室が言う。
「局所で崩す」
黒川が言う。
「できるか」
理央が答える。
「分かりません」
正直だ。
だが。
選択肢は少ない。
画面が更新される。
・進行率:38%
上がる。
止まらない。
のどかが言う。
「体、さらに揃います」
時間がない。
黒川が言う。
「やる」
短い。
棚橋が破片を握る。
「どこに当てる」
理央が言う。
「境界」
変化していない部分。
そこ。
氷室が動く。
固定。
押し当てる。
12N。
揺れ。
0.02Hz。
電力。
流れる。
三条件。
揃う。
その瞬間。
破片がさらに硬くなる。
そして。
境界が、わずかに歪む。
理央が言う。
「変化、確認」
均一化の流れ。
一瞬だけ。
乱れる。
航田が言う。
「止まった」
ほんのわずか。
だが確かに。
進行が鈍る。
充が言う。
「効いてます」
黒川が言う。
「続けろ」
短い。
だが。
次の瞬間。
全体の揺れが強くなる。
0.02Hz。
崩れる。
0.03。
0.05。
理央が叫ぶ。
「位相、乱れます!」
のどかが言う。
「心拍!」
氷室が言う。
「やりすぎるな!」
棚橋が手を止める。
破片を離す。
揺れが戻る。
0.02Hz。
安定。
沈黙。
理央が言う。
「……局所干渉は可能」
黒川が言う。
「だが」
充が続ける。
「全体が反応する」
航田が言う。
「繋がってる」
主語はない。
だが。
意味は明確だ。
この構造は。
一体だ。
棚橋が破片を見る。
小さい。
だが。
確かに効いた。
黒川が言う。
「いい」
短い。
「武器になる」
誰も否定しない。
理央の画面。
更新。
・進行率:41%
止まらない。
だが。
さっきより、わずかに遅い。
完全ではない。
だが。
抗えている。
棚橋が小さく言う。
「それいるの?」
今度は。
答えがある。
黒川が言う。
「いる」
短い。
それで十分だ。




