第47話 適用
船体が、わずかに沈む。
0.98。
0.96。
戻る。
1.00。
揺れではない。
調整だ。
のどかが言う。
「来ます」
声が低い。
理央の画面が更新される。
・次工程:適用
・進行率:24%
数値は淡々としている。
だが意味は重い。
充が言う。
「電源、引かれます」
炉出力は変えていない。
だが。
分岐流が増える。
0.0006%。
0.0008%。
0.001%。
細く。
確実に。
「勝手に持っていかれてる」
黒川が言う。
「止めるな」
即答。
「干渉する」
充は頷く。
「はい」
止められる。
だが止めない。
止めたらどうなるか、分かっている。
理央が言う。
「分布、変わります」
画面が切り替わる。
船体全体。
温度。
応力。
電位。
色が揃い始める。
ばらつきが消える。
「均一化が始まってる」
氷室が壁を触る。
「……硬さも変わってる」
さっきまでの金属の感触。
少し違う。
弾く。
返る。
「馴染んできてる」
棚橋が言う。
「それ、まずくないですか」
誰も否定しない。
理央が言う。
「外部構造と応答一致」
0.02Hz。
五十秒。
完全同期。
のどかが言う。
「体も」
全員が見る。
「違和感、減ってます」
さっきまであった圧迫感。
消えている。
楽だ。
だが。
それが嫌だ。
航田が言う。
「合ってきてる」
主語はない。
だが。
全員が理解する。
“向こうに”。
黒川が言う。
「どこまでやる」
理央が答えない。
分からない。
だが。
止まらない。
画面がまた更新される。
・適用対象:局所構造
・範囲:拡張中
船体外周。
さらに内側。
じわじわと広がる。
充が言う。
「推進、さらに落ちます」
ノズル二番。
24%。
22%。
「接続されてる感じです」
壊れているのではない。
使われている。
氷室が言う。
「交換できないな」
ぽつり。
「これ」
少し間を置かず続ける。
「部品扱いされてる」
誰も否定しない。
棚橋が小さく言う。
「……それいるの?」
答えは出ない。
理央が突然言う。
「境界、あります」
全員が画面を見る。
船体の一部。
色の変化が止まっている場所。
「ここ」
局所的に。
変化しない。
充が言う。
「電位、違う」
氷室が触る。
「硬さも違う」
黒川が言う。
「そこが境界か」
理央が頷く。
「完全に取り込まれていない部分です」
航田が言う。
「時間の問題」
短い。
のどかが言う。
「体も同じです」
全員が止まる。
「同期してる部分と、してない部分」
「まだ混ざってる」
黒川が言う。
「全部揃ったらどうなる」
誰も答えない。
理央が画面を見る。
更新。
・進行率:29%
上がる。
静かに。
確実に。
そのとき。
船体に、軽い圧がかかる。
押される。
12N。
理央が言う。
「圧力」
氷室が言う。
「押してる」
同時に。
揺れ。
0.02Hz。
そして。
充が言う。
「電力、引かれてます」
三つ。
揃う。
棚橋が固まる。
「……それ」
誰も動かない。
理央が小さく言う。
「オシナオスンと同じ条件」
黒川が言う。
「そうだな」
短い。
船全体が、わずかに硬くなる。
音が変わる。
コン。
高い。
氷室が言う。
「固定されてる」
約三十秒。
誰も動かない。
動けない。
そして。
ゆっくり戻る。
柔らかさ。
元に戻る。
沈黙。
理央が言う。
「……使ってる」
黒川が言う。
「だな」
充が言う。
「俺たちを材料にしてる」
のどかが言う。
「体も対象です」
航田が言う。
「設備の中」
主語はない。
だが。
意味はある。
棚橋がポケットに触れる。
何も言わない。
小さな破片。
あれと同じ。
だが。
スケールが違う。
理央の画面。
更新。
・次工程:適用
・状態:進行中
・進行率:31%
止まらない。
黒川が言う。
「いい」
低い。
「分かった」
短い。
「俺たちは今」
誰も続けない。
だが。
全員が分かっている。
船は流されている。
巨大構造体の内部で。
材料として。
処理されている。
そして。
まだ途中だ。
終わっていない。
むしろ。
ここからだ。




