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人類保全  作者: wwaabb
44/49

第45話 中に入っただけ

船は止まっている。


進んでいる感覚はない。


だが。


位置は変わっている。


航田が言う。


「……流されてますね」


主語はない。


だが、誰も聞き返さない。


理央が観測を重ねる。


「相対速度、ゼロ近傍」


「でも移動しています」


矛盾している。


だが。


事実だ。


充が言う。


「推進、切ってます」


出力はゼロ。


それでも。


位置が変わる。


「外力」


黒川が言う。


理央が頷く。


「構造内部の流れです」


氷室が壁に手を当てる。


「押されてます」


わずかに。


だが確実に。


一定方向。


「搬送路ですね」


氷室が言う。


棚橋が反応する。


「ベルトコンベアみたいな?」


「近いです」


氷室は言う。


「止まらない」


黒川が短く言う。


「運転中だからな」


誰も笑わない。


理央が画面を拡大する。


「分岐流、維持」


0.0005%。


変わらない。


だが。


細分化されている。


一本ではない。


複数。


「……増えてます」


理央が言う。


充が見る。


「分割されてますね」


棚橋が言う。


「細かく見てるってことですか」


理央は少し考える。


「近いです」


航田が言う。


「スキャン」


短い。


氷室が言う。


「通過検査ですね」


その言葉で、空気が固まる。


黒川が言う。


「止められるか」


充が即答する。


「推進で逆らえます」


少し間を置かずに続ける。


「でも効率悪いです」


理央が補足する。


「周期と干渉します」


「乱れます」


のどかが言う。


「心拍、また揃います」


0.02Hz。


五十秒。


強制される。


黒川が言う。


「乱したらどうなる」


誰もすぐには答えない。


理央が静かに言う。


「さっきと同じです」


「暴れます」


氷室が言う。


「構造の方が強い」


黒川は頷く。


「だな」


航田が前を見る。


「……流れに乗るしかない」


主語はない。


だが決まる。


黒川が言う。


「乗る」


短い。


それでいい。


船は動いていない。


だが運ばれている。


巨大な設備の中を。


人間が乗る想定のない経路を。


棚橋がぽつりと言う。


「これ」


誰も見ない。


「完全にラインの上ですよね」


充が言う。


「止めたら詰まるやつです」


氷室が言う。


「止める前提じゃない」


理央が画面を見る。


ログが更新される。


・対象種別:構造外要素

・干渉レベル:高

・処理方針:最適化


その下。


新しい項目。


・処理段階:搬送


全員が止まる。


棚橋が言う。


「……搬送?」


理央が読み上げる。


「位置調整中」


充が言う。


「どこに」


誰も答えない。


航田が言う。


「行き先、決まってる」


黒川が言う。


「だろうな」


短い。


氷室が壁を叩く。


コン。


返ってくる。


50秒後。


同じだ。


「完全に同期してる」


氷室が言う。


理央が頷く。


「はい」


のどかが言う。


「心拍もです」


逃げられない。


合わせられている。


棚橋が言う。


「これ」


少し間を置かずに続ける。


「検査ラインの先って」


誰も言わない。


だが。


全員が想像する。


黒川が言う。


「まだ分からない」


それだけ。


だが。


嘘ではない。


理央の画面。


・進行率:18%


上がっている。


止まらない。


充が言う。


「時間、どれくらいですかね」


航田が答える。


「周期で動いてるなら」


少し考える。


「計算できる」


理央が言う。


「ログと一致させます」


氷室が言う。


「止まる場所、ありますね」


黒川が言う。


「ある」


短い。


棚橋が小さく言う。


「そこが」


誰も続きを言わない。


言う必要がない。


船は流されている。


巨大構造体の内部を。


目的地に向かって。


人間の意志とは関係なく。


そして。


その目的が何か。


まだ誰も知らない。


理央の画面が、また更新される。


・処理段階:搬送

・次工程:___


空白。


だが。


もうすぐ埋まる。


誰も口にしない。


だが全員が分かっている。


これはまだ途中だ。


終わりではない。


始まりでもない。


ただの。


工程の一つだ。

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