第37話 向いている
巨大構造体は、まだ動いている。
第二リング。
第三構造。
周期は安定。
0.02Hz。
そして180秒の長い波。
機械は、完全に目を覚ました。
だが。
理央が言う。
「流束方向」
黒川が聞く。
「何です」
理央は画面を拡大する。
流路ログ。
巨大構造体の内部を流れるエネルギー。
矢印が並ぶ。
全部。
同じ方向を向いている。
航田が言う。
「集まってる?」
理央が頷く。
「はい」
「中心方向へ」
氷室が内部から言う。
「配管、全部そっちです」
ライトで照らす。
螺旋構造。
曲がった流路。
どれも。
奥へ向かっている。
棚橋が言う。
「ポンプですね」
充が言う。
「それに近い」
航田が言う。
「吸い込んでる?」
理央が答える。
「はい」
少し間。
「巨大な吸収装置です」
黒川が窓の外を見る。
遠くの構造。
回転リング。
流路。
全部。
一方向。
宇宙の一点へ。
黒川が言う。
「つまり」
理央が答える。
「集めています」
充が計算を走らせる。
エネルギー流束。
規模。
恒星単位。
いや。
それ以上。
充が言う。
「これ」
少し止まる。
「星一個じゃ足りません」
航田が言う。
「どういう意味」
充が答える。
「複数恒星規模です」
沈黙。
氷室が内部装置を見ながら言う。
「黒川さん」
「はい」
「これ」
少し考える。
「宇宙の発電所じゃない」
理央が言う。
「はい」
氷室が続ける。
「もっと」
言葉を探す。
「大きい」
理央が窓の外を見る。
遠く。
構造体の奥。
まだ動いていない装置。
巨大な円環。
直径。
推定。
数百キロ。
理央が言う。
「この装置」
「まだ全部起動していません」
航田が言う。
「全部動いたら?」
理央は答えない。
代わりに画面を出す。
重力ログ。
空間歪み。
数値がわずかに変わる。
充が言う。
「重力レンズ」
黒川が聞く。
「何です」
充が答える。
「空間曲げてます」
航田が窓の外を見る。
星の並び。
少し。
歪んでいる。
さっきまではなかった。
光が曲がる。
ほんのわずか。
航田が言う。
「これ」
「宇宙の望遠鏡?」
理央が首を振る。
「違います」
「集めています」
黒川が聞く。
「何を」
理央が答える。
「光」
巨大構造体。
リング。
流路。
周期。
全部。
同じ方向。
遠く。
宇宙の一点へ。
理央が言う。
「恒星エネルギー」
航田が言う。
「つまり」
理央が続ける。
「星の光を集めています」
氷室が笑う。
「とんでもない設備だな」
棚橋が言う。
「宇宙の集光器?」
充が言う。
「それに近い」
黒川が言う。
「何のために」
誰も答えない。
だが。
一つだけ確かなことがある。
この設備は。
宇宙のどこかへ。
膨大なエネルギーを送ろうとしている。
理央が新しいログを見る。
そして言う。
「向きが決まりました」
黒川が聞く。
「どこです」
理央が窓の外を指す。
遠く。
暗い宇宙。
何もない場所。
だが。
構造体の全てが。
そこを向いている。
航田が言う。
「目標?」
理央が小さく言う。
「はい」
そして。
「送信先です」
宇宙の片隅。
人類の船。
巨大文明の設備。
その設備は今。
宇宙の一点へ向かって。
光を集め始めていた。
まだ弱い。
だが。
完全に起動すれば。
恒星規模のエネルギーが。
そこへ送られる。




