第31話 接続
氷室は、まだ中にいる。
黒い壁の内側。
宇宙服のライトが、曲がった構造を照らしている。
広い。
広すぎる。
船が丸ごと入っても、まだ余裕がありそうな空間だ。
理央が通信で言う。
「内部形状、更新します」
スキャンが走る。
曲面。
リング。
螺旋状の流路。
完全な直線が、ほとんどない。
氷室が言う。
「工場って感じじゃないな」
「どういう意味ですか」
理央。
「もっと」
氷室は言葉を探す。
「流れてる感じだ」
充が推進ログを見ている。
ノズル二番。
推力低下 35%。
数字は変わらない。
だが、別のログが増えている。
「……黒川さん」
「はい」
「出力の行き先、追えました」
全員が静かになる。
充は画面を拡大する。
推進系。
電磁加速。
粒子流。
その一部が。
外へ行っていない。
理央が言う。
「エネルギー流束、外部へ逸れてます」
黒川が聞く。
「どこへ」
充は答える。
「この構造体の中です」
沈黙。
航田が言う。
「吸われてるんじゃなくて」
少し間。
「流れてる?」
充が頷く。
「はい」
「接続されています」
氷室が内部構造を見る。
曲がった流路。
その奥。
リング状の装置。
周期的に光る。
0.02Hz。
五十秒。
氷室が言う。
「このリング」
「何ですか」
理央。
「流れてます」
「何が」
「分からん」
氷室は正直に言う。
「でも流れてる」
ライトを当てる。
微細な粒子。
いや。
波のようなもの。
装置の内側を回っている。
理央が息を止める。
「エネルギー循環構造」
「循環?」
「はい」
理央の声が少し速くなる。
「巨大装置の一部です」
黒川が言う。
「つまり」
充が答える。
「うちの推進ノズル」
少し間。
「補助電源みたいになってます」
棚橋が言う。
「勝手に?」
充が首を振る。
「勝手というより」
理央が言う。
「接続された」
船体の振動がわずかに変わる。
0.02Hz。
五十秒。
同期。
航田が小さく言う。
「俺ら」
少し考える。
「プラグ差した?」
誰も否定しない。
氷室がリング装置の近くを見る。
そこにあるもの。
小さい。
この巨大空間の中では、ほとんど見落とすサイズ。
だが。
明らかに。
何かが欠けている。
氷室が言う。
「……黒川さん」
「はい」
「ここ」
ライトを当てる。
リング装置の外周。
小さな窪み。
直径、数センチ。
だが。
そこだけ材質が違う。
理央がスキャンする。
数秒。
沈黙。
そして言う。
「同系材料」
「何と」
黒川。
理央が答える。
「オシナオスンです」
船内が静かになる。
棚橋の手が止まる。
物資棚の横。
ポケット。
そこにある。
米粒より少し大きい。
黒い欠片。
誰も知らない。
自分だけが拾ったもの。
「それいるの?」
誰にも聞かれなかった。
でも捨てなかった。
棚橋が小さく言う。
「……あ」
黒川が聞く。
「どうしました」
棚橋はまだ言わない。
窓の外。
巨大設備。
リング装置。
その窪み。
理央が言う。
「サイズ一致率」
計算が走る。
「92%」
充が低く言う。
「ほぼ確定ですね」
黒川が静かに言う。
「つまり」
少し間。
「ここに部品が入っていた」
氷室が言う。
「そして」
黒川が続ける。
「今は入っていない」
巨大構造体。
周期の乱れ。
船の接続。
出力吸収。
全部が、一本に繋がる。
理央が小さく言う。
「調整弁」
充が言う。
「レギュレーターかもしれません」
航田が言う。
「つまり」
少し考える。
「壊れてる」
氷室がリング装置を見る。
光は回っている。
だが。
どこか、ぎこちない。
50秒。
呼吸。
少し遅れる。
少し戻る。
氷室が言う。
「調子悪そうですね」
黒川が窓の外を見る。
宇宙の片隅。
人類の船。
七人のクルー。
そして。
レベル2文明の設備。
壊れているかもしれない。
黒川は言う。
「交換部品が必要です」
静かに。
棚橋の手が、ポケットに触れる。
米粒サイズの破片。
誰も知らない。
まだ。




