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人類保全  作者: wwaabb
26/49

第27話 擦過

揺れは、静かに終わった。


だが。


「……当たった」


航田が小さく言う。


衝撃は大きくない。


爆発もない。


だが船体のどこかを、確かに擦った。


低い振動が一度だけ走る。


ゴン。


それだけ。


宇宙では、その「それだけ」が重い。


警告灯が一つだけ点いた。


赤ではない。


橙。


充が画面を開く。


「……推進系」


静かな声。


「どうだ」


黒川。


「ノズル二番、推力低下」


「どのくらい」


「……35%」


船内が静かになる。


電気推進は冗長系がある。


だが。


効率は落ちる。


推進剤消費も増える。


帰りはない。


だが。


航行は、まだ長い。


黒川が言う。


「まず落ち着こう」


声は低い。


焦りを押さえ込む声だ。


「作業分担」


いつもの言い方。


それだけで、空気が整う。


「船体確認」


氷室が手を上げる。


「外、見ます」


即答。


現場の男だ。


「内部構造」


「俺」


黒川。


「推進系」


「……やります」


充。


「観測」


理央。


「医療」


「はい」


のどか。


「物資」


棚橋が言う。


「……俺、何見れば」


黒川が答える。


「全部」


棚橋は頷く。


それでいい。


外部カメラが開く。


映像が出る。


氷室が言う。


「……擦ってます」


船体外装。


装甲プレートが一枚。


削れている。


大穴ではない。


だが。


細い溝。


まるで。


ナイフでなぞったような。


「材質?」


理央。


「……分かりません」


氷室が言う。


「岩じゃない」


そのとき。


理央が、別の画面を見る。


「……待って」


全員が振り向く。


「外部地形」


窓の外。


さっきまで見えていた多面体構造。


あの黒い塊。


だが。


今見えているのは。


違う。


平面。


巨大な壁。


滑らかな面。


さっきの構造が、どこにもない。


「……おかしい」


理央が言う。


「外から見た形と一致しません」


航田が窓を見る。


目を細める。


「回転してる?」


「違う」


理央。


「形が変わってる」


黒川が言う。


「どういう意味だ」


理央はゆっくり答える。


「外から見えていた構造」


間。


「……覆われていた可能性」


氷室が呟く。


「隠されてた?」


誰も答えない。


充が突然言う。


「推進装置」


全員が振り向く。


「……変です」


「何が」


「ノズル二番」


画面を拡大する。


推力低下。


35%。


だが。


損傷ログがない。


衝突ログもない。


代わりに。


「出力、吸われてる」


「どこに」


充は首を振る。


「分かりません」


そのとき。


理央が静かに言う。


「周期」


0.02Hz。


50秒。


船体振動ログ。


そして。


外部構造。


同じ。


揺れている。


氷室が外壁カメラを動かす。


装甲プレート。


削れた溝。


その奥。


黒い面。


金属でもない。


岩でもない。


まるで。


内部構造。


棚橋が小さく言う。


「……それ」


誰も振り向かない。


棚橋は続ける。


「最初から、外殻だったんじゃないですか」


静寂。


つまり。


あの黒い多面体は。


本体ではない。


殻。


そして今。


彼らは。


殻の内側にいる。


船は静かだ。


だが。


揺れは続いている。


50秒。


呼吸。


構造。


同期。


そして。


推進装置が。


何かに。


触れている。


黒川が言う。


「いい」


低い声。


「まず船を直す」


保全の男の言葉。


未知文明でも。


宇宙でも。


やることは同じ。


「直せるかどうかを見る」


そして。


その後で。


「外を見る」


窓の外。


滑らかな壁。


無限に続く構造。


星ではない。


岩でもない。


惑星でもない。


それは。


何かの。


内部だった。


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