第21話 入力
保管庫のログが、三つ並んでいる。
圧力履歴。
振動波形。
電源負荷。
理央が無言で重ねる。
波形が、揃う。
0.02Hz。
五十秒。
充が言う。
「電源、0.00025%で周期一致してます」
棚橋が言う。
「押したときだけ、音変わりますよね」
氷室が低く言う。
「揺らしたとき、強くなる」
理央がうなずく。
「単独では弱い。でも、重なると固定する」
黒川が三つのログを見比べる。
押す。
揺らす。
少し食わせる。
短く言う。
「同時入力」
理央が言う。
「試しますか」
止めない。
まだ、止める段階ではない。
固定台にオシナオスンを置く。
棚橋が圧力をかける。
12N。
ゆっくり沈む。
理央が言う。
「保持、三秒」
充が微振動を与える。
0.02Hz。
人工的な五十秒。
充が続ける。
「電源、0.00025%」
供給が入る。
内部温度、+0.08℃。
弾性係数、上昇。
表面の光沢がわずかに変わる。
棚橋が叩く。
高い音。
さっきより明らかに硬い。
理央が息を呑む。
「固定化しています」
固定時間、約三十秒。
その間、衝撃応答は通常値の三倍。
氷室が低く言う。
「緩衝材に近い」
黒川は言う。
「一時的に、な」
三十秒後。
硬化はゆっくり戻る。
沈む。
元の弾性。
理央の目が光る。
「条件が揃えば、制御できます」
黒川は言う。
「上限を見る」
充が顔を上げる。
「安全域は」
理央が答える。
「0.0003%までなら」
黒川は一瞬だけ考える。
「短時間」
供給が上がる。
0.0003%。
その瞬間。
保管庫内圧が跳ねる。
0.02Hzが乱れる。
0.04Hz。
0.08Hz。
倍化。
外壁応力、上昇。
人工重力が揺れる。
0.99。
1.01。
のどかが声を上げる。
「心拍、揃います!」
理央が外部ログを見る。
円筒穴、螺旋構造。
位相ずれ。
温度、+0.2℃。
黒川が言う。
「止める」
充が供給を落とす。
振動が暴れる。
一瞬、無音。
そして、ゆっくり0.02Hzへ戻る。
人工重力、安定。
心拍、ばらける。
誰も喋らない。
理央の呼吸が速い。
棚橋の手が震えている。
黒川が言う。
「分かった」
短い。
「三つ揃えば固定する」
「上げれば、巻き込まれる」
氷室が言う。
「こっちが持たない」
黒川がうなずく。
「使えるが、危ない」
沈黙。
理央が言う。
「制御できれば」
黒川が遮る。
「制御できていない」
そして言う。
「封印する」
理央は目を伏せる。
充は即座に電源遮断。
氷室が三重ロック確認。
のどかが心拍安定を確認。
保管庫は静かになる。
振動は消える。
作業後。
棚橋は物資棚を整える。
封印ケースの番号を確認する。
固定台の下に、小さな黒い破片が落ちている。
実験時に欠けたものだ。
誰も気づいていない。
棚橋は拾う。
指で押す。
柔らかい。
振ると、わずかに硬くなる。
彼は周囲を見る。
誰も見ていない。
ポケットに入れる。
小さい。
米粒より少し大きい。
彼は小さく言う。
「それいるの?」
答えは出ない。
でも、捨てない。
余り物は、いつか役に立つかもしれない。
保管庫は沈黙している。
三条件が揃わなければ、何も起きない。
眠っているのか。
固定されているのか。
分からない。
黒川は保管庫から視線を外す。
「進む」
航田が航路を更新する。
次の星へ。
誰も知らない。
封印が完全ではないことを。
オシナオスンは眠った。
だが、条件は分かった。
押す。
揺らす。
少し食わせる。
それだけで、世界がわずかに変わる。
その上限も、知った。
それで十分だ。
船は進む。




