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人類保全  作者: wwaabb
18/49

第19話 切断の条件

五十秒。


保管庫の振動が刻む。


0.02Hz。


船の中は静かだ。


静かすぎる。


黒川は、点検表を閉じた。


異常なし。


異常がないのが、異常だ。


「医療ログ、安定です」


のどかが言う。


だが声は少し硬い。


「閾値内ですが、

 全員に周期性が残っています」


理央が補足する。


「位相は保管庫と一致」


氷室が腕を組む。


「手順では想定外です」


航田が言う。


「想定外、多いですね最近」


誰も笑わない。


黒川は保管庫を見る。


閉じている。


ロックは正常。


供給は、0.00025%。


振動は安定。


心拍も安定。


“安定”している。


黒川は、逃げ道を探す。


常にそうしてきた。


壊れたときの戻り方。


止めたときの影響。


切ったときの反動。


「切断条件を整理します」


黒川が言う。


全員が見る。


「第一条件」


短く区切る。


「生体への明確な有害影響」


のどかが頷く。


「現時点では未確認」


「第二条件」


黒川は続ける。


「船体構造への不可逆変化」


氷室が言う。


「未発生です」


「第三条件」


黒川は保管庫を見る。


「外部構造の急激な変化」


理央が即答する。


「現時点では微小応答のみ」


棚橋が小さく言う。


「じゃあ、切れないっすね」


黒川は頷く。


「切れません」


航田が言う。


「でも、つながってる可能性は」


黒川は遮らない。


「可能性はあります」


それで十分だ。


そのとき。


保管庫の振動が、わずかに乱れる。


0.02Hzが揺れる。


0.04Hzが、増幅する。


理央が言う。


「供給を0.0003%に上げました」


充が答える。


「安定域を探ってます」


黒川は言う。


「戻してください」


充が一瞬止まる。


「……まだ安全域です」


黒川は静かに言う。


「安全域は、広げない」


充は戻す。


0.00025%。


振動が落ち着く。


理央が言う。


「外部ログ」


円筒穴の螺旋構造。


微小なエネルギー流束が、

同じ周期で揺れる。


氷室が低く言う。


「協調しています」


棚橋が言う。


「向こうも安定してる?」


理央は答える。


「少なくとも、崩壊はしていません」


沈黙。


もし彼らが供給を止めれば。


振動は暴れる。


倍化する。


人の心拍が乱れる。


外部構造がどうなるかは、

分からない。


黒川は、保管庫に近づく。


手を触れない。


ただ、見る。


「……これは」


少し間。


「保全です」


氷室が目を上げる。


黒川は続ける。


「目的は不明。

 全体構造も不明。

 だが、劣化兆候があり、

 安定化手段が存在する」


理央が小さく言う。


「局所補修」


黒川は頷く。


「ただし」


声が低くなる。


「我々は依頼されていません」


棚橋が言う。


「勝手に直してるってことっすか」


氷室が言う。


「現場判断です」


少しだけ、口元が動く。


「氷河期世代の得意分野です」


航田が小声で言う。


「誰も頼んでないのに仕事してる」


「やめてください」


氷室は真顔だ。


のどかが言う。


「黒川さん」


「はい」


「周期が一瞬、ずれました」


全員の端末に、わずかな揺らぎ。


0.02Hzが、0.021に。


心拍も、微妙にずれる。


理央が言う。


「外部構造の位相が、先に変化しました」


黒川は即答する。


「供給維持」


充が頷く。


振動が、元に戻る。


0.02Hz。


五十秒。


揃う。


黒川は言う。


「切断はしません」


短く。


「ただし」


全員を見る。


「供給を増やさない」


氷室が頷く。


「拡張しない」


理央が補足する。


「観測のみ」


のどかが言う。


「生体優先」


充が言う。


「負荷監視強化」


棚橋が言う。


「余り物、まだ捨てない」


航田が言う。


「……たぶん、今は正しい」


主語はない。


だが、方向は合っている。


保管庫の中で、


何かが、五十秒ごとに整う。


星の穴の螺旋が、


わずかに呼吸する。


彼らは、


レベル2の端末に、


レベル1未満の文明として、


最低限の電力を供給している。


補修かもしれない。


違うかもしれない。


だが今は、


切らない。


まだ、


戻れるから。


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