表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人類保全  作者: wwaabb
12/13

第13話 何も聞いていない朝

朝。


人工光がゆっくり明るくなる。


理央はいつも通りの時間に現れた。


髪は整っている。

目は冴えている。

完全に通常運転だ。


積田充は、先に席に座っていた。


コーヒーパックを開ける音が、やけに大きく聞こえる。


理央が隣に座る。


「おはようございます」


いつもの声。

いつものトーン。


充は一瞬だけ視線を上げる。


「……おはよう」


喉が乾く。


(普通だ)


(普通すぎる)


理央は端末を開きながら言う。


「昨夜、少しデータ取りました」


充の指が止まる。


「……そうなんだ」


「オシナオスン、再現性あります」


さらり。


「圧力の順序が重要みたいで」


充の脳内に、昨夜の声が再生される。


スターライト・フォルムチェンジ。


「……順序」


「はい。圧力→保持→微振動」


理央は真顔だ。


完全に研究モードだ。


充はコーヒーを飲む。


熱い。

無駄に熱い。


「……その、順序って」


「はい」


理央が振り向く。


目が合う。


(言うな)


(触れるな)


「……なんでもない」


理央は一瞬だけ首を傾げる。


「?」


充は視線を逸らす。


「……安定してるなら、いい」


理央はうなずいた。


「ええ。昨夜は少し手こずりましたけど」


充の心臓が跳ねる。


「でも、最終的に“型”が見えました」


“型”。


なるほど。


科学的な言い方だ。


掛け声じゃない。


型。


充は安心しかける。


そのとき。


理央がぽつりと言う。


「やっぱり、集中するとリズムが出ますね」


「……リズム」


「ええ。無意識に一定のテンポで押すと成功率が上がる」


充は固まる。


(リズム)


(テンポ)


(あれはリズムだったのか?)


理央は続ける。


「ログ上でも、周期が出ています」


充がゆっくり振り向く。


「周期?」


「はい。温度上昇のタイミングが、

 一定の間隔で繰り返されています」


理央は端末を見せる。


グラフ。


なだらかな波形。


押圧ログのタイムスタンプと、

内部温度の上昇が重なっている。


「同期しています」


理央が言う。


「圧力履歴と、発熱のタイミングが」


充は息を止める。


そのとき。


遠くで棚橋の声がした。


「黒川さん! ログが三つあります!」


数秒後。


黒川の落ち着いた声。


「一つずつでいい」


理央の端末に、

外部観測データが追加される。


「……?」


理央が眉をひそめる。


「どうしました」


充が聞く。


理央はすぐには答えない。


「円筒穴の内壁」


短く言う。


「螺旋構造の一部に、

 微弱な熱変化が記録されています」


充の喉が鳴る。


「……いつのデータ?」


「昨夜です」


沈黙。


「実験時刻と、ほぼ一致しています」


誰も押していないはずの距離。


船外。


数キロ先。


理央が続ける。


「誤差の可能性はあります」


だが。


そうは言っていない顔だった。


黒川が入ってくる。


理央が端末を向ける。


説明は短い。


黒川は最後まで聞く。


数秒、何も言わない。


それから。


ケースに入ったオシナオスンを見る。


「分からないものは」


黒川が言う。


「分からないまま、

 つないだ状態にしない」


理央が頷く。


黒川はケースを持ち上げる。


「隔離します」


「え?」


棚橋が振り向く。


「触らない方がいいですか?」


「判断できません」


黒川は答える。


「だから、切ります」


保管庫の扉が閉じる。


船は静かだ。


充は天井を見る。


(聞かなかった)


(聞いてない)


コーヒーを飲み干す。


遠くで、保管庫のロック音がした。


昨夜、


何が起動していたのか。


まだ、


誰も聞いていない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ