第12話 変身プロトコル(改)
船内の夜は静かだった。
理央は一人、固定台の前に立っている。
オシナオスン。
昼間は確かに変わった。
押し方で性質が変わる。
再現する。
理屈で。
数値で。
順番で。
理央は端末を見ながら、慎重に押す。
「圧力10ニュートン、角度12度……」
沈む。
戻る。
変化なし。
「……違う」
角度を変える。
押す。
止める。
叩く。
何も起きない。
理央の眉間に皺が寄る。
「昼間は確かに……」
再現できない。
それが一番許せない。
理央は深く息を吐く。
もう一度。
押す。
止める。
沈む。
戻る。
変化なし。
理央は、ふっと目を逸らす。
「……変身プロトコル、起動」
小さく呟く。
押す。
止める。
叩く。
変わらない。
理央は顔を赤くする。
「違う……」
一瞬、逡巡。
そして覚悟を決めたように息を吸う。
「スターライト・フォルムチェンジ」
押す。
止める。
机との接触音が、わずかに変わる。
軽い。
ほんの少し、軽い。
理央の目が見開かれる。
「……来た」
※なお、この掛け声は理央が幼少期に夢中になっていた
深夜再放送アニメの変身シーンを本気で再現したものである。
本人は絶対に墓まで持っていくつもりだった。
そのとき。
通路の角で、足音が止まる。
積田充。
眠れなかった。
推進系のログが微妙に気になっていた。
(誤差だろう)
そう思いながら水を取りに来ただけだった。
そして。
聞いてしまった。
「スターライト・フォルムチェンジ」
充は固まる。
(……え?)
理央は背中を向けたまま、真顔で石を押している。
もう一度。
「スターライト・フォルムチェンジ」
充の脳が追いつかない。
(聞かなかったことにするか?)
(いや、聞いた)
(聞いたよな?)
理央は真剣だ。
ふざけていない。
むしろ研究者の顔だ。
それが余計に怖い。
充は一歩踏み出そうとする。
だが止まる。
(何て声かける?)
“今の何ですか?”
無理だ。
“さっきの掛け声は?”
死ぬ。
充は喉を鳴らす。
推進ログよりも、
重力変化よりも、
今はこの空気が重い。
理央が振り向く前に、
充は静かに後退した。
気配を消すように。
通路の暗がりで、充は思う。
(俺は何も見てない)
(何も聞いてない)
責任感は強い。
だが、人を信じない。
そして、気まずさに弱い。
理央はケースに石を戻す。
「……再現成功」
小さく呟く。
船内は静かだ。
誰にも知られていない。
ただ一人、
推進担当だけが、
掛け声の存在を知っている。
そして充は、決める。
――あれには触れない。
触れたら、何かが壊れる。
船じゃなくて。
たぶん、理央の何かが。




