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人類保全  作者: wwaabb
10/12

第11話 押し方の問題

船に戻ってからも、棚橋は落ち着かなかった。


「俺が最初に落としましたよね」


三回目だ。


黒川は端末から目を上げない。


「落とした事実は変わりません」


航田が笑う。


「歴史的第一落下者ですね」


「やめてください」


理央は塊――仮称オシナオスンを固定台に置いている。


「再現試験を行います」


黒川が言う。


「壊さない範囲で」


棚橋が小さく言う。


「もう壊れてる気がしますけど」


「壊れていません」


理央が即答する。


「構造は自己再編している可能性があります」


航田が首をかしげる。


「自己って、意思あるんですか?」


「ありません」











「現時点では」


航田が笑い、棚橋が笑えない。


黒川は言う。


「圧力を数値化します」


理央が装置を操作する。


「一定荷重を段階的に」


棚橋が恐る恐る押す。


「これくらいですか」


「弱いです」


理央が淡々と言う。


航田が横から言う。


「もっとぐいっといきましょうよ」


「あなたは黙ってください」


少し強めに押す。


表面が沈む。


全員が覗き込む。


「戻ります」


数秒後、凹みは消える。


黒川が言う。


「角度を変えてください」


棚橋が斜めに押す。


今度は沈み方が違う。


「……音が違います」


航田が言う。


軽く叩く。


前より澄んだ音。


理央が眉をひそめる。


「弾性係数が変化しています」


棚橋が言う。


「押すと強くなる?」


航田がすぐ乗る。


「筋トレ素材?」


黒川は塊を手に取る。


今度は両手で包むように圧力をかける。


ゆっくり。


均等に。


沈む。


止める。


離す。


戻る。


しかし。


さっきより硬い。


「強度上昇、確認」


理央の声が少しだけ早い。


棚橋が目を見開く。


「え、じゃあさっきの穴の縁に落ちてたのって」


航田が言う。


「押されまくった結果?」


沈黙。


黒川が言う。


「恒星規模のエネルギー照射。

 その副産物がこれなら」


理央が続ける。


「内部構造が圧力履歴を保持し、

 再構築している可能性があります」


棚橋が言う。


「……ゴミですよね?」


航田が肩をすくめる。


「タイプII文明のゴミ」


理央が静かに言う。


「ゴミでこの挙動は説明できません」


黒川は塊を見つめる。


押す。


戻る。


硬くなる。


まるで。


“使われることを前提にしている”みたいだ。


棚橋がぽつりと言う。


「これ、押し方に意味あるんじゃないですか」


理央が振り向く。


「意味?」


「さっき俺、角度変えたら音変わりましたよね」


航田が言う。


「コマンド入力みたいな?」


理央が沈黙する。


黒川がもう一度押す。


今度は、リズムを変える。


強く、弱く、止める。


塊が、わずかに温かくなる。


「……温度上昇」


理央が呟く。


誰も冗談を言わない。


棚橋が小さく言う。


「押してるだけですよね?」


黒川は答えない。


塊の表面が、一瞬だけ光る。


ほんの一瞬。


錯覚かもしれない。


航田が息を止める。


「今、光りました?」


理央はログを確認する。


「発光記録なし」


だが。


全員が見た。


黒川は塊をケースに戻す。


「今日はここまで」


棚橋が言う。


「え、やめるんですか?」


「分からないものは、

 分からないまま触り続けない」


理央が小さく頷く。


航田はまだ塊を見ている。


棚橋は、少しだけ笑う。


「押すと強くなる石って、

 なんかズルいですね」


黒川は言う。


「ズルいのは、向こうかもしれません」


沈黙。


もしこれが。


観光地の落書きでも、


廃材でも、


副産物でも。


それを使いこなせるなら。


人類は、少しだけ。


0.7から動く。


宇宙船の外は、まだ灰色だ。


だが船内には、


押すと変わる何かがある。


そしてそれは、


押し方次第で、


何になるか分からない

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