異端解除師~どんな呪いだろうと病気だろうと解除できるチート能力者は依頼者とともに旅に出る~
初めて書いた小説です
《解除師》それはあらゆる"呪い"、"病"、"契約"、"魔法"等を解除(元通り)する者達の事である。
解除師に不可能は無い。
これは1人の解除師が数々の"厄災"を払う物語である。
森の中を歩む人影があった。
「こんな森の奥に本当にいるんだろうか」
2人の男、片方は戦士もう1人は魔法使い。
森の中には魔物が生息しており、村人は絶対に近寄らない。
そんな中でも、2人は帰ろうとはしなかった。
「ルース様、彼女を助けるにはもう〈解除師〉に頼るしかありません。普通の病気や呪いとは違う。あれは〈魔族の呪い〉です」
「そんなことはわかっている。王宮にも〈解除師〉はいるようだが多額の金を積まないとまず動いてくれない。教会では聖典を持つ者でさえ完全に治すことができないと言われたんだぞ。〈いばらの呪い〉はそういう呪いだ」
「はい、ですがこの地。辺境にあるアルバス国のカドノ村の奥には条件を呑むことで、解除師としては低額で仕事を請け負うという者がいるという噂です」
「それはどこの情報なんだ?」
「情報屋です」
信用ができるか否かそれは行ってみなくては分からない。この先に誰もいなければ、確実に俺の幼馴染は助からない。
「オーウェン、一気に抜けるぞ!」
「はい!ルース様!」
2人は剣と魔法を駆使して、何とか道を進んでいた。そして、目の前に大木を見つける。
見下ろしても視界には木しかない。この国に訪れる際に見えていた大木はこの木のようだった。
「これは、また大きい木だ。色んなところ旅してきたが初めて見る」
「これは〈グジャの樹木〉ですよ。伝説の僧侶であるグジャが自分の旅路で植えたとされる樹木です」
「本にも乗っている名前だな。こんなところにもあるとはな」
樹木を回るように進む。すると、樹木に扉が取り付けられていることが分かった。
「ここではないのか」
「そうかもしれません。早く行きましょう、夜が近い。魔物が活発になる時間帯です」
2人はすぐに扉を叩いた。
「すみません」
返事は無い。
「この辺りは人がいるはずだ。あれは魔物の立ち入りを防ぐための石が取り付けてあるから」
周りの木々には確かに立ち入りを防ぐための石が取り付けられている。石は青白く光を発している。
「すみません」
もう一度、扉を叩くと一人の男が扉を開いて現れる。
「誰だ、何の用だ」
出て来たのは若い男だった。黒髪で服装はあまり綺麗とは言えない。手には黒の手袋をして、全身黒ずくめだった。第一声からして、とても対応が悪い男に見えた。それに加えて目にクマがついている。
「す、すまない。私はルースというもの。訳あってここを訪れた。解除師を探している」
ルースが理由を告げると男は伝える。
「あなたの探している人なら目の前にいる」
この男が〈解除師〉?
解除師という仕事はとても儲かると聞く。なのになんとも言えない、小汚い格好の男を前にして2人は少し疑いの目を向ける。
「あなたが解除師様ですか?」
「ダレンだ」
「え?」
「俺の名前はダレンだ。客人は久しぶりでね、少し対応が悪かった」
「いえ、かまいません。それよりも私は依頼に来たのです。呪いを解除する依頼を」
「分かった。中に入ってくれ」
そう言って男は先導する。扉の中は広い室内になっていた。木を基調とした、家具が置いてある。タンスや机や椅子が置いてあり、暖炉に火が着いており、室内は外と比べて暖かった。
「暖かい…」
すると、男はこちらを向いて2人に告げる。
「少し待っていてくれ。そこの長椅子にでも座ってな。と思ったが人が来ると思ってなくて客人を迎える準備ができていない。やっぱり少し外に出てくれ」
せっかく入ったはずの室内から追い出され、扉をバタンと閉めらた。2人は夕暮れの中待たされることになった。十数分後にようやく扉が開いた。
「これはお嬢さん…」
次に扉を開いて出迎えてくれたのは少女だった。綺麗な金髪の美少女。透き通るように白い肌に大きな目。人形みたいな可愛さのある少女だった。
少女は先程の男とは違い、綺麗な緑を貴重にした服を着ていた。
「どうぞ、お入りください」
少女の言う通り中に入ると、先程の男の格好はそのままだった。ただ、先程よりは少し元気そうな声で2人に声をかける。
「2人とも、こちらに座ってくれ。フラン、2人にお茶を出してあげなさい」
2人は椅子に座ると先程の女の子が落ち着いた手つきでティーカップをふたりの座る椅子の前の机に置く。
「紅茶でよろしいですか?」
2人はお願いすると言って、紅茶を待つ。ということは無かった。2人は血相を変えて男に向けて話を始める。
「あなたが"解除師"様ということであれば私の幼馴染を助けて貰いたいんだ」
「私からもよろしくお願いします」
2人が頭を下げる。
「なるほど、まずはあなた達の身元を教えてほしい。あとは、俺の自己紹介をさせて欲しい」
男からの問いかけに対して2人は答える。
「改めて、自己紹介。私はルース・グレイロット。戦士をしている、そして私の隣に座っているのが…」
と続けて、老人が話を始める。
「私は魔法使いをしているオーウェンといいます。彼とは旅路で出会いました。それにしてもダレン殿は若いのに落ち着いていらっしゃる」
「ありがとう、ルースとオーウェン。遠いところからわざわざ来てくれて。若い…か、いやなんでもない。褒め言葉として受け取っておくよ」
2人はそれに対して「よろしく」と伝える。すると、男が改まったように自己紹介を始める。
「俺はダレン、君たちの探していた解除師だ。解除師が何か一応説明だけさせてもらうとしよう…」
《解除師》・・・とは病気、呪い、契約、魔法などありとあらゆる事柄をもとにもどすことができる者のことである。
解除師は世界に数人しか存在せず、認めてもらうにはそれ相応の《技術》が必要となる。また、高額で請け負うを行うことが主流となっている。
「というわけで、2人には事情を聞きたい。先程言っていたはずだ、幼馴染が呪われているとな」
「はい…」
と、話を始めるときに女の子が紅茶を入れてくれる。
「ありがとう。この子の名前は?」
すると、ダレンは女の子に手招きをする。
「そうだな、自己紹介だけしておこう。こちらに来て座りなさい」
女の子はてくてくと歩いて、ダレンの隣に座るとハキハキとした声で自己紹介を始める。
「フラン・エレクトリアムです。ダレン様の助手兼弟子兼家政婦兼その他です」
「ご丁寧にありがとう」
引きつったようにダレンを見る2人に対して、ダレンは笑みを浮かべてフランの頭を撫でる。
「フラン、今から2人の話を聞くから一緒に聞きなさい。久しぶりの依頼人ですから」
「いえ、それよりも《エレクトリアム》と言えば…」
と、続けようとすると、ダレンは口元に手を置いて首を横に振る。察した2人は何も言わなかったように話の話題を変えた。
2人は何故ここに来たのかを話し始める。
「単刀直入に言うと、幼馴染が《いばらの呪い》に犯されました。解呪するには"解除師"の方に頼むしかないと思い、来た次第です」
ダレンは頷きながらも《いばらの呪い》という言葉を聞いた瞬間、眉をひそめた。
《いばらの呪い》その言葉を聞いたダレンは戦士と魔法使いの方を向く。
《いばらの呪い》・・・八貴族の一人、"いばら姫"と称される者による呪い。いばら姫やその配下から受ける呪い。全身が触れることの出来ないいばらに包まれ、そのいばらに体力を奪い取られ、そして衰弱死する。
「《いばらの呪い》か。その呪いであれば《教会》の司教様だろう。司教様にお願いしなかったのか?」
《教会》・・・呪いを解くための場所。また、礼拝をしたり、聖書を学んだり、人々と一緒に時間を過ごす中で、神様と私たちの関係を学び、神様の愛を体験できる。基本的な呪いの解呪は可能。各国に点在している。
すると、2人は唇を噛み締める。
「その司教様ですら解呪は不可能と言われまして」
「なるほどな」
頷きながら、ダレンは別の部屋に移動して、本を持ってすぐに戻ってくる。
「《いばらの呪い》になって何日経つ」
パラパラと本をめくりながら2人に質問すると答えはすぐに返答される。
「今日で7日になります」
その言葉を聞いて、ダレンはパタンと本を閉じて告げる。
「そうか、それは時間がないな」
「時間ですか?」
「あぁ、《いばらの呪い》は付与されてから15日以内に解呪しないと衰弱死してしまう」
2人は驚いた顔をする。
「その幼馴染がいつ《いばら姫》と遭遇したか分からないが早く行かないと死ぬ」
2人は大慌てで机をバンッと叩いてダレンに懇願する。
「なら、一刻も早く治してくれ!それともあの《八貴族》を倒さないと治らないのか?」
《八貴族》という単語を耳にしたフランは耳を手で押えた。それを見てダレンは首を横に振る。
「慌てるな。呪いを植え付けた者を倒せば消える可能性はある。だが、呪いを解くことにおいて一番最適なのは解呪以外方法がない。それが分かっているから2人とも俺のところに訪れたんだろ?」
2人は汗を垂らしながら頷く。
「俺も慈善活動をしている訳では無い。それなりの金額と合わせて1つ要求させてもらうが良いか?」
「もちろんだ!」
ルースは真っ直ぐな瞳でダレンに伝える。
「2人の思いは伝わったよ」
「で、要求って何だ?俺たちは何でもするぞ」
その言葉を聞いてダレンは2人の目を見て言う。
「2人には解呪のために必要な《素材》を一緒に集めてもらう」
「え?」
「聞こえなかったか?解呪はする、ただそれに必要な素材を俺と一緒に集める、それが条件だ」
変な人を見るような顔で2人は見つめ合う。
「つまり物資を集める旅をするってことか?」
「その通りだ。必要なものは俺が知っている、あとは素材をとるだけ。理解したか?」
「あぁ、もちろんだ。俺たちは解除師と初めて会うんだが絶対に治る魔法とかを使うんじゃないのか?」
その発言にダレンは息を吐く。
「いや、違う。そんなに簡単ではない。俺たち解除師は呪いや病気を解除する特別な"力"を使う。この力は唯一無二と言っていい。解除師のみが使える力、《断除力》」
《断除力》・・・それは"解除師"のみが扱える力のことである。魔法、病等ありとあらゆる根源を断つことの出来る力。
「《断除力》…?初めて聞いたよ。解除師については全てを治すことの出来る者という認識しか無かったから」
「仕方ない。解除師というのは歴史とともにその在り方が変わっているから。この力を最大限発揮させるために《素材》が必要なんだ。他の解除師が何故高額で応じるか分かるか?」
「そりゃあ人を治すんだ、金をとって当たり前だろ」
「あぁ、それもあるが基本的に不可能を可能とするにはそれなりに必要なものがあるってことだ。《素材》を取るためのお金も合わせて高額なんだ」
「タダでは治らんということじゃな。その《断除力》と魔法とでは違いがある…そうじゃな?」
「オーウェンの言う通りだ。魔法とは別物。労力もいる、力を扱う者の技量もいる。だから不可能に近いことを可能にできるんだ」
「なるほどなぁ…勉強になるぜ」
「なら、手っ取り早く準備をする。1度その幼馴染と合わせてくれ。何が必要かはそこで分かる。《教会》が匙を投げたなら相当呪いは根深くその子を襲っているはずだからな」
「あ、あぁ…分かった」
2人は先に出ていてくれと言われて外で待っていた。ものの数分でダレンは出てくる。あと、フランという少女も。フランは先程の綺麗な服とは違い、冒険に行くための服装に変わっていた。
「向かおう」
ダレンの声掛けに2人は疑問が浮かぶ。
「あの、その女の子も一緒に行くんですか?」
オーウェンに聞かれてダレンは答える。
「あぁ、俺の助手だからな。それにこの子は優秀だ、困ったことにはならない」
2人は了承して、移動を開始しようとしたが辞めた。
「もう日が暮れております、魔物たちがこの辺りは多いですから日が明けてからの方が良いのでは?」
オーウェンの言葉に対してダレンは頷く。
「オーウェン、あなたの言うとおりだ。でも、時間が無い。一日でも早く行かなければ助けられない」
「…。確かに、私の思いが足りませんでした。私たち2人が先導します!おふたりは着いてきてください」
4人は森の中を進む。魔物は現れる。羽の生えたガーゴイルや彷徨う者、食人植物、それに加えてスケルトンまで出てくる。
「この辺りは様々な魔物が出てくるな」
ルースがそう口にするとダレンが言葉を返す。
「そうだな、ここは《八貴族》の住まう城、その中の一体である植物王『いばら姫』の城がある地域だからな」
驚く2人に対して心配するなと声をかける。
「心配するな、地域と言ってもここからはとても遠い。この世界は広いから魔物達同士の勢力争いに巻き込まれた人間にとって脅威であることに変わりはないが」
「いえ、その名前を聞いただけでも私たちにとっては手が震える物がありますから。ですがいつか八貴族、そして魔王を倒して世界を救わなければなりません。冒険者の誰もが考えることの一つです」
オーウェンの言葉にダレンはうなづいた。
「素晴らしい考えだ。君たちがそれを成し遂げることを平民として願っている」
そんな会話をしながら4人は《いばらの呪い》を受けた少女の元へと急ぐ。
「時にルース、何故、この世界に解除師がいるか分かるか?」
問いかけに対して、ルースは答えを口にする。
「それは単純に呪いや病気にもランクがある。絶対に治せる解除師がいるのは当たり前だ」
「あぁ。その通りだ、だが本質は違う。本来の解除師というのは呪いや病気などを複数付与された者に対する解除手段として用いられるんだ。呪いや病気が複数重なるとどうなるか分かるか?」
「どうと言われても…」
「例え話をしよう。ここに一本の紐が絡まっていた。とることは出来るか?」
「それはもちろんだ。誰でもそれくらいできるだろう」
「だがそれが複数の紐が絡み合った場合どうする?」
「それは一つ一つ結びを解くしかないだろ」
「俺が言いたいのはそこだ。呪いを解くことができる《教会》の聖典を持つ司教や病気を治す《医師会》に所属する医師や回復師は紐を解くという動作で解除していく。複数絡まればその分呪いの解呪や病気を回復させるというのは難しくなる。それに時間もかかる。例え、一本だろうと、複雑に絡み合えばとることが出来なくなる」
《医師会》・・・病を治す、怪我を治す場所。また、医道の高揚、医学及び医術の発達並びに公衆衛生の向上を図る場所。各国に点在している。
「なるほどな…つまり解除師は根源を断つってことか」
「その通りだ。俺たちは結びを解くのでは無い、断ち切るというイメージだ」
スパッと手を動かし、動作を行う。
「そう、紐自体を断ち切る。イメージだからな、どんなに絡まろうと断ち切ればいいだけだ」
「なるほど…」
「それがいつの日か変わった」
「え?」
「解除師というのは複雑な呪いや病気を解くのが仕事だったんだがある時に変わってしまったんだ」
移動しながら月を見るダレンに2人は首を傾げる。
「2人とも、あくまで俺が絶対に治せると思っているか?」
「それはもちろんだ。解除師っていうのはそういう仕事なんだろ?」
それが当たり前のようにルースは答える。
「そう、そこだよ、ルース。解除師というのはどんな呪いだろうと病気だろうと解除出来なければならない。その意味がわかるか?」
「その意味?一体どういうことだ?」
「俺たちに「失敗」は許されない。解除出来なければ解除師ではない。一度の「失敗」が解除師という職を無くす。何故解除師の人数が少ないか分かるか?認められてないんだよ。国から認められない。ひとつでも呪いの解呪や病気を治すことができなければ俺たちは認められないんだ。だからこそ、俺達に「失敗」は許されない」
「なるほどな…」
「解除師は元々たくさんいた。でも、その数は減っていった。国王の娘にかかった呪いを解除出来なかったから」
国王の娘という単語に2人は疑問を呈する。
「おい、何を言っている。国王の娘は生きているだろう」
「もちろん、それはある解除師がその呪いを解除したからだ。そして彼は今、《王宮の解除師》となった」
救世主、王宮の解除師を皆そう呼ぶ。
噂に尾ひれが立ち、今では『全知全能を持つ者』と呼ばれているらしい。
「それから、解除師という職自体の敷居が高くなった。それまでは"複雑な呪い"を扱う者であったが今では"全ての災いを断つ者"として称される。結局のところ噂が独り歩きした…と言うべきだろうか。
俺達は《解除師》だから治せる訳では無い。《解除師》だから治すんだ。
俺達はそうやって"解除師"として生きている。「失敗」は許されない、一度の「失敗」が全てを失うことになることを俺は知っている」
「確かに今の認識だと後者だな。本当に治せない事柄は"解除師"へって決まってるくらいだから。前は違ったんだな」
「"解除師"ってのはそんなに万能じゃないということだ。野良の「解除師」もいる。「異端解除師」とも言われている。《断除力》はその者達にも使用可能だからな。だから無理してここに来ることはなかったんだぞ?」
ダレンの言葉にルースの顔は曇る。
「そんなこと、言わなくても分かってるだろ?野良の"解除師"は本物である証拠がない。偽物の場合もある」
「その通りだな。だからこそ、認めた者のみが名乗れる。司教や医者のようにな」
「だよな。ダレンは解除師なんだろ?言い方は悪いかもしれないが認められている男なんだろ?」
ダレンが息を吐くと同時に空中に刻まれた印が現れる。
「こ、これは…」
「認められた証だ。今でも数十年に一度のペースで解除師の認定を受けれた者がいるらしい。基本、《八貴族》の厄災を断ち切れた者が名乗れるらしい」
「なら、《いばらの呪い》も解けるということだな!?」
「そうだ、だから絶対に助ける。俺はどんな呪いだろうと病気だろうと契約だろうと解除する。それが解除師としての俺の仕事だ」
「なら、よろしく頼む!」
そして街まで到着した4人は直ぐに少女のいる民家に足を運ぶ。
「おふたりともお入りください」
ベッドに横になっていたのは衰弱仕切った少女の姿だった。多量の汗をかき、苦しそうな顔で意識を失っている。
少女の姿を見てダレンの表情が曇る。
「この子が《いばらの呪い》を受けた本人で間違えは無いか?」
後ろにいた2人が頷く。
「分かった。なら悪いが上半身を見せて貰ってもいいか?もちろん、背を向けてくれていい」
その言葉にルースは驚く。
「ちょ、ちょっと待ってください。いきなり何を言うんですか!?」
「ルース落ち着いてください」
オーウェンが止めに入る。
「いや、だってあの男は今、裸になれって言ったんだぞ!止めに入るだろ!」
「ルース、オーウェンの言うとおりだ。邪な感情などない。《いばらの呪い》を受けた者の身体を君は見たことがないだろう」
フランが動いて少女の服をたくしあげる。
「これは…」
少女の上半身に巻き付いていたのは茨だった。ギシギシと締め付けるように動くそれを見てルースは思わず声を上げてしまった。
「無理をしたな。二人には心配させないようにしていたんだろう」
茨の棘が少女の身体を傷つけている。身体中から切り傷が確認できた。
「《いばらの呪い》というのは対象者にこのような茨を身体に巻き付け、体力を奪う呪いの事だ。そして、彼女の身体を見てみろ」
ルースは顔背けていたが少女の身体をまじまじと見つめる。
「血が一滴も出ていない」
「気づいたか。《茨の呪い》というのはもうひとつ、茨で傷ついた対象者から出た血液を吸い取り成長していく。出る血の量や質によって成長速度が変わるんだ」
「そ、そんな…。ならシュエルが助かる時間は…」
「あと3日も無い。彼女の血はどうやら《いばらの呪い》とは相性が悪かったようだな。それに加えて、いばら姫の呪いも通常と比べて根深い」
ルースはその場で崩れ落ちる。
「お願いだ、お願いだからシュエルを助けてください…」
ダレンは言葉を返す。
「もちろんだ。依頼は依頼だ、何としてでも解呪する。ただ…」
「ただ…?」
ルースは顔を上げてダレンを見る。
「必要なものは一緒に取りに行く、それだけだ」
改めてルースは返事をした。
「あぁ、もちろんだ」
「今から出発する。時間が無いからな」
2人はすぐに支度した。剣を研ぎ、杖を振る。
「準備満タンって感じだな」
ダレンに言われて2人は頷く。
「そりゃあもちろんだ!」
フランはてくてくと歩いてダレンの服を引っ張るとダレンが反応する。
「フランはその子に少しでも体力が持つように回復魔法をかけてあげなさい」
「はい、ダレン様」
フランは少女に向けて魔法を詠唱する。すると、少女の顔が少し安らぐ。
「あの子は魔法を使えるのですか?」
「あぁ、攻撃、補助、回復。どの魔法も使える」
「なるほど、それは優秀な魔法使いですね」
「あぁ、そう言って貰えたらフランも嬉しいだろう」
聞こえるように言ったがフランは集中しているようだった。
「フランあとは頼む。何かあっても大丈夫だとは思うがもしもの時は戦闘することは許可する」
「はい、かしこまりました」
フランは深々と頭を下げる。そして部屋にフランと少女を残して3人は素材集めのための旅に出発した。
♢♦
3人は外に出て移動の準備をする。その前にルースがダレンに尋ねる。
「ダレン、必要な素材はなんなんだ?」
「さっきあの子を見て確認したが必要な素材はこれだな」
必要な素材
・真珠の葉の真珠 難易度☆1
・スケルトンの涙 難易度☆5
・いばら姫のいばらの棘 難易度☆8
以上
難易度は☆で表される。
難易度☆1は一般人でも入手可能。
難易度☆2は冒険者であれば入手可能。
難易度☆3は冒険者の中でも中級者であれば入手可能。
という形で☆が増えるほど難易度が高くなる。
難易度は☆15まである。
これはあくまで《ある冒険者》がつけた難易度である。
難易度最上級の☆15を入手できる人間は世界に5人も存在しない。
その素材を見て2人はまたも驚く。
「レア素材ばかりではないか!それにいばら姫のいばらの棘となるとまさか《植物王の城》へ向かうのか!?」
「そうだ。それが必要だからな。彼女はこのままでは死ぬ、そんな簡単な旅なわけないだろ」
呆れた様子のダレンだったが無理もない。
《八貴族》とは魔王の配下である8人の魔族のことである。8人それぞれが種族の王であり、人間の天敵。400年前突如としてこの世界に現れ魔王に忠誠を誓った。討伐軍が編成され、勇者アーロンを含め8人の勇者が《八貴族》の《王》に戦いを挑んだが誰一人として元へ戻ってくることは無かった。
あれから400年。誰一人として《八貴族》を倒せた者はいない。
人間がこうして生活できているのは"魔王の気まぐれ"にすぎない。
だからこそ、当然だった。
「その通りだな、分かった。行こう、回復アイテムも必要だ」
真夜中、道具屋を叩き起して謝りながらアイテムを買って3人はようやく準備を整える。
そして、アイテムを揃え《素材》を採取する準備は整った。
これから《素材》を採取する旅に出ようと言うところでルースはダレンに深刻な顔をした。
「八貴族の一人、《いばら姫》と戦うということでいいのか?」
「いやそんなことはしない。植物王の城には近づくが城の中には入らない。あくまで素材を手に入れるだけだ。だが、あの城の近くには食人植物が沢山いる。気を抜くなよ」
ダレンは2人に伝える。
「あ、あぁ。もちろんだ。俺は剣術を何年も磨いてきた。前までは騎士もしていたんだ、そう簡単に殺られないさ」
「私もです。魔法使いとして何十年と経験は積んでおります。どんな敵が相手だろうとやっつけます」
威勢が良くなった2人にダレンは苦笑しつつ、告げる。
「2人とも運がいい。この場所に彼女を連れてきたのは正解だ、なぜなら素材はここから急いでも1日歩ければ素材が手に入る」
他の城であればここから何ヶ月も歩くことになる。それを考えれば運が良かったと改めてルースは感じた。そして何よりもこの解除師が植物王の城の近くに住んでいてくれてよかった。
「あぁ、じゃあ出発しよう」
3人は歩き始める。
まず手に入れるのはスケルトンの涙だった。
-スケルトンの涙の採取-
スケルトンの涙とは特殊な方法で手に入る素材である。
スケルトンの涙は普通にスケルトンを倒すことでは入手できない。
その方法はスケルトンにある程度ダメージを与えた後、聖水を何度も少量ずつスケルトンへ与える。すると、スケルトンから出てくるはずのない涙が段々と滲み出す。聖水の量はスケルトンごとに異なり、少しでも量を間違えればスケルトンを倒してしまうため、その調整は熟練の冒険者でも難しいとされている。
また、スケルトンの涙は倒された瞬間蒸発するため、スケルトンを倒さずに滲み出た涙を入手し、倒さずにそのまま放置しなければならない。
倒された瞬間蒸発するが一定の時間(スケルトン事に異なる)経過するとようやく蒸発しなくなる。最長でも3時間はスケルトンを倒さず放置することが必要である。
「ってことで目の前のスケルトンから素材を摂る」
「ではどうしましょう」
場所は変わり、数時間歩いた夜道。スケルトンが現れたため"スケルトンの涙"を入手するために悪戦苦闘していた。
「俺が聖水をかける、絶対にだ。これだけは譲れない。でなければ素材はとれないだろうからな」
「はい、よろしくお願いします」
オーウェンがダレンに反応する。そして、ダレンはオーウェンに魔法を使うように伝える。
「オーウェン、魔法で攻撃してくれ。俺が大丈夫と伝えたら攻撃を辞めてくれ」
「分かりました!魔法を使い攻撃します」
オーウェンは魔法を詠唱する。
────サンダーボルト
杖の先に黄白の光が現れる。閃光と共に音を立てながら雷がスケルトン目掛けて飛んでいく。スケルトンに直撃した瞬間動きが鈍る。
「オーウェン、ナイスだ!」
ルースの声にオーウェンは手を挙げて反応する。
ルースは自分の剣でスケルトンを攻撃していく。
そんな中ダレンは聖水を手に持って時を待っていた。
「今だな」
ダレンが動く。
ダレンは二人が気づけないほどの速さで移動し、スケルトンの顔を掴み、近くの木にそのままぶつける。
「は、速い!」
次に紐を手に取りスケルトンを木に巻き付け、動けないようにする。その間、2人は佇んだままだった。
「ダレン殿、先程の動きは…」
明らかにこの男は強い、それを動きだけで2人は感じ取っていた。
「2人とも周りのスケルトンを頼む」
ダレンの指示で周りのスケルトンに向けて剣を向け、杖を向ける。
そして、ダレンは聖水を取り出した。
「ふぅ…」
微量、一滴か二滴ずつをスケルトンに向けて垂らす。その瞬間、ダレンの額に汗が滲む。
一滴、、、、
スケルトンが苦しそうに動く。
二滴、、、、
スケルトンが苦しそうにもがく。
三滴、、、、
スケルトンが激しく動く。
ルースとオーウェンはスケルトンを全て倒し、ダレンの元へと駆けつける。
その間もダレンは聖水をかけ続ける。
2人は息を飲み、ダレンの動きを見て緊張が高まっていた。
「ルース様、ダレン殿の動きは異質です。あの動きは王国の冒険者のようです」
「あぁ、分かっている。だからこそ信頼出来る」
ダレンは滲む汗を手で拭う。
そして、十一滴目でようやくスケルトンに変化が訪れてる。
スケルトンの動きが止まる。先程まで暴れていたスケルトンが嘘のように全く動かなくなる。
そして、十二滴目を与えた時、カタッと頭が動き沈む。
そして、スケルトンの目から出るはずのない水が滲む。
「きた────」
思わずルースとオーウェンは言葉を口にしていた。
「これがスケルトンの涙…?」
「凄いですぞ、ルース様!」
子供のようにはしゃぐ2人に対しダレンはそれでも冷静だった。
ダレンは細長いガラス管を手に取りスケルトンの涙を採取する。
「ふぅ…」
一定の量を時間をかけて入手してからダレンは立ち上がった。
「終わったんだな」
「あぁ、採取完了だ」
2人はようやく安堵する。普通ならスケルトンは倒すべき相手であるが今は違う。それにこのスケルトンは一定の時間倒してはならないのだ。
「暗幕」
ダレンは魔法を詠唱すると、スケルトンの姿が見えなくなる。
「暗幕とは…また古い魔法ですね…」
「あぁ。これでも魔法使いとして生活してきたからな。魔法は《新魔法》も《現魔法》も《旧魔法》も《古代魔法》も扱えるようにはしているよ」
2人は驚いた様子でこちらを見る。
「それは凄いですね、今の時代は《新魔法》と《現魔法》が主流ですから」
《新魔法》・・・新たに作られた魔法。
《現魔法》・・・一般的に使用される魔法。
《旧魔法》・・・現在は使用されていない、百年前まで使用されていた魔法。また、上位魔法が生み出されたことで使用されなくなった魔法。
《古代魔法》・・・数百年前に使用されていた魔法及びダンジョン等から見つかった古い魔法。
「確かにな。ただ、解除師にとって必要のない魔法はない。《新魔法》や《現魔法》が呪いや病気には通用しないことがある。《旧魔法》や《古代魔法》でなければならない、そんなことがあるんだ。特に《八貴族》の呪いにはな」
「私たちは戦うことや利便性の向上のために魔法を使用してきました。あなた方にとっては《旧魔法》、《古代魔法》が必要な魔法ということですね」
「あぁ。恐らく《医師会》の人間に聞いても同じ言葉が返ってくる。でも今回のスケルトンについては"暗幕"ではなくてもいい。消費する魔力も小さいから使っただけだ」
「ダレン殿は若いのに経験があり、知識がある。それに頼りがいがある。ルース様、ダレン殿は目標にすべき人ですぞ」
「あぁ、話聞いてて思ったよ。ダレン、あんたは本当にすごい人だ。スケルトンなんて倒す敵って気持ちしか無かった。でも、あんた達にとっては違うんだな」
「人によるだろう、今回たまたま"スケルトンの涙"が必要になっただけだ」
ダレンがそう言うとルースは口角を上げた。
「よーし!スケルトンの涙は手に入った!次に行こう」
2人からの賞賛を得たあと、ダレン達はそのまま次の場所へと移動を開始した。
「次は真珠の葉だな」
次の素材は《真珠の葉の真珠》
真珠の葉は初心者でも取れるアイテムである。葉っぱの中に真珠を蓄える葉っぱということでその名前がついた。葉っぱが2枚貝のように重なっておりその中に真珠ができる。
ただ、採取する方法は少し凝っているため始めたての冒険者が挑戦するクエストに多い。
~簡単な真珠の葉の採取の仕方~
1.まず、持ち物として水と塩を用意します。
2.真珠の葉を見つけます。
3.次に真珠の葉に向けて水を数滴垂らします。
4.その後、塩をひとつまみふりかけます。
5.すると、真珠の葉が開くように動きます。
6.それを数度繰り返します。
7.すると、真珠の葉っぱが開き、葉っぱの中から真珠が現れるためそれを採取します。
以上、簡単な真珠の葉の採取の仕方でした~
「取れた!」
子供のように喜ぶルースを見てダレンは少し口角が上がった。
「いい調子だ、ルースそのまま採取を頼む」
「任せろ!」
真珠の葉の真珠を手に入れた3人はようやく一日と半分の時間をかけて植物王の城から何キロも離れた城の入口に着いた。その時は真昼だった。あと1日と半分。早く"いばら姫のいばらの棘"を採取しなければならない。
「着いたな、2人とも気を引き締めてくれ」
城門は高い鉄製のフェンスがずっと続いていた。
中が確認できたがフェンスの中は木が生い茂っている。ただ、誰かに見られている視線をずっと感じていた。
「見られてるな、植物共に」
「まさか…」
2人はそこでようやくわかった。見られていたのは植物からなのだ。
ここに入らなければならない。2人はそれでも覚悟は決まっていた。
何よりも城の城門の近くに来ただけで圧を感じる。まだ見えてすらいないが、この敷地内は植物王がいる場所なのだ。
《植物王:いばら姫》
数々の冒険者を栄養分にした植物の王。今からその魔物のいる範囲へ入るのだ。普通なら自殺行為、だからこそ2人は真剣な目付きに変わる。
入口は誰かが中に入ったのか少しだけフェンスの門が開いている。
「じゃあ行くぞ」
「えぇ、参りましょう!」
「おう!」
「着いたな、2人とも気を引き締めてくれ」
城門は高い鉄製のフェンスがずっと続いていた。
中が確認できたがフェンスの中は木が生い茂っている。ただ、誰かに見られている視線をずっと感じていた。
「見られてるな、植物共に」
「まさか…」
2人はそこでようやくわかった。見られていたのは植物からなのだ。
ここに入らなければならない。2人はそれでも覚悟は決まっていた。
何よりも城の城門の近くに来ただけで圧を感じる。まだ見えてすらいないが、この敷地内は植物王がいる場所なのだ。
《植物王:いばら姫》
数々の冒険者を栄養分にした植物の王。今からその魔物のいる範囲へ入るのだ。普通なら自殺行為、だからこそ2人は真剣な目付きに変わる。
入口は誰かが中に入ったのか少しだけフェンスの門が開いている。
「じゃあ行くぞ」
「えぇ、参りましょう!」
「おう!」
3人はフェンスの門の中に入った。
《いばら姫のいばらの棘》を入手する方法はただ1つ。
そのいばらに生えている棘を断ち切ること。
しかし、熟練の冒険者であっても傷1つ付けられない。
ただ、他の方法がある。いばらとその棘が生えている部分に向けて数時間かけて炎属性の魔法を使って棘が取れるまで炙り続けて採取する。
その方法でとれた棘の質は炙ったためとても悪い。今回のような"呪い"の解呪には適さない。
また、基本的に不可能であるため、実行されたことはほとんどない。
その理由は……………
3人は意を決して中に入る。入ったと同時に植物が襲ってくる。
「マンドレイクだな」
現れたのは大きな食人植物だった。大きな口を開けてこちらを威嚇する。
「ファイアボール!」
火の玉を食人植物へとぶつけると叫びながら焼死する。縄張りに入るなと言わんばかりに次々出てくる魔物を何とか倒していく。
麻痺毒を噴射するマヒレシアやステーキなどご馳走を餌に人を釣るヒトマチソウ――様々な食人植物が出てくる。
「炎属性の魔法で取る方法は不可能ですね。これだけ食人植物が出るなら時間を使うことは出来ませんから」
魔力が枯渇する。そして疲れも見えてくる。
「すみません、もう魔力がそろそろ底を尽きます」
オーウェンは汗をかきながらそのことを伝えると、ルースは任せておけと返事をした。
ダレンはその2人を見てアイテムを渡す。小瓶に入ったポーションだった。紫色のポーションを受け取った2人は直ぐに蓋を開ける。
「これを使ってくれ。少しでも回復するから」
すぐにオーウェンはアイテムを口にすると同時に魔法を使う。
「凄いですね、すぐに魔力が満タンになりました」
魔力の回復、加えて威力も増している。
「あぁ。今は集中して炎の魔法を使ってくれ」
ダレンは内心思っていた。3人では厳しい。そのため、詠唱を行う。
《空間武器庫》
ダレンの横に亜空間が現れる。
「ダレン殿、それは…?」
「空間魔法。《古代魔法》だがな」
その空間に手を突っ込み、引き抜くとその手には刀が握られていた。
「《月齢刀》」
月齢刀・・・その刀は藍色の鞘。鮮やかな刀だった。
「ふぅ…」
刀を抜刀すると刀身が露になる。刀身もまた、綺麗で吸い込まれるように美しい藍色だった。
「ダレン殿、それは?」
「これは刀。剣とは少し違うが斬れ味は抜群だから心配ない。それにこいつらを舐めてかかると痛い目にあう」
一歩踏み出し、斬りかかると食人植物は真っ二つに分かれた。
「なんって斬れ味だ!」
「ルース、話している暇はないぞ」
ダレンとルースはそれぞれで敵を斬りながら奥へと進む。襲ってくる食人植物は進む度に多くなり、凶暴化していく。
「離れろ!」
マヒレシアの花粉が舞うと共にダレンは片手を突き出し、魔法を詠唱する。
「フリーレ(風の魔法)!」
吹き飛ぶ花粉、そしてダレンはマヒレシアに向けて刀を抜刀する。
「始月・極」
刀を振り下ろした場所の空間が歪む。と同時に空間からマヒレシアを吸い込むように風が流れる。
「これは…ダレン殿!」
「俺の刀は斬った箇所を異次元に繋げる。吸い込まれたら何処に行くのか俺も知らない」
そのままマヒレシアや他の食人植物がその亜空間に吸い込まれていく。そして、先程"フリーレ(風の魔法)"で吹き飛んだ花粉も吸い込まれる。
「終月・極」
ダレンは亜空間に向けて刀を抜刀すると同時に亜空間は勢いよく閉じて無くなる。
「こんな、こんなことがあるなんて…」
ダレンは刀を納刀する。
「敵はまだいる。今のままでは間に合わない、急ごう」
ルースとオーウェンは驚嘆し、ダレンの後ろへついていく――
♢♦
「ダレン殿、《いばら姫のいばらの棘》はどこまで行けば手に入るのですか?」
「もう少し先だ、《いばら姫のいばら》が現れれば取れる」
そのまま進んでいくと雰囲気が変わった。夕方、日も堕ちる時間帯。森の中は薄暗く、より一層気味が悪い。
「ここから先はやばい」
最初に呟いたのはルースだった。そう思ったのは"いばら"が現れたからだった。
太く大きないばらが城の方へと続いている。まるで木の根のように。
先程まで襲ってきていた食人植物達でさえ、その"いばら"には一切近づいていない。
食人植物は理解しているのだ。この"いばら"には近づいてはならないと。いばら姫の"いばら"なのだと。そして、そのいばらが続く奥には先程戦っていた食人植物よりも強い食人植物達がうようよといる。
「もしかしてこれが…」
「あぁ、その通りだ」
ダレンは見たことがあるように話をする。
「そこら中にいばらが沢山あるだろう。それが全ていばら姫のいばらだ」
濃緑のいばらがそこら中にある。城の方へと伸びている。
「あれが"いばら"だって?ほとんど木と同じじゃないか。あんな太い…木の幹のような"いばら"を容易く扱うのか、《いばら姫》は…」
「初めて見るなら驚くのも当然だ」
「ダレン殿、この"いばら"をどのようにして取るのですか!」
オーウェンがダレンに質問する。その間にルースは驚きと宝を見つけた少年のような顔でいばらを見つめる。
「つまり、これを…」
ルースは思いっきり剣を振り上げる。
このいばらを持ち帰ればシュエルが助かる。なら、善は急げだ!
「止めろ!」
その言葉は遅かった。
剣がいばらに当たった瞬間────無数のいばらの棘が伸び、ルースの身体に突き刺さる。
「うっ………」
遅かった――
ダレンはルースの方へと移動する。
「大丈夫か?」
「ッぐ……うっ」
痛みで声もあげられないというところか。
ダレンは突き刺さった棘を取ろうとするも全く動かない。
「既に内部に侵食を始めている。ルース少し痛むぞ」
《いばら姫のいばらの棘》攻撃を受けた瞬間その方向に向かって棘を何本も伸ばし反撃する。そして、突き刺さったところから侵食するように棘が成長を始め、骨すらも砕き、身体を内部から壊す。
普通のいばらであればそんなことは無い。ただし、《いばら姫のいばら》であれば別だ。
幸いここは植物王の城から離れている。そのため、侵食の速さは遅い。いばら姫に近づけば近づくほど速くなる。
やむを得ない。アレを使うか――
ダレンは右手の黒の革手袋を外す。
その手は普通の人間の手だった────今はまだ。
「炎の手」
その言葉を発した直後、ダレンの右手から炎が激しく燃え盛る。音を立てる手を見てオーウェンの目が驚きのあまり開く。
「ダレン殿、一体何を!それになんですか、その力は!」
「オーウェン、近づくな。ルースは助ける。周りの食人植物を倒してくれ」
オーウェンは言われた通り魔法で食人植物達を撃退していく。
「頼みますぞ」
燃え盛る炎を纏った手をルースの身体に触れた瞬間、ルースが炎を纏う。と、同時にルースが叫ぶ。
「ウァァォアアアァァォォ」
燃え盛る炎が身体を蝕んでいる。炎が身体中から溢れ出す。
「頼むぞ、もう少しだ」
時間をかける。それしかいばら姫のいばらの棘は完全には燃え尽きてくれない。
「時間との勝負だな」
そして、回復薬を無理やりにでも飲ませながらルースに《炎の手》を使う。
「あっ……」
数十秒後ようやくルースの叫び声は止む。
「気を失ったか、仕方ない」
ダレンはそのまま右手で触れながら、口でひ左手の手袋を外して呟く。
《吸収することのできる魔手》
ダレンの左腕が悪魔のような腕になる。どす黒く、何よりも歪であり、見ただけで悪寒がする腕。それは正しく悪魔の手にふさわしい。
オーウェンはその腕を目にした瞬間すぐに目線外した。それは目で見れないほどに嫌な感じがしたからだった。
「ルース、大丈夫だ」
その魔手でルースへ触れる。その瞬間、大きな音と共にルースの燃え盛る炎が魔手に吸収するされるように消えていく。そして、傷すらも無くなっていく。
そして、ダレンの左腕が元の腕に戻った瞬間、ルースは何も無かったかのように起き上がる。
「何が起こった!?」
「ぐっ…ルース、立てるか?」
ダレンは凄まじい汗をかきながら、立ち上がる。
「オーウェンはそのまま攻撃を頼む。ルース、起き上がって加勢してくれ!俺がいばら姫のいばらの棘を採取する」
ルースは何が起こったのか分からなかったがそのままダレンの言うことに従った。
「これで大丈夫だろう、それよりも…」
目の前にある太く長い"いばら"。この"いばら"は並大抵の冒険者では傷1つ付けられない。
だが、ダレンは違う。
「久々に使うな――」
元に戻った両手を見てダレンはギュッと手を握る。
《勇者の手》
ダレンの両手が光り輝く。それを2人は見つめていた。集まってくる食人植物を倒すことが精一杯だった。それでも尚、その手を見つめる行為の方が最前となった。
その姿はあの勇者が如く、勇敢であり、そして敬意を示したくなるような────
《空間武器庫》
亜空間から剣を手に取る。そして、いばら姫のいばらの棘に向けて剣を下ろす。
ルースが振り下ろした時とは違い、"いばら"自体が斬られたことを認識出来ないように全く反応しない。棘が反撃することなく斬り落とされる。
「断ち切れたか」
大きな"いばらの棘"を断ち切ったダレンは膝を地に着いた。
「力を使いすぎたか………。2人とも、終わった。さっさと帰るぞ」
ふたりはその声に反応して駆けつける。そして、いばらの姫のいばらの棘を手にして立ち去る。
「悪いがもう力が残ってない。あとは頼む」
その間に襲ってくる食人植物達を何とか退けながらようやく高いフェンスが見えた。
「ごこぉぁあぁぁ」
飛び出してきたマンドレイクに向けてオーウェンは杖を振るう。
「ファイアボールッ!」
赤く光る火の玉が勢いよく放出される────
当たった瞬間、マンドレイクが弾け飛ぶ。
「よし、あと少しだ!」
そして3人はフェンスから外に出て直ぐに門を閉めた。
汗をかき、オーウェンとルースは息を吐いた。
「終わったんだよな」
「終わりですか?」
その言葉にダレンは答える。
「終わりだ」
ようやく3人は目的を完遂した。
「これで、これでシュエルは助かるんだな!」
その言葉を遮るようにオーウェンが口を開いた。
「それよりも、あの力はなんですか。ダレン殿、ルース様を助けた時の炎を纏った手とあの悪魔のような手、最後の勇者のような手は一体…」
すると、ダレンは口を開く。
「あれは、俺に備わった能力だ。天からの…いや神からのギフトとしか言えない。解除師としての力では無い。俺は……いや、なんでもない」
「言えないこともあるだろう。オーウェン、今はやめておけ」
「そうですね、とりあえず帰りましょう3人で!」
3人はそのまま歩いて目的地へと向かう。まだ何も解決はしていない。シュエルの《いばらの呪い》を解呪しなければ何も解決はしないのだ。
「あぁ、そうだな」
3人は話をしながら帰った。それぞれの生まれや関係、そして思い出を話しながら。
いばら姫のいばらの棘は難易度☆8であるが、それはいばら姫に近づけば近づくほど難易度が高くなり、そして良質な素材となる。
今回採れた質は中の下といったところではある。だが、俺が使えば確実に最高の素材として扱える。
なぜなら、俺は解除師だからだ。協会でも匙を投げた…いや、解くに至らなかった呪い。
俺でなければ…いや、必ず俺が解くだけだ。
「じゃあ始めるぞ」
ダレンは帰宅後すぐに準備を開始する。ルースとオーウェンはその場に佇み、祈ることしか出来ない。
「ダレン殿よろしくお願いします」
ダレンは頷き、フランに声をかける。
「フラン手伝って欲しい」
「はい、もちろんです」
フランは持ち帰った素材をオーウェンから受け取るとそれを机の上に置く。
・スケルトンの涙
・真珠の葉の真珠
・いばら姫のいばらの棘
以上が今回の必要素材――
「それでは始めますね」
他のふたりは見守るしか無かった。
「じゃあフラン教えたとおりにやってみなさい」
「はい、分かりました」
《いばらの呪い》の解呪――
1.まず、真珠の葉の真珠をスケルトンの涙の入ったガラス管へと入れる。
2.そして、それを火で熱しながら三十分ほど待つ。
3.すると、真珠にヒビが入るため、そこにいばら姫の棘の中にある数量だけ採取できる核を取り出し、削る。それを、ガラス管へ入れる。
4.そして、そのまま熱し続けると真珠の中にいばらの棘が入り込む。
5.すると、真珠のヒビから細いいばらが生えてくる。
6.その状態に入れば熱するのをやめて冷やす。
7.時間を置くとそこから生えた、いばらが真珠に纏い始める。
8.真珠が見えなくなるくらいまで巻き付くのを待つ。
9.それを慎重に取り出す。
「ダレン様、できました」
《いばらの呪い》を解呪することに使用する材料
"いばら姫のいばら真珠"
いばらが纏う真珠の姿はそこらに落ちているような石等に見える。
それをピンセットで少女の口に運ぶ。
「それは口にして大丈夫なのか?」
「はい、これで呪いの進行を遅らせることが出来ます」
「あとは解除師の仕事だ」
まず、解呪はこの"いばら姫のいばら真珠"のみでは不可能である。症状の進行を抑える効果はあるが解呪はできない。なら、なぜ作ったのか――
それは、解呪の成功率を上げるためである。
《断除力》は使用者と使用する相手の状態によって力の大きさが左右する。もし、使用者や使用する相手の状態が悪ければ根源を断ち切れず弾かれることがある。
何もせず、《断除力》を使用しても普通の状態ではほぼゼロに近いパーセントのところをこの"いばら姫のいばら真珠"を使用すれば解呪の可能性は格段に跳ね上がる。
俺達、《解除師》に失敗は許されない。失敗すればそれはもう解除師とは呼べない。
だからこそ、俺達は《解除》するために必要なことをする。
完全に断ち切るために――
もちろん、使用する相手がどんな状態だろうと《解除》するのが俺達《解除師》なわけだが――
「頼むぞ」
恐らく、教会の司教は何度も解呪をしようとしたのだろう。だが解くことが出来なかった。だからふたりは俺のところにきたのだ。
この"いばら姫のいばら真珠"があれば教会で治すことは出来るだろう。時間をかけじっくりと呪いを解呪する。そうやって司教達は人の呪いを解く。
しかし、今回は"時間"が限られていた。限られた時間の中で司教達は自分達の力を使った、それでも"いばら姫"の呪いを解呪することは難しかった。
現在も"人の使う呪い"と"魔族が使う呪い"は完全に解くことが出来ないのものが多くある。《魔王》と《八貴族》の使う呪いは特に多い。人類の脅威となりえる。それだけ強い呪いということだ。
ただ、《いばらの呪い》にも強弱がある。弱い呪いであれば司教達でも解けるだろう、だが今回は違う。
「2人とも、シュエルが《いばらの呪い》を受けた時にその場にいたのか?」
「いや、いなかった。消えたシュエルを探して倒れていたところを見つけたんだ」
なるほど…。どうやら、彼女は出会ってしまったらしい。
《いばら姫》に────
でなければ、司教が解呪できないはずがない。
《いばらの呪い》は《いばら姫》またはその配下となる《食人植物》から受ける呪い。
その配下の中でも《食人植物》から受けることが普通だろう。
その呪いは《いばら姫》と比べるなら弱く司教でも解呪できる。だが、今回は別だ────。
明らかに違う、俺も何度か《いばらの呪い》を見てきたがこの呪いの強さは次元が違うようだ。
一般冒険者が《いばら姫》から直接呪いを受けるとは…。どうやら、この子に直接話を聞く必要があるようだ。
「フラン、見ていなさい」
解呪することにおいて、1度でも失敗すれば再度素材の取得が必要になる。
そんなリスクがあるからこそ、俺たち解除師がいるのだ。
俺たちの扱う解呪する力は司教や他の者が扱うものとは違う。
《解呪────■▼▶■》
ダレンは息を吐く。
《断除力》
その瞬間、少女の身体を纏っていたいばらが崩れ落ちる。そして、少女の表情は和らぎ、落ち着いていく。
フランはその姿をじっと集中して見つめていた。
少女が落ち着き、ダレンは流れた汗を拭き取ると後ろを向いて2人に伝える。
「終わったぞ」
ようやく解呪が終わった。その言葉で2人は歓喜する。
「ありがとう、本当にありがとう!」
「ダレン殿…ありがとうございます………」
「今日は寝かせてあげてくれ。明日には目を覚ます」
次の日、少女は目を覚ました。
「あれ…私……」
同じように2人は歓喜し、ダレンに感謝を伝えた。
「良かった、これを飲むといい。体力が回復する」
ダレンは飲み物を差し出すと少女は首を傾げた。
「あ、あなたは…?」
すると、オーウェンが説明する。
「この方は《解除師》のダレン殿、そして隣の方がその助手のフラン殿です」
「フラン・エレクトリアムです。ダレン様の助手兼弟子兼家政婦兼その他です」
ぺこりと頭を下げるとシュエルもまた挨拶をする。
「こちらこそ、シュエル・マキマエルです」
「って、解除師様ですか!?あの、あの王宮の?」
「いや、違う。王宮の解除師では無い。普通の解除師だ」
「あ、そうだったんですか。でも、本物の解除師様に出会えるとは思いませんでした」
興奮気味のシュエルはダレンに渡された飲み物を飲み込む。そして、フランが黙ってパンを差し出した。
「あ、ありがとうございます」
フランからパンを受け取ると口に運ぶ。
「美味しい、ありがとね」
フランは黙ってその場から立ち去る。
「悪いな、少し人見知りなんだ。調子はどうだ?」
体調を聞くとシュエルはうーんっと考えた後答える。
「良いと思います、それよりも本当にありがとうございました」
「いや、気にするな。仕事をしただけだからな。それよりも仲間3人で話す時間もいるだろう。落ち着いたら呼んでくれ、隣の部屋にいる。後で少し話を聞きたい────」
そして、3人を残して、ダレンは隣の部屋に行く。扉から出るダレンに3人は改めてお礼を伝えた。ダレンはそのまま部屋を後にした。隣に借りていた部屋に入るとお辞儀するフランがいた。
「フラン、気を使えることは良いことだ」
頭を撫でられて喜ぶ。
「いえ、今回は運が良かったのですね。普通なら死んでいましたよ、あの二人」
「そうかもしれないな」
今回は運が良かった。そこまで強くない食人植物ばかりでオーウェンでさえ撃退できていたのだから。恐らく、いばら姫がどこかへ行っていたからなのかそれとも本当にたまたま敵が弱かっただけなのか。理由は分からない。
かもしれない、と言ったのはそれが理由だった。
それでも、助けられたのならそれでいい。運もまた実力の内なのだから。
「だけど俺がいるなら死なない、だろ?」
「その通りです、ダレン様。それにあの女の子を見てダレン様の表情が変わったのは《いばら姫》から直接呪いを受けたと思ったからですか?」
「その通りだ、根深い呪いは術者本人から受けることが多いからな。偉いぞ、良く気づいたな」
もう一度頭を撫でられ喜ぶフランは笑顔になる。
「ダレン様、それよりも今回の旅の話を聞かせてください」
すると、ダレンは笑みを浮かべて答える。
「そうだな。フラン、お前を楽しませられるような話をするために俺は解除師として依頼者と旅をしている。付いてくるのも良いがこうやって話を聞くことの方が好きだもんな」
「はい、自分で素材集めをすることも楽しいですがダレン様からの話を聞くのが一番好きです」
そんなフランをベッドに腰掛けるように告げて自分は椅子に腰掛ける。
「じゃあ話をしようか、今回冒険した2人の冒険者、ルースとオーウェン、そして2人と今回の少女、シュエルについて────」
終わり。
読んでくださりありがとうございます。
この後の話はまたいずれ書いてみたいと思ってます。




