8話 焚き火
晴子
池の水面にランタンの灯りが揺れ、幻想的な雰囲気を作り出していた。
まるで、何事もなかったかのように。
他のキャンパーも慌てて帰る人達は今のところ数組だけなようだ。
周りのキャンパーの話が聞こえてなければ、私たちも何の疑問もなくキャンプを続けていただろう。
焚き火に薪を追加しながら思う。
とりあえず二人ともお酒を飲んでしまっているので今からバイクで帰る事は出来ない。
もうこれは間違いなく確定事項だ。
そもそも真っ暗な山道を二百キロ走って帰ること自体現実的じゃない気がする。
今日は普通にキャンプして予定通り明日帰るしかないだろう。
でも、明日本当に帰れるのだろうか。
私はナビに従って走ってきただけで、ほとんど道は分からない。
スマホの電波が無ければ、文字通り右も左も分からないのだ。
考えれば考える程に不安は膨らんでいく。
すると彩ちゃんが口を開いた
「私は弟とお母さんが心配だから、早く帰りたい。だけど、現実的に今からは難しいと思うから、明日早くに出たいと思うんだけどどうかな?」
私も頷きながら返答する。
「そうだね。それで良いと思う。ただ、電波が無いと道が…」
と言うと彩ちゃんが意外な返答が帰ってきた。
「多分私大体の道はわかると思う。」
「え?」
「一応今回ここまでの道を何パターンか調べてきたの。実際来た道も国道とかだけなら想定していた道だったし。
多分最短では無いけど、帰れるとは思うよ。」
「彩ちゃん、道覚えてるの?すごいな。」
気付いたらタカシさんが来ていた。
「最近の若い子ってスマホ頼りなイメージあったけど、ちゃんと準備してきてたんだな。」
勝手に焚き火に薪をくべながら言った。
「急いで帰りたいのであれば、俺の車で送っていくよ。多分仕事は変わって貰えると思う。
初対面だから怖いかもしれないけど、心配しなくて大丈夫。ミキさんの知り合いにおかしな事なんて絶対出来ないし、バイクは落ち着いてから取りに来たらいい。」
なるほど。要チェックや!
車や公共交通機関で帰る方法もあるのか。
どこまで平常に運行しているかは分からないけど。
私が言う
「とりあえず向こうや道中の状況を知りたいですね。
明日になれば電波回復しないかな?」
彩ちゃんが返答する。
「この辺りはするかもしれないけど…
震度6でしょ…東京神奈川はどうだろう。
高速道路が使えなくなると、一般道も渋滞するよね…」
タカシさんが言う。
「確かに、神奈川で大渋滞になったら、車も全然動けなくなるよね。
そうしたらバイクはメリットあるね。」
彩ちゃんがイヤイヤと顔の前で手を横に振る。
「荷物積んでるとすり抜けは中々難しいんですよね」
そもそもホントはすり抜けはダメだけど…
「もし、バイクで帰るなら荷物置いて行ってもいいよ。
管理棟で保管しておくよ。
俺は正直あまり急いで帰るのはオススメはしないけど。
最低でももう一泊くらいはして情報収集した方が良いと思う。
多分学校がすぐに通常営業になる規模の災害では無い気がする。」
「ラジオでの情報的には大きな津波の被害や、火災、建物の崩壊は今のところ起きてないみたいだけど。こうゆうのはあとからどんどん情報が増えていくからね。
明日の朝にはミキさんも来るから、それからまたどうするか決めたらいいと思うよ。」
タカシさんはもし、今晩動く可能性があるなら電話くれと言って携帯の番号をメモを渡して戻って行った。
電話通じないのに。
私のスマホも彩ちゃんのスマホもラジオもテレビの機能も付いていない。電波も無いのでやる事もない。
焚き火の炎がゆらゆらと揺れるのを、ただ黙って見つめた。何も考えたくないのに、頭の中では次々と不安が浮かんでくる。
それでも、揺れる炎に目を奪われていると、不思議と心が少しだけ静まる気がした。
下手の考え休むに似たり。
だっけ?多分私が一人で悩んでも何も解決はしないだろう。
だからと言ってスマホも使えない今、出来ることなんて限られている。
薪をくべたあとの火がパチパチと音を立ててはじける。星は雲ひとつない夜空にくっきりと瞬き、焚き火の音と虫の声だけが、静かな森に溶けていた。




