7話 緊急
彩
朝からずっと迷っていた。
晴ちゃんに、いつ言おうか。
私は高校生の時から三年付き合っている同い年の彼氏がいた。晴ちゃんとも何度か会ったことがある。
その度に晴ちゃんは
「笑顔が素敵なイケメンだね。」と、言ってくれた。
彼は文系の大学に行き、私は看護の道へ。
お互いアルバイトとサークル活動等が忙しく、私の実習が始まると会う時間はどんどん減っていった。
そして、今年の夏くらいから彼に女性の影が見え隠れしてきた。
問い詰めると、あっさりと浮気を認め別れを告げられた。
初めての本気の失恋をした。
ほんの2週間前の事だ。
でも、それがまるで昨日のことのように、あるいは遠い昔のことのようにも感じる。
3年間付き合って来た彼、当然結婚も視野に入れていた彼との交際はたった10分ほどの話し合いであっさりと幕を閉じた。
手持ち無沙汰になりスマホを見ても誰からも通知はない。
炎を眺めながら、私が悪かったのだろうか?などと考えていると涙が出そうになる。
「実は私彼氏と別れたんだよね。」
自分でも驚くほどあっさりと口から出た。言った瞬間胸の奥がズキリと傷んだ。
ウトウトしていた晴ちゃんが目を見開いた。
え?
すると、手に持っていたスマホがけたたましく鳴動しはじめる。晴ちゃんのも他のキャンパーのスマホもだ。
キャンプ場にブザーのようなサイレンのような嫌な音が鳴り響く。
ー緊急地震速報だ。
え?晴ちゃんがキョトンとしている。
ほぼ同時に、穏やかだった池の水や木がざわめき、地面もかすかに揺れ始めた。
そこまで大きい地震では無さそうだ。
30秒程で落ち着いたように思う。
晴ちゃんが
「今年一番びっくりしたかも。
久しぶりにスマホから警報鳴ったね。怖かったー」
と、あまり怖くなさそうに言う。
スマホで地震の情報でてるかな?と思うが、インターネットの状況が悪く繋がらない。
まぁ、いいか。と思って残っていたほろ酔いの缶を手に持つと晴ちゃんが言う。
「っていうか、彩ちゃん今凄いこと言わなかった?気のせい?」
「気のせいじゃないよ。ホント。振られちゃった。」
えぇーと驚愕の表情をする。
それから事の事情を軽く説明すると、
晴ちゃんはしばらくぶつぶつと何か思案した後言った。
「人生は七転び八起きだ!
立ち上がり続けりゃ勝つんだよ」
「勝っちゃうんだ。
それ昔読んでた少女漫画のセリフだった気がする」
と苦笑すると
晴ちゃんは続ける。
「いや…微妙だな。
笑えば良いと思うよ。」
「いやいや。なんでエヴァ」
私は苦笑する。
流石にそれくらいは知っている。
なんとか明るくしようとしてくれいるようだ。
めっちゃ動揺していて可愛い。
そんな話を10数分していると周りのキャンパー達の話し声が聞こえてくる。
「東京で震度6だって。ヤバくない?」
晴ちゃんと目を合わせる。
2人ともすぐにスマホを見るがインターネットに接続されない。
「え?結構やばくない?
そういえば管理棟にWiFiがあったはず、行こう。」
と晴ちゃんが言う。
ランタンを手に小走りで管理棟に着くと、目立つ場所にWiFiの張り紙がしてある。数人のキャンパーが張り紙の前でスマホを操作している。
口々に繋がらないとボヤいている。
インターネット自体が止まっているのか、だとしたら大きな災害な可能性が…そんな声が周りから聞こえてくる。
もう嫌な予感しかしない。
そういえばスタッフのタカシさんは今日キャンプ場に泊まると言っていたので、管理棟の中にいるはずだ。
受け付けの前まで行くとタカシさんが受け付けの中で真剣な顔でラジオを聞いていた。
聞き耳を立ててみると、十九時過ぎに起きた地震の震源は東京湾南マグニチュード6.5だと言っている。
一時的に携帯の電波、インターネットが不通になっている地域がある。津波の可能性もある。電車、高速道路、飛行機は動かなくなっているそうだ。
余震に気をつけるように繰り返し言っている。
なるほど。これはヤバいな。
家や家族は無事だろうか。
私の父は海外出張中。
母と4歳の弟だけが家にいる。
大丈夫なんだろうか?
胸の奥にざらりとした嫌な感覚がある。
家具が倒れたり、ガラスが割れて怪我をしていないだろうか。
いや、母はしっかりしているから大丈夫だろう。そう信じたい。
近くには晴ちゃんの家族もいる。きっと叔父さんー晴ちゃんのお父さんが駆けつけてくれるだろう。
LINEも繋がらないし、通話も出来ないので何も確認出来ない。
こんなに離れたタイミングでまさかの地震とは…
と、思案していると、タカシさんが出てきた。
集まって来たキャンパーの方達にラジオで聞いた状況を説明する。
本来は18時以降はゲートを閉めるけど、今回は帰りたい人もいるだろうから、空けておくとの事だ。
一通り説明した後私たちに後でテントまで行くね。と声をかけて管理棟に戻って行った。
私たちは暗闇の中、今まで味わったことのない不安を抱えながらテントまで戻った。
とりあえず緊急会議をする。




