6話 告白
晴子
私の父は、めんどくさい。
私がアニメの影響でキャンプに興味を持ったときも、最初は渋い顔をしていたのに、
数回付き合ったら、あっさりハマった。
それからというもの、宅急便の来る回数が爆発的に増えた。ギアは増え、父と私は月一ペースでキャンプへ行くのが当たり前になった。
めんどくさい事に、父はその度に一つ私に課題を課すのだ。
最初は椅子の組み立て。次の時はテント設営、その次は火起こし。買い出しや料理、バイクの免許を取ってからはバイクへの積載、キャンプ場選び、ルート等何かしら毎回、毎回だ。
基本的に、椅子やテントは説明書があるものが多いが、どうしようもない状態でなければ、父は何も教えない。
「わからなかったら、スマホで調べろ。」
と、言う。
本当にめんどくさい。
最近だと、焚き火で中華鍋チャーハンを作らされた。私はもっとパエリアとかアヒージョとかオシャレなキャンプがしたいのに!
おかげで、彩ちゃんと二人でキャンプ出来るようになったのだから、ありがたいとも思うのだけれど。
ミキさんに愚痴ったら、笑いながら同意してくれた。
「そーだよねぇー晴ちゃんのお父さん変わってるよねぇ。行動力凄いし。」
ミキさんとそんな話をしていると彩ちゃんが目を丸くして驚いていた。
「私は父親をあんまり知らないからなぁ。」
彩ちゃんがぽつりと言う。
彩ちゃんの母は彩ちゃんが小さい頃離婚していて、五年ほど前に別の男性と再婚して今四歳の弟がいる。
なんと十六歳下の兄弟である。
しかも再婚した今の父親は子供が産まれた直後、海外に単身赴任してしまっている。
なので、父親と生活した経験がほとんどないのだ。
ミキさんが仕事に戻って行ってから、彩ちゃんとキャンプ場を散歩する事にした。
普段住んでいる藤沢も都会という訳では無いが、あまり自然の中に身を置くことは無い。
特に池や白樺の木など普段の生活圏内には無いように思う。
いつもと違う空気を吸うと、気持ちが穏やかになる気がする。
私は今高校3年生だ。
もちろん受験の年であるが、2週間ほど前にあっさりと推薦で大学が決まった。
横浜にある大学の看護学科だ。
ちなみに彩ちゃんも東京にある大学の看護学科の生徒だ。
学力的には私の合格した大学より遙か上の大学だけど。
彩ちゃんはもう二年生なので通常の勉強をしながら、実際の病院で実習をしているので、かなり忙しそうだ。
ゆっくりと歩きながら大学の話を聞いてみると、一瞬彩ちゃんの表情が曇った気がしたが、色々教えてくれた。
年配の看護師さんが、挨拶にとてもうるさいのだが、私達の挨拶は無視をするだとか。指導員が実習生にめっちゃ厳しいのに患者さんには優しくて、気配りが出来る人だとか、イケメンの医者が患者の前以外では、めちゃくちゃだらしないだとか。
……聞けば聞くほど、想像していた看護実習とは違う、
ハードな現実がそこにあった。
さっきの一瞬の表情は、やっぱり本音だったのかもしれない。
それでも、彩ちゃんは楽しそうに話してくれた。
偉いなぁ、と思った。
そんな話をしながらテントに戻り、夕食の準備を始める。
夜ご飯は道の駅で買ったレトルトのカレーだ。バイクでのキャンプだと、積載できる調理器具に限りがあるので、シンプルな物になる事が多い。
とはいえ今回はかなり楽する事にした。
私はちょっと頑張って中辛にした。
彩ちゃんは辛さマークMAXの激辛だ。余裕と言っていたが、本当だろうか?私には信じられない。
メスティンに研いだ米と透き通る水を入れ、じっくりと浸水させる。このひと手間が、ふっくらとした炊き上がりの秘訣だ。バーナーに火を灯し、メスティンをそっと乗せる。
しばらくすると、ふつふつと小さな泡が立ち始め、次第に湯気が上がる。やがて蓋の隙間からかすかに甘い香りが漂い、米がゆっくりと膨らんでいく。パチパチと軽やかな音がし始めたら、炊き上がりの合図。火を止め、タオルで包んで蒸らせば、じんわりと旨みが米粒に染み渡る。
それから小さな鍋に水をいれて沸かし、レトルトカレーを温める。更にコンビニで買ったチキンを鍋の上で温める。
百均で買ったステンレスのお皿に、ふっくらと炊き上がった
お米をよそい、レトルトカレーをかけるとスパイスの香りが辺りに広がる。更にカットしたパリパリのコンビニチキンを乗せる。
完成してから、途中で買ってきたほろ酔いで乾杯した。
私は本当は年齢的に飲んじゃダメなんだけど、飲んでみることにした。
ちょっとクセがあるが、ほぼジュースのような味だ。
罪悪感も良いアクセントかな?
ちなみにカレーはとても美味しかった。
環境もあると思うが、最近のレトルトは本当に侮れない。
彩ちゃんのカレーを一口もらったら、まだ唇がヒリヒリする。やめておけば良かった。
食べてる間に日が暮れたので、焚き火を始める。
薪を細く割り、ナイフで簡単なフェザースティックを作り着火する。今回はファイアスターターではなく父オススメの極太マッチだ。
今まで、何度もやらされた経験があるので、あっさり火はつく。
焦げた木の匂いが辺りに満ちていく。
ちなみに彩ちゃんはナイフでの薪割りに夢中だ。
焚き火の炎が暖かい。
真っ暗になった森の中、目の前には池には反対側のキャンパーのテントとランタンが反射していてとても綺麗だ。
慣れないお酒を呑みながら、彩ちゃんとぽつりぽつりと会話する。
薪を追加しながら、風景と炎を眺める。疲労からか、お酒のせいか頭がふわっとしている気がする。
聞こえてくる音は薪の爆ぜるパチンという音と、木が風で揺れる音程度だ。
空を眺めると、ものすごい数の星が輝いている。
星座とか全然しらないけど、この星のどことどこを繋ぐと何座とか、昔の人は夜暇だったんだなとか、どうでもいい事を考える。
父がキャンプで呑む酒は異常に美味いとよく言っているが、少し分かるきがする。分かっちゃイケナイ年齢なのだが。
椅子に座ったままウトウトしていわると、彩ちゃんが平然とした口調で言った。
「実は私彼氏と別れたんだよね。」
え?と思った瞬間
静かなキャンプ場にあちこちのスマホから耳をつんざく様な警報音が鳴り響いた。
え?




