3話 とめさんとほうとう
晴子
走り始めて三時間。
海沿いの道を抜け、山道を越え、道の駅で軽く休憩しながら進んできた。
空は快晴。秋の陽射しはやわらかく、木々が金色に輝いて見える。標高が上がるにつれ、空気は少しひんやりとしてきた。バイクには寒いが、我慢出来ないほどでは無い。エンジン音を聞きながら、私はふと横を走る彩ちゃんを見る。
彼女はすっかりバイクに慣れたようで、ぎこちなかった最初の頃とは違い、スムーズにギアチェンジをこなしている。
「お腹すいたねぇ。何食べようか?」
インカム越しに元気な声が響く。
「山梨だし、ほうとう食べたいな」
「いいねほうとう。温まりそう」
温かい汁物が恋しくなる季節だ。
コンビニにバイクを停め、ヘルメットを被ったまま、スマホで良さそうな店を検索する。
近場で良さそうなお店を見つけ二人でそちらに向かった。
ナビを確認しながら大通りを走っているとお店の看板が見に入った。
古民家のようなお店の外壁にやさしそうなおばあさんのイラストが描いてある。
のび太のおばあちゃんみたいだな。と思う。
お店を通り過ぎた所の駐車場にバイクを止めエンジンを切る。ヘルメットを脱ぐと、ひんやりとした空気が頬を撫でた。
開き戸をガラっと開けると左側に下駄箱がある。
靴を脱いでいると店の奥から声がした。
「いらっしゃい。何名?」
顔を上げた瞬間、思わず動きが止まった。
そこに立っていたのは——
のび太のおばあちゃん風では無く、めちゃくちゃロックなばあちゃんだった。
ショートヘアを金色に染め、耳にはピアスがいくつかついている、着ているシャツはヨレヨレで大きなガイコツのような四人組のイラストとアメリカの有名なロックバンドのロゴが書いてある。
首や手首にはチェーンが着いている。
胸には小さなネームプレートに「とめ」と書いてある。
細身で身長は百五十cm位だろうか。
チラリと横を見ると彩ちゃんが笑いを堪えているのがわかった。
「予想外だったやろ。」
おばあさんがドヤ顔で言う。
私たちはついに我慢できず笑い声をあげた。
おばあさんは豪快に笑いながら席に案内してくれた。
店内は、外観の古民家風の雰囲気そのままに、木のぬくもりを感じる落ち着いた空間だった。開店直後のためか、先客は年配の男性客が一人だけ。ストーブが静かに燃えており、ほんのりと温かい。
通されたテーブルは掘りごたつになっていて、四人席の端に湯のみとポットが置いてある。
懐かしい雰囲気だな、と思ったが、同時におばあちゃん家にも掘りごたつは無いな。とも、思った。
「あんたらバイクか!」
大きな声で喋りながらポットから暖かいお茶を入れてくれる。
「どっから来たん?」と尋ねる彼女は山梨のお店なのに妙に大阪弁のような喋り方だ。
おすすめのメニューを聞き、注文する。
量が多いらしいので、ほうとうを二人で一個とおにぎりを一個づつ注文する。
とめさんが店の奥にオーダーを伝えて戻ってくると小鉢を出してくれる。
切り干し大根が入っていて美味しそうだ。
「神奈川だと茅ヶ崎は近いのか?」
と聞いてくる。
「茅ヶ崎は隣の市ですよ」
と答えると
「孫が茅ヶ崎におんねん。
だけど、息子の嫁が気難しくてなぁ」
「やっぱり孫って可愛いんですか?」
「そりゃそうや。息子とは大違いや」
と笑った。
子供も結婚もまだ遠い私達にはまだ想像つかない感覚だ。
初めて来た私達にイキナリ身の上話を始めるおばあちゃん。
パワフルだなーと思っていると、お客さんが入ってた。
とめさんが忍者のようにサササっと入り口に向った。
暖かいお茶をすすりながら、彩ちゃんが聞いてくる。
「時間的には順調?」
「そーだね。まだ慌てるような時間じゃない。」
と答えると、彩ちゃんがニコッと笑う。
「疲れてない?」と聞くと、
「最初は緊張したけど、全然大丈夫。バイク楽しいね。」
と彩ちゃんが後光を発する。
「ピンチに立たされた時二倍、三倍になって襲いかかってくる。
それが疲労だ。」
と某バスケ漫画の名セリフを呟くと彩ちゃんが、吹き出した。
「晴ちゃん漫画好きすぎでしょー」
うん。笑顔が素敵。
このあと、到着したおにぎりの具が間違えていたり、ほうとうがめちゃくちゃ熱くてちょっとヤケドしたりしつつ、私達は再びバイクに跨った。
彩ちゃんが道の駅で初めてのナンシーおじさんに遭遇したり、私が全力でヤエーした相手が地元の原付おばさんでめっちゃ怪訝な顔をされたりはしたけれど、本当に順調に目的のキャンプ場に到着する事が出来た。




