17話 ミキ
ミキ
夜7時。
私は地元の大きな公園にあるフットサルコートに来ていた。
人工芝で緑色の網で囲われているコートが2面ある。
広い公園の中で、ここだけがライトで照らされていてとても明るい。
コートの中で小学生と大人が一緒にプレーしている。
どうやら親子サッカーらしい。
小学生は3、4年生くらいだろうか。
ふと歓声があがる。中でも身長が低く、太った子供がゴールを決めたようだ。
決められたキーパーの中年男性が悔しがっていて、コートの中も観戦してる親達も楽しそうだ。
私はプレイヤーとして日本代表を目指し幼少期からプレーしてきたが、25を過ぎた頃からサッカーが楽しく無くなってしまった。一部リーグでプレーしているが、ここ数年特に大きな結果も出せていない。
怪我もあり、モチベーションを維持するのが難しくなり引退を考えていると、代表経験のあるサキ先輩がここの時間と場所を教えてくれた。きっと面白いから行ってみて。と。
半信半疑で犬の散歩ついでに見に来てみることにした。
正直こんなの見ててもなぁーと思ったが、先輩に言われてきたのでしばらく見てみる事にする。とりあえずコートの外の芝生に腰を降ろす。
子供3人か4人。大人2人で1チーム。
3チーム作ってずっと試合形式のゲームをしている。
見ていると子供のレベルに大きく差がある事が分かってくる。
かなり上手な子とほぼ初心者が一緒にプレーしていて、それでいて試合が成り立っている。
コートにいる大人がバランスを取っているのもあるだろうが、初心者に見える子も時々凄く良いプレーをしている。
不思議なチームだ。
コートいる人も観戦してる人もとても楽しそうだ。
大人が盛り上げ、子供が盛り上がり、怒号が飛び交う事がない。
ふと見ると連れてきた犬、チワワが5、6歳位の女の子に撫でられている。女の子が話しかけてきた。
「お名前なんて言うの?」
舌っ足らずな感じが可愛らしい女の子だ。
「私?いや、犬か。タマだよー」
「犬なのにタマなの?」
「そうそう。かわいいでしょー」
「チョーかわいい」
「君もチョーかわいいよ。」
女の子はえへへと嬉しそうにしながら聞いてくる
「おねーひゃんは、サッカーしにきたの?」
そういえばサッカーのブランドのジャージで来ている。スニーカーだけど。
んーと言い淀んでいると
「パパー来てー」
コートの中に向かって大声で言う。
「むしろコッチ来てー」
さっきゴールを決められて悔しがっていた中年男性がコートの中に手招きする。
女の子とタマを連れて近くまで行くと
「こんばんは。サキから聞いてる子だよね?一緒にやってく?大人がちょっと足りなくて。混ざってもらえると嬉しい」
すごく気軽に参加を促された。
「晴、このワンちゃん見てられる?」
中年男性が女の子に聞く。
「チョー余裕。タマひゃん大人しいもん」
飼い主である私をすっ飛ばして、話が決まってしまった。
観戦してる夫婦が
「大丈夫。私達も見ておきますね。」
と言ってくれた。
コートに入ると若い男性にピンクのビブスを渡された。
次の試合から出て貰えますか?
このチーム初心者が多いのでボール運んでパス出してあげてください。
ちなみにこのビブスを渡してくれた若い男性が元旦那だ。
結果めちゃくちゃ楽しかった。
レベルがどうこうでなく。
ただ、勝敗を気にせず子供とプレーするのが。
初心者の子供にパスを出すと失敗を恐れずに足を振る。結果はどうあれ盛り上がる。
みんなでサッカーで純粋に盛り上がったのは久しぶりだった気がする。
それから数年間、定期的に晴ちゃんの父親の開催している親子サッカーに参加するようになった。
晴ちゃんの父親はさほどサッカーは上手くはなかったが、信頼されていて面白くて、中々めんどくさい人物だった。
「サッカーの指導者ってさ子供に色々うるせーんだよ。
足元にビタっと止めろとか、リフティングのボールが回転してちゃダメだとか。
そんなん出来るようになる前にサッカーイヤになるよ。普通の子は。適当に止められて適当に蹴れればある程度のレベルまでそれなりに遊べるんだ。」
サッカーではよく
「細部に神は宿る」
と言われる。私もよく言われたし、そう思って練習している。このおっさん、名言全否定である。
「ミキみたいな高いレベルでプレーしてりゃそうゆうのも大事でしょ。
でも子供はまず面白くて褒められる物にハマるでしょ。
技術なんて選択肢増やすための道具でしかないよ。ヘタクソでも頭使って走って、相手が触れない所にボール弾いて、先にボール触れりゃ良いんだ。」
私の周りにはサッカーの指導者が多いがこんな適当な事言う人は初めてだ。
「サッカーはさ、下手くそでも遊べるスポーツなんだよ。
一生懸命守備やればそんなに点差が開かない事が多いから。
メタボなオッサンが集まってやったって楽しい。
なのに下手な子は試合出れないし、出ても怒られてばっかりだ。そりゃテレビゲームの方が楽しくなるって。
たまには大人が子供を楽しませりゃ良いよ。結果大人も楽しいしね。」
ずっと勝ち負けをメインに、自分がどう活躍するのかを考えてプレーしてきた私にとって、斬新だった。
ここでプレーし始めてから、考え過ぎでストイック過ぎたのだと思い知らされた。自分にも、他人に対してもだ。
それから自分のチームでの試合でも自然と笑顔が増え、成績も上がってきた。
それから一年経った頃に念願の代表の合宿にも呼ばれた。
公式な試合に出る事は叶わなかったが、結婚と長野への引越しを機にプレイヤーとしては引退した。
あれから数年がたった今でも長野で同じようなスタイルの親子フットサルを元旦那が運営している。
あの時声を掛けてくれた晴ちゃんがキャンプ場に来てくれたのは、とても嬉しかった。
その晴ちゃんをあっさり返してしまったのは間違いだったように思う。
私はあまり後悔をしない性格だと自負してきるが、何故か気になっている。
災害発生から丸1日たったが、まだ電気が使えないエリアが多い。今の関東にハタチそこらの女子二人でバイクで帰るのは危険が付きまとう気がした。
キャンプ場のオーナーである父に数日休みを申し出ると、あっさりとOKが出た。
キャンセル申請が沢山来ていて、しばらくは暇そうだ。
そういう事ならと、ついでにタカシも借りていく事にする。
タカシに説明すると、嫌そうな顔をされた。
「私はね。晴ちゃんのお父さんにちょっと恩があるのよね。今私のせいであの子に何かあったら凄く嫌なんだ。
それに美女に頼まれて美少女を救いに行くんだよ?
前言ってたよね?
俺たちオッサンは美女の前では、ただただひれ伏すのみだ。って。」
「言ってない。多分。
いや、言ったかも。
酔ってる時に。」
「いやいや、てゆーかミキさん俺仕事が。」
「社長からはOK貰ってる。明日から5日間休みだって。」
タカシが頭を抱える。
「マジすか。この親子怖!」
「それからーねぇ、
あの子達の無事が確認出来たら、横浜のウチの実家行ってお母さんの手伝いね。ヨロシク。」
タカシがこの世の終わりのような表情をする。
さすがに悪いと思い。
「じゃ帰ってきてからデート一回でどうだ?」と、提案してみる。
タカシからここ数ヶ月アプローチを受けているが、一回位デートしても良いかな?と最近思っていた所だ。
タカシはニヤニヤ少し気持ち悪い顔をしながら
「仕方無いなぁー」
と了承する。
やっぱデートはやめようかな?と、一瞬思った。
夜中、仮眠から目覚めて準備しているとタカシが迎えに来た。
赤と黒のFJクルーザー。
リフトアップして大きなタイヤを履いている。
車に荷物を積み込む。
凪が一緒に行くと言って聞かないので、後部座席にチャイルドシートも取り付ける。
多分今から走れば明日には余裕で追いつくはずだ。
晴ちゃん、今逢いに行きます。てんとう虫に乗って。




