16話 雨
晴子
ポツポツとヘルメットのシールドに雨粒が当たり始めた。
少し前から急に気温が下がったと思ったらやっぱり降ってきた。
先に言っておくが、私は雨女ではない。
キャンプに行く時は晴天が多いし。
イベント事で雨に当たることは少ないと、思う。
ちなみに天気予報では20%だったが、降る時は降る。
降り始めて5分もしないうちに土砂降りになった。
だが、今は渋滞でノロノロ進むだけだ。
私の来ている服はワークマンの上下で防水性能がそれなりにあるが、それでも部位によっては少し冷たい雨が染みてきている。
彩ちゃんは普通のアウトドアブランドのダウンだ。
撥水性能はあるだろうが、バイクではほぼ無意味だ。
どこか安全な所で止まってレインコートを着ようと話していた。レインコートはバッグの奥に入ってしまってあるらしい。
とはいえ川沿いの片道1車線道路にそんなにすぐ止まれる所はない。
それに固定してるバックを外してカッパを探すなら屋根が欲しい。結局10分程ずぶ濡れ状態で走り、通り沿いにある古いスーパーやお弁当屋、クリーニング屋等が入っている古びれた商業施設に到着した。
彩ちゃんが寒さで震えている。
ダウンの中まで浸水してしまったのだろう。
渋滞のせいか車の駐車場が満車らしく、中々進まないので時間がかかってしまった。最後は少しすり抜けをして駐車場に入った。
幸いにも屋根の有るバイク置き場があったのでそこに停める。
彩ちゃんの荷物はもうずぶ濡れだ。
私は荷物は濡れないようにマルチグリドルをバックの上に縛ってある。
その下にまだ未使用のタオルがいくつかあったはずだ。
急いで引っ張り出して彩にわたす。
「私の濡れてない服もあるはずだから。着替えられるところあるか聞いてくる。」
「う、うん。」
震えている。妊婦さんが寒さで震えていて良い訳が無い。
トイレは使えるのだろうか。何より暖まれる場所は。
電気のない状況でこれは良くない。いや、かなり悪い。
スーパーの入り口の手前に自動販売機があったので見てみるも当然電気が来ていないので使えない。
災害時に使える自動販売機もあると聞いていたが、これは違うのか。それとも使い終えた後なのかわからないが、使えない。
暗いスーパーの入り口には現金のみ営業中と書かれた紙が貼られている。
ずぶ濡れのまま店内に入っていいものか一瞬躊躇したが、緊急事態だ。
文句を言われたら謝ろう。
せめて手で水気を払い店内に入ると所々に懐中電灯やランタン等が置いてある。客はほとんどいないようだ。
食品コーナーは何も無くなっている。
レジにいる店内の女性に助けを求めようと声をかける
「すいません。温かい飲み物や暖まれる場所はありませんか?」
女性は懐中電灯をこちらに向ける。眩しい。
「あら?アナタバイクの?」
とガラガラな声で言われた。
懐中電灯で顔はよく見えないが、見覚えのあるシルエットだ。毛先がピンクだ。
「あ!山中湖で!」
魔人…と言ってしまいそうになる。
おばさんは嬉しそうに
「あなた達まだ帰ってなかったのね、大変だったでしょう。
旦那と心配してたのよ。若い女の子2人でなんとか帰れたのかなって。
遠出してる時に限ってあんな地震。
大丈夫?大丈夫じゃないの?え?雨?濡れたの?バイクで?
ダメじゃない。あれ?今雨降ってるの?」
と、まくし立てるように喋る。
全然説明させて貰えなかった。だが、同じバイク乗り。
見ただけで、状況は分かったようだ。
裏の休憩室にストーブがあるから彩ちゃんを連れてくるように言われ、礼を言って彩ちゃんを迎えに行く。
店を出ると、彩ちゃんの声が聞こえてきた。
「やめてください。触らないで!いらない!こっちへ来ないで。」
普段の彩ちゃんからは想像も出来ない、鋭く張り詰めた声だった。
自動販売機を避け、バイクが視認出来るところまで行くと、黒い大きなバンがバイクの出口を塞ぐように止まっていて、助手席のドアが空いている。ハイエースだか何バンだかわからないが、私の父が仕事で乗っている様な車だ。スモークが貼られていて中が見えないようになっている。
車の横に2人の男性がいて2人共一目見てガラが悪い。
身長も体重も大柄で金髪坊主の若い男が彩ちゃんに向かい合っている。
オーバーサイズのバスケットチームのパーカーを来ていて金のネックレスが、遠目にも目立つ。
もう1人は痩身小柄で頭の両サイドを刈り上げていて襟足が長い。首にタトゥーが見える。金髪の男よりは歳上に見えるが20代だろう。
小柄な男が車の助手席から何かを取り出し、彩ちゃんに渡そうとしている。
彩ちゃんが
「いらないって!」
と大声を出し、小柄な男性の手を払った。と、同時に男性も持っていたものが宙を舞い、車にぶつかる。
ガンッと鈍い音で車の扉が凹んだのがわかる。缶コーヒーだったようだ。
男性2人の目の色が変わる。
「おい!何してんだテメェ!」と怒鳴り声がハッキリ聞こえた。
私は走って戻り彩ちゃんの腕を引っ張る。
「逃げよう。とりあえず店内に。」
謝るちゃんがはっとした顔でこちらを見る。
「逃がすわけねぇだろ。どうすんだ車オヤジのだぞ!」
男性が怒鳴るりながら、彩の反対側の手を掴む。
もうダメだ。拉致される!と思った瞬間、黒いバンの前からブーーーと長い大きなクラクションのような警告音が鳴った。
前には大きな赤と黒の車が止まっている。
てんとう虫みたいだ。




