11話 別れ
彩
「話せば長くなるけど聞きたい?
そ〜かぁそんなに知りたいかぁ〜
やっぱ女子はソコ気になるよねぇ。」
ミキさんがやたら嬉しそうに言う。
いや、今そこじゃないから。と私は晴ちゃんをたしなめる。
晴ちゃんが、ミキさんに元旦那さんとの出会いを聞いてしまったのだ。凪の目の前だし、正直これからの事を決めて動かなければならないのだ。
「あれは忘れもしない10年くらい前の7月か8月の夜だった…」
ミキさんが私を無視して話はじめる。
「忘れもしないって、めっちゃあやふやじゃないですか!」
と晴ちゃんが笑いながらツッコミを入れる。
「いや、すいません。ホントに止めてください。どーするか決めたいので。」
私が真剣な顔で言うと、ミキさんもようやく空気を読んで、
「そーだよね。ゴメンゴメン」と笑いながら謝る。
「さ、それじゃちゃんと話そうか」
と凪を膝に乗せる。可愛い。
ふと弟の事を思い出し、少し胸がさわつく。
「じゃ、まずはすぐに帰路に着くべきかどーかだね。」
「私は、ここか私の家に何泊かしてから帰る方が良いと思ってるよ。」
「関東の状況がわかって、道路とかが落ち着いてからの方が安全だと思う。
2人はどう?」
私は歳の離れた弟と母親だけが自宅にいて心配だからなるべく早く帰りたいと伝える。ミキさんが返答する。
「そうなんだ。
そしたらタカシの車で帰ったら良いと思うよ。私と凪も一緒にいくから安心して。
たまには晴ちゃんのお父さんにも会いたいしね。凪も合わせたいと思ってたんだ。」
ありがたい申し出だけど、流石に初対面の人にそこまで甘えるわけにはいかない。2人でバイクで帰ろうと思っている旨を伝える。
問題はネット環境と渋滞だ。
最悪途中でネット環境が無くなっても、ある程度道はわかるつもりなので、帰ることは可能だとは思うが、渋滞してて動かなければどうしようもない。
バイクですり抜けが出来ると言っても、キャンプ道具を積んですり抜けは怖すぎる。
ミキに伝えると、予想外の答えが返ってきた。
「そうしたらキャンプ道具はそのまま持って帰った方が良いね。
今スマホで見た感じだとあちこち通行止めになってるから、一日で藤沢まで帰るのは難しそう。夜中まで走るなら可能だろうけど、真っ暗だし。緊急事態の時って治安悪くなったりもするからやめた方が良いと思う。
山梨のどこかで泊まることを考えた方がいいよ。ビジネスホテルとかネットカフェとか、空いてればその方が良いかも。今ネット環境があるうちに空きがあるホテルを予約しちゃった方が良いかも。」
なるほどそうかもしれない。
スマホナビを見てみると通行止めの✖︎印は山梨の右側からが多い。
甲府を過ぎる位までは、ほとんどない。
とはいえビジネスホテルに何泊もできるほど現金を持っている訳ではない。
となるとネットカフェに泊まるかキャンプ場に泊まることになる可能性がある。
キャンプ道具は持っていった方がいいだろう。
ミキさんはさすがだ。
私はなんとか帰ることしか考えていなかった。
晴ちゃんがこの際だからほったらかせキャンプ場が空いてたら泊まろうか。と言い出した。
当初私が行きたいと言っていたキャンプ場だ。温泉付きの。
場所的にも丁度真ん中付近になる。
こんな状況で不謹慎な気もしたが、どうせ泊まるならビジネスホテルやネットカフェよりも温泉を選びたい気もする。
そもそもホテルもキャンプ場も空いているのだろうか。
私はビジネスホテルを甲府から笛吹市辺りで検索してみる。
ほとんどが空きはない。
あっても1人2万円近い高級な部屋のみだ。
ホテルは厳しいか。
同時進行で晴ちゃんがほったらかせキャンプ場の空きを確認する。
「空いてるよ。予約しちゃっていい?」
と嬉しそうに言った。
ミキもうんうん。と頷いている。
私もOK泊まっちゃおうと伝える。
ネカフェとかも空いてないだろうし。
とりあえず目的地が自宅からキャンプ場に変更になった。
ほぼ、初めてのキャンプでハシゴキャンプである。今の所疲労感を感じたりはしていないので、大丈夫だろう。
一泊と食事代位なら現金もある。
「よし、場所も決まったし、片付け始めよう!」
と、晴ちゃんが威勢よく立ち上がったので私も続く。
ミキに礼を良い凪をひとしきり愛でた後、撤収作業を始める。
設営の時もそうだが、撤収作業については本当に私は約立たずだった。
まず、シュラフを収納袋に入れられない。
これ本当に入るの?と半信半疑になる。
次に椅子も収納袋に入らない。
仕方が無いので、食器を洗いに行き帰ってくると晴ちゃんがテント以外ほとんど片付けてくれていた。本当に頼りになる。
2人でテントを綺麗にたたみ、収納袋に入れる。
晴ちゃんがやると信じられない位あっさりと収納出来る。
1時間ほどで撤収作業は完了した。
周辺にペグやゴミが落ちてないか2人で念入りに確認し、バイクの場所に荷物を運んだ。
10分ほどで荷物の固定が終わり、管理棟への砂利道をバイクで恐る恐る走る。
管理棟でミキさんとタカシさん、凪と私と晴ちゃんで写真を撮ろうという話になった。
タカシさんが俺はいいよと遠慮していたが、ミキさんが強引に入れと説得した。
年配のダンディな男性スタッフが手際よく皆のスマホで何度も撮影してくれた。
この男性、後で知ったのだが、このキャンプ場のオーナーで、更にミキさんの父親だそうだ。
驚きだ。
帰り際にミキさんに
「絶対また逢おうね!」
と、ギュッと手を握られた。
「絶対また来ます。」
と返答した。
今度は暖かい時期に来るのも良さそうだ。
凪のバイバイと振る手に後ろ髪を引かれながら私たちはキャンプ場を後にする。
心の中は昨日の出発前より不安が大きくなっていた。




