10話 凪
晴子
朝日で明るくなってきたせいだろうか。
日の出時刻の直前に目が覚めた。
中々に冷え込んでいる。
恐らく外は零度に近いだろう。外に置いてあるテーブル等は凍っているかもしれない。彩ちゃんはまだぐっすり眠っている。
寝ていても美人なのだから、美人は得だなぁと思いながら
シュラフの中から抜け出す。
コートを羽織り吐く息が白いのを見つめる。
寒い。
テントの中の小さなテーブルの上でガスバーナーを点火し、上にヒーターアタッチメントと呼ばれる鉄の筒のようなものを載せる。
テントの上部にはベンチレーションもあるし、入口を少し空けてあるので一酸化炭素中毒にはならないはずだ。
本来推奨される使い方では無いはずだが、気軽に暖を取れる方法の一つだ。ヒーターアタッチメントについては色々なメーカーから出ているが、父は無くても変わらん気がすると言っていたが、あると心強い。
少しずつテントの中が温まって来るだろう。
小さなやかんにペットボトルの水を入れアタッチメントの上に置いて温めながら、スマホをチェックすると、思わず声が出た。
「あっ!電波ある。」
良かった。
とりあえずここはインターネットが復旧している。
「彩ちゃん電波復活してるよー」
「んー んーもうちょっと」
再び眠ってしまった。
ネットニュースに昨日の地震の情報が沢山記載されていたが、状況は昨晩ラジオで聞いた状態からあまり変化が無いようだ。
東京の古いビルが大きく揺れる映像や古い平屋が倒壊したと書いてある。
やはり、けが人や死者も数名でてしまっている。
試しに家族にLINEを送ってみたが、送信は出来たが、既読は付かない。
向こうはまだインターネットが使えないのだろう。いや、まだ朝6時だ。寝ているだけかもしれない。
次に母に電話をかけてみる。繋がらない。父も弟も同様だった。
怪我とかしていないだろうか。まぁ、無事だとは思うけど。
試しにナビアプリで自宅まで検索してみる。
通常であれば5時間半位の時間が表示されるはずだが、表示は14時間だった。
あちこちに✖︎印が記載されていて通行止めが起きている事がわかる。
これは帰るの無理なのでは…
ため息をついていると、テントの中が暖まってきた。
明るくなってきたので、ガスバーナーを止め、テントの入口を開け外に出ると、もう日が登り始めていた。
木々の間から太陽の光が湖面を照らし幻想的な雰囲気だ。
こんな風景を見れるからキャンプは辞められない。
周りを見渡すと明らかにテントの数が減っている。
外に置いてあったテーブルと椅子はとても冷たくなっていたが、凍ってはいない。
よし、朝ごはん作るか。腹が減ってはなんとやらだ。
寒いのでブランケットを羽織って外で用意を始める。
ホットサンドメーカー、ソフトクーラー、ガスバーナーを用意する。
テーブルの上でホットサンドメーカーを開き食パンを1枚置く。
コンビニで買ったタマゴサラダの封を切ってパンの上に置き、更にパンで挟む。
蓋をして弱火でひっくり返しながら焼く。
パンの焼ける香ばしい香りが広がってきた。匂いに釣られて彩ちゃん起きてこないかな?と思っていたら、彩ちゃんがテントから出てきた。
「おはよぉーいい匂いだね。」
髪はボサボサだし、寝起き全開でノーメイクでも彩ちゃんは美人だ。
朝から役得だなぁとこっそり思う。
「もうちょっとでパン焼けるから食べよ。
暖かい飲み物はちょっと待ってね。」
ガスバーナーがひとつしかないから、同時に料理と暖かい飲み物を出すのは難しいのだ。キャンプでは暖かい物はすぐに冷めるし、料理を同時に完成させるのは難しい事が多い。
ホットサンドメーカーを上下ひっくり返してから開いてみると、ペンギンみたいな鳥のマークの焦げ目が綺麗についていた。この鳥実はペンギンじゃなないんだけど、名前は忘れてしまった。
裏面も軽く焼いてから、ホットサンドメーカーの上に置いたままナイフでナナメに切る。半分を彩ちゃんのお皿に乗せ渡す。
「え?なんか急にカフェみたいな朝食だ!」
と彩ちゃんがはしゃぎながらスマホで写真を撮っている。
食パンにコンビニのタマゴサラダを挟んで焼いただけなのだが、私はこれがとても好きだ。
ホントはバターかマーガリンを塗ってから焼いたり、チーズやハム挟んだり、追いマヨネーズしたりバリエーションはあるんだけど、今回はバイクなので、シンプルだ。
喜んで貰ってよかった。
お湯が湧いたので、ドリップコーヒーを入れて彩ちゃんに渡した。
「うまっ!ホットサンドメーカーで焼いてるからかな。卵とマヨネーズの旨みがギュッと詰まってて、満足感が凄い!食べ進めるごとに、外側のサクサク感と中のしっとり感の対比が心地よく、最後のひと口まで飽きることがない。シンプルながらも奥深い味わいのたまごサンドは、まさに至福のひと品だ。」
と、彩ちゃんが急に食レポしてくれた。
私も嬉しい。
キャンプでの朝食はいつもとても美味しく感じる。
朝食を食べ終えてコーヒーを飲みながらスマホで色々な情報を漁っていたら、ミキさんが小さな子供の手を引いてやってきた。
薄く茶色い髪はマッシュヘアでサラサラ、水色のニットセーターには機関車のマークが付いている。色白で少しふっくらしていて、大きな目がめっちゃ可愛い。
ほぼ天使。
二人で嬌声をあげる。
はっと早朝のキャンプ場である事を思い出し、彩ちゃんと目を合わせる。
「ミキさんのお子さんですか?」
と彩ちゃんが必要以上に小声で言う。
ミキも合わせて小声で
「そうそう。凪って言うの。ほら凪挨拶してね。」
すると凪は、
「なぎです!4さいです!」と大きな声で言った。
指はしっかりピースマークをしている。
何この子!可愛い過ぎる。
思わず二人で拍手を送ると、凪は更に天使のような笑顔を見せた。
思わず抱きしめたくなるが、さすがに我慢する。彩ちゃんがえらいえらいと言いながら頭を撫でているので、私も真似をして撫でさせて頂く事にする。
ひとしきり凪を愛でた後、ほっこりした空気感の中ミキさんとの作戦会議が始まった。




