甘い囁き
「悪役、令嬢?何を言っているのですか?それより具合が悪いのでは?」
「悪いのは私の性格よ!!」
悪役令嬢シノア・アスター。その悪名は乙女ゲームの舞台となるオルテンシア王国中に響き渡っている。例えば気に入らない令嬢がいれば集団いじめは当たり前。使用人の扱いは酷い上に義理の弟への扱いもいじめそのもの。
「ありえない……!」
くすりとクロッカスが笑う。
「何笑ってるのよ!」
「あ、いえ、すみません。お嬢様がそんな事を言い出すとは思ってもみなかったので……ふふ。」
「……」
だめだ、こいつに隙をみせてはいけない!
「ぐ、具合なんて悪くないわ!それよりこの馬車はどこへ?」
「お嬢様、やはりお加減が悪いようですね。今日も婚約者のアイ王子に会いにいくとおっしゃったのはお嬢様でしょう?」
「アイ、おう、じ?」
嫌な予感がする。そう、アイ王子と言えばシノアの婚約者にして、断罪者!
私との婚約を破棄して断罪し、処刑してくれる最高に最悪な存在!
「あ、頭が痛いわ……。」
「お薬をどうぞ。」
「あ、ありがとう。クロッカス……。」
薬を受け取ろうとしてやめた。
「これ、毒は入ってないでしょうね?!」
「お嬢様、どうしたんですか?今日は本当におかしいですよ?」
シノアのおかしな言動にクロッカスは不審に思う。
「お嬢様、もしかして……」
「へ?」
まさか転生してるのがバレた!?それともアヴェンジャーだと知ってる事がバレた?!
恐る恐るクロッカスの顔を見る。
「僕の事、信用できなくなったんですか?」
「ちがっ……」
クロッカスはシノアに近づくとそっと頬にキスをした。
「?!」
そうだ!この2人の関係って確か……!
シノアはアイ王子と婚約しているのに他の男とも恋人関係を持っているくそ野郎だった!
「お嬢様、僕を信じてくれると言ってくれたではないですか?」
そう言ってクロッカスは手を握ってくる。シノアはそれを振り払った。
「馴れ馴れしいわよ!身の程をわきまえなさい!」
「……僕、何かしましたか?」
「……」
「……」
2人の間に沈黙が流れる。そして、急に馬車は止まった。
「……ついたみたいですね。」
「……そうね。」
窓から王城についた事を確認すると、クロッカスがそっと耳打ちした。
「今夜、また、話しましょう。」