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私はなにも悪くない  作者: 蠱毒児導
一章 鳥籠
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1章 鳥籠 1-7



眩い明りは私達を照らし、鳴り響く拍手は主役達を迎え入れる。一寸の狂いもないよう相方の背中を追いかけ舞台の中心、スポットライトの灯る場所へ。


物語の始まりだ。


音楽が流れ私達が踊りだす、向かい合い手を繋がれ微笑み合う。私達に連動し、引き立て役達が模倣する。ラインは二本、綺麗な直線が揃っている。


「うん、出だしは完璧」


相方の手を取り軸の中心がブレないように己の身体を回転させる、手足はだらけず静止して、観客一人一人に微笑みかける私はきっと、艶めかしい大人の表情をしているのだろう。表現力は相手が、そして自分が楽しむ事を忘れてはならないのだ。


「ここまでは完璧、大丈夫。練習の成果は出てる」


相方に支えられ手足を伸ばし片足立ちで静止する。辛い表情は見せられない、地に足一つでも付いているのなら人は立つ事が出来るのだから。


「やる事が沢山ある…ひぃぃぃい」


脳内の夏木愛がパニックを起こす。しかし、身体を動かす夏木愛はミスなく演技を続けている。相方のお蔭か自分の努力か、答えは出ないが今はがむしゃらに身体を動かしていたかった。


「私今すっごく輝いてる。楽しくて…幸せ!」

 

ずっと背中を追い続けてきた相方と、ようやく対等に同じ目線で傍に居る。この瞬間初めて私は相方に認められ、大人の仲間入りが出来たのだ。

 


「あぁ、今の私は『幸せ者』だな」



天高く羽ばたいた私はきっと翼の生えた白い鳥のように見えただろう。観客席に向けた微笑み、一番見て欲しい「大好きな人」には、届かないのがもどかしい。


私達を照らすライトが、音が消えていく。舞台の幕が降りる、「前半戦」が終わったのだ。


「着替える人は着替えちゃって!水分補給忘れずにね!」


演目が切り替わる数分間、舞台裏は殺伐とする。


「夏木ちゃん水分補給ちゃんとした?ここから休憩ないからね?」


「はい、ちゃんと飲みました!それより私の踊りどう?」



「完璧!」



その一言だけで充分だ、ドーパミンが止まらない。



「行くよ!相方!」



私の背中は先生の視界に大きく大人びて映っただろうか、次は私が追わせる番。時に乙女は引っ張って、リードしてみたい物なのだ。

 

前半戦と異なりヒロインが主導権を握る後半戦。私は一人前に出る、最初の大きな見せ場だ。


一回転、二回転、三回転。目まぐるしく回る私の視界に大きく映る相方。まるでこの世界には二人しか居ないかのように、流れゆく景色の中で相方だけが傍を離れない。


「楽しい!楽しい!楽しい!!」

 

観客達は主役である私達の演技を見に来ている。艶めかしい微笑みを浮かべた私は一人一人、アイコンタクトを投げ掛ける。


「この人も、この家族連れも、みんな私を見に来ている!」


観客席に送る愛情。しかし、何故か誰も返してはくれない。


「あれ、なんで?誰も私を見て……いない?」


一方的な愛情の押し付け、観客席の家族連れは可愛い我が子の「引き立て役」を愛していた。


「どうして!?私が一番偉いのに!主役なのに!ヒロインなのに!私が一番頑張ってるのに!」


怒り。憎しみ。憎悪。様々な感情が私の身体を「傷者」にする。


「もっと私を見て!」その焦りは私から「微笑み」を奪った。


「しまった、急いで笑顔作らないと」

 

身体より先に頭で考える、一瞬の躊躇がバレエにおいては全てを狂わせる命取りとなる。



「…やっちゃった!相方とのラインがずれた!」



二人しか居ない歪なラインは観客席から見たらさぞ目立つ事だろう。少しばかり斜め向いた相方との向かい合わせがその悲惨さを物語る。私は、失敗したのだ。


「せっかくここまで完璧だったのに」

 

チラつく視界、行き渡らない酸素、その後の事は覚えてない。物語の幕が無情にも降りる。



人生初の大勝負に敗北した私は、ただの小学生になったのだ。


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