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私はなにも悪くない  作者: 蠱毒児導
一章 鳥籠
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1章 鳥籠 1-2



バレエにおける重大な要素として、表現力、柔軟性、そして最後にスタイルが挙げられる。入院による長いブランクは私の全てを鈍らせるには充分過ぎる程の期間だった。


「おなかはプニプニ腕はムチムチ、脚は上がらないし…これじゃあ先生に顔向け出来ないよ、どうしよう、やる事が沢山あるなぁ…」


負けず嫌いなこの性格、同級生には病気を理由に負けたくない。今回の発表会で踊る主役はずっと片思いをしている臨時講師の先生なのだから。


ヒロイン役に選ばれ大好きな先生と踊るチャンスを掴み取る、他の子供に取られたくは無い。出来る事から着手していく自分磨きを行うのだ。


「絶対私がヒロインになるんだから、負けず嫌いの底力見せてやる!」

 

手を掲げた私の視界に大きな輝きが灯る。早起きからのランニング、入浴時にはボディーマッサージと出来る範囲での自分磨き。己の志高く美意識を持つ事こそがライバル達に負けない秘訣なのだ。


「お~~?結構落ちたか~?」

 

鏡に映る順調に絞れた身体、自分磨きを一ヶ月程続けた成果は思わぬ所で芽吹く事となる。


「ねぇ、愛ちゃんって変わったよね。前よりずっと可愛くなってない?」


「俺告白してみようかな、好きな人とかいるのかな?」


クラスの子供達が噂する声、賛美の声が私に自信を付けさせる。


「俺やっぱ告白してみるよ!愛ちゃんと付き合いたいし…」


「Aなら成功するだろ~頑張って来いよ?」

 

筒抜けの噂話、クラスで一番モテるAからのアプローチに驚きを隠せない。このスタイルと色香は第一次成長期の子供達を虜にするほど刺激が強過ぎたのだ。


「愛ちゃんって可愛いね、俺と付き合ってよ」

 


運動が得意な子供からの告白を、私は軽く見下した。



「ごめんなさい、好みじゃ無いの」

 


私の視界に小さい子供は映らない。



「えっ!A君の告白を断るって、愛ちゃんは誰が好きなの?」

 

引き立て役の雑音を流す、小学校と言う世界は私が羽ばたくにはあまりにも小さ過ぎるのだ。


「私の大好きな人は大人の王子様だよ?早く一緒に踊りたいな」


足取りが自然と軽くなる、私は踊るように小学校を後にした。


「先生おはようございます!お久しぶりだけど…忘れてないよね?」


「夏木ちゃんお久しぶり、もう身体の方は大丈夫なの?リハビリとか大変だったでしょう?」


「病気はもう大丈夫!踊りも…ほら、リハビリちゃんとしていたから問題ないよ?」


大好きな人の視界に映る私が、一ヶ月かけ戻した体型と夜中に練習した踊りを軽く披露する。


「お~!全然ブランクを感じないよ。入院中も練習を欠かさなかったんだね」


視界に映る大きな笑顔、褒められた私は頬の緩んだだらしない顔をしただろう。高ぶる気持ちを抑え気を引き締める。乙女心は、大好きな人の前では完璧な女でありたい物なのだから。


「先生と一緒に踊りたいからね!練習も欠かさず頑張ったのは全部先生の為だよ!」


恋のライバルは多い。一方的な片思いであり、憧れに近い恋の押し付けだと理解していても私は先生と並んで踊りたい。物語の主役となり王子様の隣に立つヒロインに私はなりたい。


「1,2、ステップ踏んで!3、4、ターンして!」


掛け声に合わせ脚を運ぶ、バレエとは呼吸を重ね信頼し合う競技であり、体力が削られ脚が乱れるとテンポロスが全員へと連鎖する。一人のミスが全員のミスへと繋がる団体競技なのだ。


「5,6、ステップ踏んで?タタターン、タタターン!」

 

小学生の歩幅で背を追い食らい付く。踏み出す歩幅が小さ過ぎると一人だけラインが崩れ、大き過ぎると浮いて見える。身体の造りが異なる中で常に最適解を探さねばならない。


「ふぅ…ふぅ…つっかれたぁ~」

 

前半の演目を踊り終え流れる滝のような汗。しかし表情を崩す事は許されない。バレエは表現力が要のスポーツであり、微笑みも観客を楽しませる重要なファクターなのだから。


「夏木ちゃん頑張ってるね、でも水分補給は忘れずにね」

 

先生から手渡されるコップ一杯のお水、疲れた身体を潤してくれたからだろうか、それとも先生が手渡したからだろうか。私にとってどの飲料水よりもこの水は美味しく価値がある。


「先生ありがとう。一緒に踊りたいから本番楽しみにしててね?」


傍で踊る為に最後まで努力は惜しまず全力を尽くす、反省と後悔はしたくない。負けず嫌いの私は先生と踊る為ならどんな事でもやる覚悟を持っている。


レッスン終了のチャイムが鳴るまで私は手足を動かし、微笑み続けていた。


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