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私はなにも悪くない  作者: 蠱毒児導
2章 羽ばたき
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2章 羽ばたき 2-4

「お父さんが帰って来るまで色々済ませておかないと」


我が家の中心は全てお父さん、子供は大人に逆らえない、大人しく従う他ないのだ。


 自分の用事を済ませた直後にチャイムが鳴る。心臓が高鳴り、私の足取りが自然と速くなる。


「お父さんお帰りなさい、今お時間よろしいでしょうか」


「お風呂が先だ。今必要でない話は後にしろと躾けている筈だ、無駄な事は言わせるな」


「はい。申し訳ございません」


 ピリ付く空気、お父さんがお風呂から戻るまで大人しくキッチンで正座をし待機する。三十分程待っただろうか、お父さんに躾けられる資格を私は得た。



「改めてすみません。今お時間宜しいでしょうか」



「それは必要な話か?」


 もし必要でない話をした場合私はどうなってしまうのか、想像するだけで澱み、怖い。



「はい、必要な話です。この前期末テストがあったのですが、クラスで三位を取りました」



「だからどうした、時間は有限なんだぞ。もっと無駄を省くように努めろと前にも躾けた筈だ」




「はい。ごめんなさい」




 心が澱む。身体が重い。今すぐにでも逃げ出したい気持ちを抑え、懇願のテーブルに立つ。



「テスト期間でカナと言う親友と連絡する手段が無く不便でした、どうか携帯電話を買っては貰えないでしょうか」



 実力主義で無駄を嫌うお父さん、今回は実力と成果は伴っている。


「それだけでは買えん、そのカナと言う子はどんな子だ」


 お父さんが私の交友関係に興味を持つなど珍しい、今までとは違う詰め方に少し戸惑う。



「え~っと。カナは私と同じ部活で隣の…」



「そんな事は聴いていない」


 お父さんが対話を阻む。


「お前にとってその子は友達として付き合う価値があるのか」 


 これは盲点だった。お父さんは最初から私の人生にカナは利用価値の有るモノ、その一点が重要だったのだ。動揺するも呼吸を整え、お父さんが望んでいるであろう弁論を述べる。



「カナのお陰で期末テストは三位を取れました、彼女は利用価値があります」



 夏木家にとって人の繋がりは自分が強者になる為の手段であり、気軽に人を信頼する愚者は惨烈な物語を歩む弱者となると躾けられた。


「次回からは無駄な時間を取らせるな、携帯電話は土曜日にでもお母さんと買いに行きなさい」



「はい、ありがとうございます」



躾を終えた「者」の視界に「物」はもう映らない、深々と頭を下げ一人自室へと籠る。仕事を終えたご褒美、づつうに話を聴いて貰う為だ。



「ねぇづつう、今日は頑張ったんだよ。テストの成績が良くてね?」



 家族の会話は、二人が寝るまで無駄話をし続けたのだった。


「ねぇ愛携帯買った?あの日以降話聞かないからどうなったのかなぁって」


 週明けの放課後、夕暮れの帰り道でカナが投げ掛ける。


「え~っとね、じゃ~ん。一昨日買って貰ったばっかりなの!」


 お母さんに導かれた携帯ショップ、買った物の未だに使いこなせていない。


「おっ、じゃあちょっと公園寄ってこ。色々設定したり連絡先交換したいしさ」


「マジ?助かる~」


 片親だからか携帯は扱い慣れている、そんな邪推をしながらもカナの連絡先が綴られた。


「これで何時でも呼び出せるし、繋がれるね」


「おおぉ、って呼び出し。休日大会の練習するって事」


「そうだよ!今週大会だから最後の追い込みかけないと。待ち合わせ場所は…」


「も~解ったよ!それこそ携帯で聴くよ。それじゃあまた後日」


 カナとの練習、バレエとテニスの両立は大変ではあるが私の物語は充実感に満ち溢れている。


「後は話を聴いてくれる王子様さえ居たらなぁ」


 づつうを抱き締め一人呟く私の視界に、遠い世界へと導く窓が大きく映った。


「携帯って誰かと繋がれるよね。私の王子様が何処か遠くの世界に居るのかな」


 慣れない手付きで触る未知の世界、深淵の海へと落ちていく。


「チャットが出来るコミュニティーサイトってこんなに種類があるんだ、何処が良いのかな」


 登録が必要なサイトから匿名でゲームも出来るサイト、気になりだしたら止まらない。


「どうせならゲームが出来る所とか無いかな、私ゲームとかした事無いし」


 私が思い描く理想を詰め込んだサイト、そんなコミュニティーなどあるだろうか。


「あっ、こことか良さそう」 


 私が見つけたのはテーブルゲームで遊べるオンラインコミュニティー。ゲームも出来て雑談も可能なこのサイトは、私にとっての理想郷だった。



「初めまして、夏木愛です」っと、これで良いのかなぁ。



 産まれて初めて夏木家と言う鳥籠から未知の世界へと飛び立った私は、とある一人の王子様と運命的な物語を綴る事となるのだった。



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