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私はなにも悪くない  作者: 蠱毒児導
2章 羽ばたき
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2章 羽ばたき 2-1


「私は鳥籠の中にいる翼を広げた『傷モノ』の鳥、今日も元気に籠の中を飛び回る」





中学生となった私。制服に身を包んだ私。脚は綺麗で、胸は大きくスタイルの良い私。うん、

今日も私は可愛いな。


夏木愛は鏡の前でポージングを取っていた。


「行って来ます。づつう」


少し年季の感じる仮初の王子様を抱きかかえ、行って来ますのキスをする。


「このキスでづつうも大人の王子様に。なんてそんな物語みたいな事は起きないよね」


少女漫画の主役で無ければヒロインでもない、夏木愛はただの可愛い中学生なのだ。


「忘れ物は、無いね!」


玄関に置かれた一足の靴を履き空の鳥籠から羽ばたく、なぜなら今日は入学式なのだから。

 

自転車へと跨るも中学校までの道のりは遠い、夏木愛は外の世界へと一歩踏み出した。


「はぁ…はぁ…坂道ヤバいてこれ、こんなの毎日続けてたら脚太くなるて」

 

一人でも続けているバレエ、自慢の美脚が大根足にならないか入学早々懸念材料は多い。


「あ~あもうだめだ~大根になる~!可愛い私には似付かないほどの大根になるんだ~」

 

正門付近の駐車場へと横切る車の群れ、なんと憎らしく怨めしい事だろう。恵まれた理解のある家族に育てられた「モノ」に対し悪態を付かずにはいられない。



「どうせ私よりブスな子供をそんな大切に育てなくても良いでしょうに」

 


上り坂を超え裏門の駐輪場に自転車を置く、正門付近では主役である可愛い我が子の写真を撮る為に奇特な親達が列をなす。寂びれた裏門とは大違いだ。


「たかが写真一枚撮るだけであんなにも並んで、バカらしい」

 

心が澱むも解決策は湧いてこない、人気のない裏門から一人教室へと沈んだ気持ちを運ぶ。


「う~ん…まぁ、誰も知らないよな」


元々知り合いの少ない私、中学校がマンモス校なのもあってか顔馴染みが一人も居ない。


「とりあえず今は顔を売るしかないか、隣の席は…あの子か」


たった今教室に入った子供が私の方へと歩いて来る。これから苦楽を共にする関係だ、先ずは言葉を交わせなくては話にならない。



「初めまして私は夏木愛、これから宜しくね。良かったら名前教えてくれる?」



「私はカナだよ。うん、こちらこそ三年間宜しくね?夏木さん」

 

隣の席に着くカナと言う子供、友達が一人も居ないハードモードの物語だけは回避しなくてはならない。狭い世界で生きる資格を得る以上、社交辞令は必要不可欠。人より少し訳アリな私は簡単には心を開かず気軽に他人を信頼しない性格なのだから。



「それでね、私小学校の時図書委員で」



「へぇ~」



「クラスは違うんだけどね?友達の青紫ちゃんって子とずっと二人でやってたの」



「ほぇ~」



「それでね、私少し訳アリでお母さん居ないんだ」



「あへぇ~」




無駄に話がなげぇ。




子供の舌が一度回り出したら止まらない、お喋り好きなカナの話を右から左へと聞き流す。相槌に塗れた談笑を終えた私達は、体育館へと導かれた。


部活案内、長い校長の話、鳴り響く拍手、耳障りなシャッター音。私の心が渦中に堕ちる。


「こんな『物』を有り難く撮影する親の神経が解らねぇな」


子供の物語を綴る為にわざわざ会社を休む。私が体験した事の無い無駄な行為に理解を示したくはない、普通に過ごした一日はなんの変化も無くそのまま幕が閉じていく。

 

夕焼けが差し込む静かな裏門。変わらぬ人並み、冷たい風。大人達から逆らうように、私はレールを外れ続ける。


「行きだけじゃなくて帰りもです、か。わざわざ休みまで取って難儀な物ですね」


一人卑屈になりながら駐輪場へ、新入生専用の駐輪場には少しだけ見慣れぬ変化があった。


「えっ、何この自転車。汚っ」

 

朝には無かった汚いゴミに苦笑いをしてしまう。入学式早々こんな自転車で通学しなければならない哀れで可哀想な子供は誰なのか、少しばかり気になってしまう自分が居る。


「あっ、愛ちゃんだ、愛ちゃんも一人なの?」


物珍しそうに「ゴミ」を眺めた私の視界に映る顔見知り。


「………カナちゃんだよね?『も』って事はカナちゃんも一人なの?」


「うん、そうだよ?話さなかったっけ、私父子家庭だからお父さん仕事で来れないんだ」


「へぇ、そうなんだ。可哀想だね」

 

この汚い自転車は子供の物か、思わず心の中で優劣を付け、見下す。


「愛ちゃんの家もご両親が忙しい、とか?」


「う~ん、まぁ。そんなもんかな」


両親は昔から私に興味や関心が無い、育児放棄と聞かれたらそうなのかもしれないがやりたい事は一通りやらせて貰っている為家族の会話が無くとも気にはならなかった。



「そうなんだ、なら私達『似たモノ』同士で良い友達になれるかもね」



「私はお母さん居るけどね、友達になろ?一緒に帰ろうよ」

 

少しは信頼出来る奴かもしれない、私より少しだけ劣った子供と二人寂びれた裏門を駆け抜ける。二人で行う会話のラリーは少しばかり風が暖かく、足は軽やかに動く気がしたのだった。




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