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皇の玻璃とクレアトゥーラ  作者: 平井 裕【サークル百人堂】
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07 待ち伏せ

「――――――さて、そろそろ行くかな」


 あれから数日後……この夜、俺は片瀬桜子を待ち伏せし、アポイントなしに直接会うことを試みていた。かなり変質的なやり方なのは解かってはいるが、学園でしつこく片瀬を追い回すわけにもいかず、誰にもバレないように、そして、互いのスケジュールにも干渉しないやり方としてはこの方法がベターだった。

 幸いなことに俺自身は学園内で目立たなくとも、片瀬桜子は非常に目立つ女子なので、特に苦労もなく彼女のパーソナル情報を得ることが出来た。彼女を狙っている男子生徒の数は多く、かなりの誤解もされたが、今はむしろそれがありがたかった。彼女に好意を持ち、狙っている男子生徒のひとりとして情報を収集すれば特に不自然には思われないはずだ。

 そんなこんなで聞き出した情報のひとつが、彼女は水曜の夜はそこそこデカい規模の学習塾に通っており、その帰りにいつも人気の少ない成戸木駅の南口の改札を利用して帰路につくらしい……ここで待ち伏せれば確実に彼女に会えるだろう……我ながら何ともまわりくどいやり方だと思いつつも、今の俺は只々、成戸木駅南口の改札脇で、静かに、ひっそりと片瀬桜子を待っていた――――――。


「――!? 来た!?」

 何の気なしにケータイをいじりながら歩いてこちらに向かってくる片瀬桜子を発見し、俺はまるで彼女をせき止めるように自動改札の前にたちはだかる。


「――!? ……麻績優斗くん?」

「ご名答。こんばんは、片瀬さん」

「………………ふぅ、忠告したハズよ? いろいろとね」

「ですね……、ですからご忠告通りに学園では目立たず地味に過ごしております」

「私に近づくな、とも忠告したはずよ?」

「えぇ、ですから事と次第によってはこれが最後になるかもしれません」

「そう……なら是非ともそうしていただきたいと思います、それがあなたの為よ」

「もし俺にそうして欲しいのなら、きちんと納得のいく説明をしてもらおうかな」

「説明?」

「そう、説明……色々と考えたんだけどね、不可解な点が多すぎてスッキリしないんだよ」

「………………………………余計なことは考えない方が身の為よ」

「その台詞も不可解な点のひとつだよ……いつも気になっていたんだが、どうしてそんなに仰々しい物言いなんだよ? そんなに危険なヤマにでもアンタは首を突っ込んでいるのか?」

「………………………………」

「……何も話してくれないのか? なぁ、『スメラギノハリ』って何だよ?」

「………………………………」

「それに、前にスクールカウンセラーの奴が言っていた『スメラギノハリを持つふたりが協力すれば、今後一切、あんな悲惨な事件は起きない』ってどういう事だよ」

「………………あなたって随分と勘のいい人なのね……ここじゃ目立ちすぎるから場所を変えましょう、すぐそこだからついてきてちょうだい」

「了解、何処へでもついていきますよ……」

 こうして俺たちは、歩いて三分ほど先にある公園へとたどり着く。小さな公園ながらもどういうわけかやたらと設備が充実していて、雨避けの屋根の下には大きいベンチにテーブルまでご丁寧に設置されていた――――――。


「――そこらへんに適当に座ってちょうだい」

 片瀬桜子にそういわれ、俺は適当にベンチに腰を下ろした。

「……さて、なにから話せばいいかしら?」

「そうだな……端から端まで全部聞きたいところだが、まずは……、あの事件に関しての話を聞かせて欲しい」

「聞かせてあげるのは構わないけど、その前に約束して欲しいことがあるの」

「約束って?」

「私がこれから話すことを決して誰にも口外しない事……そして、どんなに現実離れした話であっても絶対に笑わない事を約束してちょうだい」

「またも仰々しいことを……了解、約束は絶対に守るよ」

「約束だからね……、絶対よ」

「はいはい、了解しましたっつうの……、ちょっとは俺を信じろよ。ぜってぇ誰にも言わねぇから話をしてくれ」

「仕方がないわね……、じゃあ、まずはあの事件のことだけど………………………………」

 片瀬桜子はただ一点を見つめたまましばらく微動だにせず、そして、長い沈黙の後に、例の飛び降り自殺の事を話しはじめる――――――。


「まず結論から先に言うわね……、あの娘は……あの娘はね、殺されたのよ。あれは自殺なんかじゃないの、殺人といっても過言ではないわ」

「――!? は!? 殺人!? 一体何を……」

「予想通りのリアクション、どうもありがとう」

「いや、そりゃそうなるだろ!? あんなもん、誰がどう見たって自殺にしか見えねえよ」

「でしょうね………………」

「多少ハプニングはあったにせよ、どうみたって彼女が自ら飛び降りたようにしか見えねぇし、あれだけの衆人環視のもとで殺人って……ありえないだろ!?」

「それが、ありえるのよ」

「ははは、ホントにお前はいったいなにを言っているんだよ」

「約束したはずよ……どんなに現実離れした話であっても絶対に笑わないって………………」

「……ごめん」

「まぁ、無理もないけど……」

「でもさぁ、あれが殺人だとしたらいったい誰がどうやって彼女を殺したっていうんだよ? あれを殺人って……どう考えても不可能だ」

「物理的な強制力を行使せずとも、人ひとりを死に追いやることなんて簡単よ……心の弱った人間の隙をつけば特に……ね」

「精神的に追い込めば殺せるってことか……でもそれって、自殺の幇助とか自殺の教唆とかで立派な犯罪なんじゃねえの?」

「そうね、物的証拠をもってして、それを証明できればね……」

「物的証拠ねぇ……とてもありそうには思えないな」

「あるわよ……人の心を限定的ではあるけれど、自在に操作する事が出来る禍々しいものがね。けど、それを信じる人はいないと思うし、そしてそれは、決して世に出してはいけない物でもあるような気がするわ………………」

「人の心を自在にって……、んなバカな……!?」

 ――この時、俺の脳裏にあの事件の風景が蘇る。そして、それと同時に点と点がひとつの線につながった様な感じがした。

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