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皇の玻璃とクレアトゥーラ  作者: 平井 裕【サークル百人堂】
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03 説得

「なんだか今日もだるいなぁ……」

「――おっす、優斗!」

「ん、あぁ……おはよう……」

「なんだよ? 元気ないじゃんか」

「朝っぱらから元気なのは健太郎くらいなもんだろ……」

「そんなことねえよ、みんな元気にハキハキしてるぜ!」

「……あっそ」

「どうした? 本当に元気ねえじゃんか……何かあったのか?」

「んー、まぁね……今朝、いろいろとね………………」

「いろいろって何よ?」

「別に大した事じゃないんだけど………………あのさ、健太郎……うちの学園の娘なんだけど、左目の下に三つのほくろがある、目つきの鋭い娘ってわかる?」

「あぁ、それならたぶん片瀬桜子じゃね? この学園じゃ結構有名だぞ」

「え? そうなの?」

「優斗……おまえなぁ、もう少しは女子に興味持てよ……いくらなんでもこの学園で片瀬桜子をしらないってありえないぞ!?」

「そんなに有名なのか……?」

「絵にかいたような典型的な美少女じゃんかよ! しかも目の下に三連のほくろ……キャラもたってるし、目つきは鋭いけど、ああ見えて性格は意外にしとやかで大人しいらしい……このギャップがまたいい味だしているよな……鳴戸坂学園ではかなりの人気だぞ!」

「そうだったのか……確かに一目見ただけですげぇ印象に残ってはいるな………………」

「なに? 優斗、おまえ片瀬桜子ねらい!? ギャンブラーだねぇ……競争率は激烈高いぜ!」

「そんなんじゃねぇよ……ったく……ホームルーム始まるから、早く席についておけって……先生きたらまたドヤされるぜ」

「真面目だねぇ、優斗くんは……了解致しました!」

 俺が真面目じゃないことは誰よりもわかっているだろうに、健太郎は皮肉たっぷりな言葉を返してきた――。やれやれと思いながらも、いつも通りに俺は大人しく席に着いたまま、朝のホームルームを待っていた。が、しかし……普段はホームルームの五分前には来ている担任の先生が、どういう訳か今日に限って来る気配がまったくない……異様な空気を察してか、教室全体が少しずつ慌ただしさを帯び、騒然となっていく――――――。


「なぁ、優斗……いくらなんでも先生、遅過ぎねぇ?」

「確かに……ホームルームどころか授業時間も相当過ぎてるぞ………………」

「なんなんだろう……優斗、何か知ってる?」

「俺が知ってる訳ないだろう……、ったく………………」

 俺は机に片肘をつき、何気なく向かいに見える南校舎の屋上に視線を移した――――――。


「――!? ん? なんだ……あれ………………?」

「ん? 優斗、どしたん?」

「いや、あれ……なんだろうな? ほら、南校舎の屋上のところ……女子がひとり柵を越えて立ってるんだけど………………」

「んなバカな………………って、本当だ……なんだか雰囲気も怪しいな」

「なぁ、健太郎……あれ、ヤバイんじゃねぇ……まさか……、まさかだよな………………」

「おいおい、縁起でもない事いうなよ」

「いや……、だってさ………………!? ――ん!? あれ? 少し奥の方に見える女の子って、ひょっとして片瀬桜子じゃないか!? なぁ健太郎、彼女って片瀬桜子だよな? 見えるか? 間違いないよな?」

「……うん、間違いない。片瀬桜子だ」

「彼女、なんだってあんなところに………………」

 俺たちのこのやり取りに気づいたクラスのみんなも当然、窓の外の南校舎の異変に感づく。

俺たちの発したキンッとした空気は、緊張感が伝播するように周囲へと蔓延していき、そして、その空気はクラスを超え、全校に広まっていく事にそう時間はかからなかった――――――。


「おいおい、まずいぞ優斗……とんでもねぇ事態になってきたぞ!」

「………………………………」

「おい、優斗ってばよ!?」

「言われなくてもわかってるよ!」

 今になってハッキリとわかる。どうして担任の先生が来ないのか、何故どのクラスも授業が開始されないのか……、当たり前の事だが、こんな状況下で悠長にお勉強なんかしていられるハズもない――――――。


「優斗、あれって……マジだ……、あの子、マジで飛び降りるつもりだぞ!!」

「シャレにならねぇぞ!! ……詳しい事態は飲み込めないが、片瀬桜子が必死で説得を試みていることは間違いないな」

「がんばれ片瀬! 人がぐちゃぐちゃになるシーンなんてオレは見たくないぞ!!」

「健太郎こそ縁起でもない事いうんじゃねぇよ!!」

「だってよぅ………………」

 健太郎のやつは一見すると粗暴な感じにみえるのだが、その実、意外と気が弱い所がある。普段は何事もそつなくこなすのだが、緊急時には激しく動揺してしまい身動きできなくなってしまうタイプのように思える――。


「――ん? なんだ?」

「どうした、優斗?」

「いや、なんでもない………………」

 気のせいだろうか……、ほんの一瞬だけだが確かに何かが強く光ったように見えた。そして、そのエメラルドグリーンの輝きは二度、三度と繰り返された後、徐々にその輝きを弱め、消えていった――――――。

「あれって、確か今朝の水晶玉みたいなやつだよな……一体何なんだよ、アレは………………」

 不謹慎な話だが、どういう訳か俺は今にも飛び降りようとしている女の子の身の安全よりも、今朝見た、あの水晶玉のようなものが気になって仕方がなかった。そして、こうしている今も、何故か片瀬桜子はあの水晶玉のようなものを背後からは見えないように胸の前で抱え、必死で女の子の説得にあたっていた――――――。

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