桜の樹の下で君を見つけた
「春にはじまる恋物語企画」参加作品です。
今回も素敵な企画に参加させて頂きありがとうございました。
車窓からピンクの絨毯が見えている。
都会では、あまり見なくなったれんげ畑。車の窓をあけ、心地よい風を感じる。
僕の名前はハル。
今年の春から、大学入学を期に一人暮らしをはじめる。
引っ越しの片付けも程々終わったので、僕は、近くの商店街に散歩に出かけた。
確かこのあたりを右に曲がるとあったような。
そこの商店街は寂れてなどいなかった。たまたま、朝早かったからシャッターが閉まっていただけだった。
そこかしろから、揚げ物や焼き鳥、煮物などの良いにおいが漂っている。
食べ物には困らないな。
今日は、トンカツを買って帰ろう。
キョロキョロと、お店を見て歩いていると、人ひとりぐらいしか通れない細い路地を見つけた。突き当たりは、土手になっている。
そういえば、部屋から川が見えたな。
僕は、その路地に入っていった。
土手をかけ上がった。風が心地よく少し汗ばんだ肌を冷やしてくれた。
あんなところに大きな桜の樹が。
満開の桜の樹の下に、おさげ髪の少女が、セーラー服を着て、幹にもたれながら本を読んでいる。
そこに一陣の強い風が、桜の花びらが舞い上がった。
僕は、時が止まったようにその瞬間をながめた。
少女が、こちらを見た。
僕と目があった。
「さくら」
僕は、彼女に向かって名前を呼んだ。
「ハル」
彼女が、僕の名前を呼んだ。
また、強い風が吹いた。
僕は、一瞬目を閉じてしまった。目を開けたら彼女も桜も消えていた。僕は、急いで桜の樹があったところに走っていった。そこには本が落ちていた。
『林檎の樹の下で』
夢でもみていたのか?
不思議な出来事だった。
本が落ちていた。『林檎の樹の下で』
桜の樹の下でを読むとは、ちょっと笑ってしまった。
でも、なぜか僕はもう一度彼女に会えるような気がしている。
大学生活は思ったよりも忙しかった。
そのうち、本の事も彼女の事も忘れてしまっていた。
大学4年になる春、隣りに新しい人が越してきた。
挨拶に来た彼女を見て僕は、固まってしまった。
あの春の日の、桜の樹の下で本を読んでいた彼女が、玄関に立っている。
あ!ふたり同時に出た言葉は
「ハル。さくら」
彼女の名前は、春沢さくら。
あの日の不思議な出来事はなんだったのか?いまだに分からない。
彼女も確かに、あの日家の近くの桜の樹の下で、本を読んでいた。風が吹いたと思ったら僕が見えたと言っている。
ふたりで夢でもみていたのか?とも思うが、『林檎の樹の下で』の小説は確かに僕の所にある。
中には桜の花びらが挟まっている。
今、さくらは僕の横にずっといる。可愛い『林檎』も一緒に。3人で幸せに暮している。
あの出来事はなんだったのか?
夢だったのか?それとも僕とさくらは前世から結ばれる運命だったのか?
読んで頂きありがとうございます。
プロローグ的なものを
春の君 2
で書かせて頂きます。よろしかったらお読みください。