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予期せぬ同行者

 俺と舞依は、いつも通りティアラの部屋に現れる。


「おはようございます、ケイスケさん、マイさん」


 ティアラは、どこか元気がないように見える。


「ごめんなさい、お2人とも……私のせいで、このようなことに巻き込んでしまって…………」

「どうしたティアラ? 昨日はあんなやる気だったのに、急に……」

「あ、あれはその……昨日は私、少し…………こっ、攻撃的な気持ちになっていて。だから、あんな申し出を引き受けてしまいました……ケイスケさんとマイさんにご迷惑をおかけしてしまうことはわかってましたのに、ケイスケさんがお帰りになって、眠る前になるまで気づかなかったなんて…………」


 もしかして一晩中、そんなことで落ち込んでいたのか? ティアラの目元が赤い理由を、俺は勘ぐった。


「そんなこと、気にしなくていいんだよ。何度も言ってるだろ? 俺はティアラのコムレイズだ。今回のチームマッチは、ティアラを守るために必要だし、ロバルトのことは俺も気に入らない。だから戦うんだ。

 それに、ティアラや舞依に危険が及ばない方法も考えてあるし、何も心配はいらない。2連勝して、二度とあいつにティアラのことをとやかく言わせない」


 俺は自分の決意を表明した。


「ケイスケさん……」

「お兄ちゃん…………」


 ティアラの表情に、明るさが戻った。どうやら元気を取り戻したようだ。


「――さあ、行こう。武器を取ってきて、学園で一勝負だ」

「うん!」


 舞依も、信頼に満ちた眼差しで俺を見つめる。俺は、これからもその期待に応えていくんだ。


「ええ! …………ところでケイスケさん、そのお方は新しいお友達かしら?」

「え?」


 ティアラが俺の後ろを見ながら言うので、俺は振り返った。ギィ、とさっき開けたドアが軋む音が聞こえた。

 涼子ちゃんが、そこに立っていた。


「涼子!?」

「舞依……お兄さん……これって、一体…………」


 舞依と涼子ちゃんが、驚愕したまま見つめ合う。しまった――ドアを閉め忘れていたんだ。一度開けたドアは閉めない限り、現代と異世界を繋いだままらしい。

 沈黙を、バタンとドアの閉じる音が破った。まるで、涼子ちゃんが知ってしまった真実が、もう後戻り出来ないよう来た道を塞ぐかのように。

 涼子ちゃんは混乱した様子で目をパチクリさせながら、今度は俺を見た。


「涼子ちゃん、どうして…………」


 俺は問うた。勘づいた秘密に踏み込まないと、納得してくれたはずなのに。


「……なにかあるのは分かりました。けど、舞依やお兄さんにとって重大な隠し事があるのを知っていて、見て見ぬフリは出来ません。

 だから、昨日開けておいた舞依の部屋の窓から入って、様子を見に来たんです。そしたら、隣の……お兄さんの部屋のドアから話し声が聞こえて、そしたら…………」


 涼子ちゃんの言葉は続かなかった。代わりに、目の前の光景を見て、呆気に取られている。

 俺たちの家の敷地面積と全く合わない部屋のサイズ、絢爛豪華な装飾と見慣れぬ様相、そしてティアラ――。

 とても一般的な現代日本家屋の一室には見えないはずだ。


「涼子さん、ですね? ヴァルス王国へようこそ! (わたくし)、ティアラと申しますわ。ケイスケさんのお友達同士、よろしくお願いしますわね」


 ティアラの丁寧な挨拶が、涼子ちゃんにトドメを刺したのは明白だった。彼女の思考がショート寸前なのが、空虚な目を見て分かった。

 俺は観念した。これを見られてしまったからには、もうどうやっても言い逃れは出来ない。

 時間も迫っているし、悠長にもしていられない。


「…………歩きながら話すよ」


 俺たち4人は、この間買った俺の武器が置いてある、俺の部屋の武器庫へ向かった。そこで今日のチームマッチで使う武器を拾ってから、ダイアデム学園へ向かう。

 その道中で、俺は涼子ちゃんに全てを話した。俺とティアラの出会い、異世界と現代との二重生活、そして今回の目的を――。

 学園が見えてきた頃には、ある程度のことを話し終え、涼子ちゃんもだいぶ落ち着いていた。


「なるほど。つまりお兄さんはある日突然ドアを開けたら異世界へ行ける能力に目覚め、お姫様(ティアラさん)を暴漢から助けたのを契機に護衛(コムレイズ)になって、波乱万丈の学園生活の幕開けを飾ったわけですね。

 分かりました」

「わ、分かっちゃうんだ……」

「分かりましたよ。私が考えたってどうにもならないくらいトンチンカンなことが起こっているということは」


 涼子ちゃんは返って冷静になっていた。大人しいというか、はしゃぐようなタイプではない印象を受ける子だとは思っていたが、ここまでくるとクールというよりドライだな。

 そうこう話しているうちに俺たちは学園へ到着し、いよいよチームマッチの会場へ足を踏み入れた。

 思いの外ギャラリーがたくさんいて、競技場を埋め尽くさんばかりだ。その中央、正方形の魔法陣が描かれたフィールドの前に、俺たちは通される。


『レディース・アーンド・ジェントルメ〜〜〜ン! こんにちは、放送委員のマイクです。今回は全校生徒待望のSクラス対Nクラスのチームマッチ〜〜〜ッ!」


 なにやらハイテンションなアナウンスが流れる。


『本来は実況の僕、そして解説に放送委員の紅一点・トーカをお招きするはずなんですが、彼女は先月僕の告白をフった後に放送委員を辞めてしまいました。よって今回は僕が実況と解説を兼任します』


 知らないところで悲しいドラマがあったようだ。そしてそれを、マイクは自分自身で全校生徒に知らしめた。


『初心者に優しいルール説明! 今回は3対3のチームマッチで、それぞれ1組ずつ対戦し、3戦中2勝した方の勝ちです!

 武器・魔法なんでもあり! ただし武器の持ち込みは1人につき2種まで。勝利条件は対戦者本人によるギブアップか、審判による戦闘不能判定!

 審判には毎度おなじみ、ジョージさんが来てくださいました! 御年40歳!』

『こんにちは。今日は娘の8歳の誕生日ですが、皆さんのおかげで、祝うのは明日になります。よろしくお願いします』


 このパート、話者が必ず余計なことを言わなきゃいけないルールでもあるのか?


「そして今回の対戦は! 我らがヴァルス王国の姫君・ティアラ様率いるNクラスチームとォ! ご存知特級貴族・ロバルト率いるSクラスチームゥ!

 ティアラ姫の婚約か自由かをかけた、世紀の一戦だァァァ!」


 歓声があがり、盛り上がりは最高潮に達した。俺たちの対面には、ロバルトと例の取り巻き2人がいる。

 ――あれ、1人足りなくないか?


「では早速、参りましょう! まず先鋒はァ――ロバルト対ケイスケェ!」


 俺とロバルトは、魔法陣の中へ入って対峙した。


「意外だな。いきなり出てくるなんて」

「知らないのかい? 先鋒とは、確実に1勝して戦いの流れを掴める人間がなるんだよ」

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