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ティアラ、その人生

「本当は、()()()()()()()()()4()()()()()闘争を招くもの(ウォーブリンガー)】と内通しているんですよ」


 残酷な真相を伝えられ、ティアラはガクンと膝から崩折れた。


「そ、そん……な…………」


 ポロポロと、涙が彼女の頬を伝う。もう、悲しませないって決めたのに。俺は、またティアラを泣かせてしまった。

 裏切り者のことは、予想はできたことだ。フレッド隊長以外の全員が、俺の無実に賛同した。初めから示し合わせて、俺がティアラのコムレイズになるようにしたんだ。

 皮肉だな――俺を一番毛嫌いしていたフレッド隊長だけが、本当にティアラのことを思う忠士だったんだ。


「王家に仕えることになった最初の日から、ずっとこの時のために耐えてきた。いや……私はいつの日か王家に成り変わるために王家に仕えたのだ! そして今日! それは叶う!」


 ルドルフは、まるでもう目的を果たしたかのような口ぶりだ。


「姫様ぁ、あなたは私の女神ですよぉ」


 急に、愛の告白でもしそうな口調になるルドルフ。嗚咽混じりに泣きじゃくるティアラに、畳みかけるように喋る。


「先代――あなたのお祖父様は全く家臣を信用しないお方でした。そのため、誰よりも王家のために尽くす私にさえ、なんの地位も権限も与えられなかった。

 しかしシュトラウス王は違った。私をはじめ家臣や騎士隊、使用人にすら心を許し、王宮は改革された。そのせいで王は信用と忠誠を勝ち取り、大きな力を持った。だから、私は2代に渡ってチャンスに恵まれなかった。

 だが、そこに姫様が生まれた。私は計画を実行に移した。王家の教育の改革を進言し、姫様に武術も魔法も習わせない、自分の身1つ守れない無能に仕立て上げた! 座学しか能のない姫を拐うのは容易い! 賊を使って王家を混乱させ、全てを掌握する!

 ついに、私の悲願は達成されるのだぁ!」


 ティアラは、もはや項垂れて泣き叫んでいた。


「姫様――いや、ティアラァ! お前の人生は全て、私の掌の上だったんだよぉ!」

「ティアラ……すまない……私がこやつの企みを見抜けなかったばかりに……お前に辛い思いを…………」

「姫様……某は……姫様をお守りできなかった――最初から…………」


 ルドルフが嘲笑い、シュトラウス王とフレッド隊長が懺悔するように呟く。ティアラは、なおも泣いている。

 ――俺は、腹が立っていた。ルドルフの悪行はもちろんだが、それだけじゃない。シュトラウス王や、フレッド隊長にもだ。

 初めてかもしれない……はらわたが煮えくり返るっていうのは。


「――もう黙れ、お前」


 全員が俺を見た。一番許せないのは、ティアラを悲しませないという決意を果たせなかった、俺自身だ。


「ティアラの人生はティアラのものだ。それを弄ぶことは、誰にも許されない。そんなこと、この俺が2度とさせない」


 俺は、刀を震わせて言った。声も、ひょっとすると震えていたかもしれない。

 絶望に打ちひしがれていたティアラも、顔を上げた。


「王様、あんたティアラが何をしたいかとか、考えたことあるか」


 シュトラウス王を見据えると、驚いた顔をしていた。


「フレッド隊長は、ティアラのことを1度だって姫って肩書き抜きで見たことあるのか」


 次いでフレッド隊長の方を見ると、苦しそうに上体を起こしている。


「大事なのは、ティアラが自由かどうかだ。姫だからとか、王家の義務だとか、そんなことはどうでもいい。ティアラがしたいことを出来ているかどうかなんだよ。何を勉強するか勝手に決めたり、国民のために働かせたり、それがティアラの望む生き方なのかとか、考えたことあるのかよ」


 ティアラは、『好きなこと』とか『やりたいこと』とか、『楽しいこと』とか1度だって言わなかったんだ。多分、彼女は優しいから、そういう自分のことは気にならなくても疑問に思わなかったんだろう。

 けど、それじゃあダメだ。ティアラは、自由でなくちゃいけない。誰だって、自分の生き方を好きに決める権利があるんだ。

 それを奪わせはしない。失われてるのなら、俺が取り返す。


「ルドルフ。お前は俺が倒す。くだらない野望をぶっ壊して、ティアラの人生を解放する」


 俺は刀を構えた。絶対に勝つ。こいつにだけは、負けるわけにはいかないんだよ。

 ルドルフは声高に笑った。


「姫様は幸せ者ですねぇ。5人の審問官の内4人に裏切られ、父や最後の忠臣を失ってもなお、このように付き従う家来がいて。

 ですが、お忘れなきよう。王家は敵しか生まない。あなたはそういう宿命の元に生きている。いつか、そやつもあなたの『姫』という身分をつけ狙うことになるのですよ! フハハハハハハハハ!」


 まだ言うか――俺は再び涙を滲ませるティアラを見て、激昂した。


「そんなことはない!!」


 けど、叫んだのは俺じゃなかった。

 フレッド隊長が、血だらけの鎧を持ち上げ、立ち上がった。


「たとえ、世界中の人々が姫様の敵になろうとも……某は…………某だけはっ、最後まで()()()()()にお仕えする! この命を賭してなぁ!!」


 フレッド隊長は凄まじい気迫を放って言った。こんな重傷なのに、ピリピリと空気が張り詰める。

 ティアラも、フレッド隊長の言葉を聞いて、瞳に光が僅かに宿っていく。

 俺とフレッド隊長は、背中合わせになる。


「よく吠える駄犬だ。フン、死に損ないと、殺しの経験のない小僧……取るに足らんな。今日、王家は終わる!」


 ルドルフも、剣を構えた。


「隊長、王様を頼む」


 俺は正面のルドルフの様子を窺いながら言った。


「いや、某がやる。あいつには雪辱を果たさねばならん」

「その傷じゃ太刀打ちできないだろ」

「じゃあ、貴様は歯が立つというのか? 模擬戦ではこてんぱんにやられたろ」

「人質を取られた状態で2対1なんて、まだ俺には出来る気がしないんだ」


 いくら前に倒した相手でも、シュトラウス王を傷つけずに2対1をやれる自信はない。

 さっきのヘルとの戦いだって、ティアラを守りながら戦えたとは言えない。もしヘルの狙いがティアラだけだったら、どうなっていたか分からない。

 ルドルフとの1対1なら、単純な実力勝負だ。


「勝算はあるのか」

「……なくはない」


 たしかに、ルドルフと俺の実力差は歴然だ。殺し合いにもなれば、経験のない俺は圧倒的に不利。

 それでも、勝てなくはないはずだ。


「――いいだろう、譲ってやる。仇を討ってくれ」

「あんたの?」

「ティアラ様のだ」


 フレッド隊長は、まだ傷が痛むのを堪えているのか、息が荒い。


「ティアラ様の半生は、あやつの企てに翻弄されていたことになる。貴様の言う通り、某も陛下も、国民や王宮の者たちも、みな『姫様』としてしか見ていなかったのかもしれない。ティアラ様の人生――そのあらゆる()()()()を解き放てるのは、ケイスケ……貴様しかおらん」


 振り向くと、フレッド隊長と目が合った。力強い瞳。これが、騎士なんだと思った。


「ティアラ様を頼む」

「そっちこそ、王様を頼む。フレッド隊長」

「フレッドでいい」


 俺とフレッドは、同時に眼前の敵へ駆け出した。

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