ティアラ直属護衛隊【コムレイズ】
俺はティアラを誘拐しようとした暴漢3人の仲間と疑われ、審問会に掛けられることになった。
フレッド隊長やルドルフら審問官たちからの質問に答えていると、徐々に俺が異世界から来たという話が信じられ始めてきたようだ。
ドアを開けたら異世界に来ていた――おとぎ話と揶揄されたこの一言が、どうやら決め手になったらしい。
「こんな見え透いた作り話を鵜呑みにするのか、ルドルフ!」
俺の答えを、おとぎ話と驚き混じりに吐き捨てたフレッド隊長が、隣に座るティアラの執事に怒鳴る。
一方、ルドルフはあくまで冷静だ。
「この世界にまつわる常識の欠如、存在しない言語や見たことのない衣装・道具、そして扉を通ってやって来たという証言――これら全てを総合すると、彼が異世界から来た可能性は極めて高いです」
「それが全て嘘である可能性の方が遥かに高いだろう!」
「私めには、少なくとも彼が嘘をついているようには見えませんな」
フレッド隊長とルドルフの議論は、激化の一途を辿っていた。他の審問官は、それをただ見守っている。
「ルドルフ、お前は奴が姫様を救ったという体を前に、公正な眼が曇っているのだ!」
「眼が曇っているのはあなたですわ、フレッド隊長」
半ば逆上したようなフレッド隊長に痺れを切らしたのか、ティアラがピシャリと言い放った。これまでの彼女からは想像もつかない、驚くほど冷たい語調だ。
「何度でも言い続けますわ。ケイスケ様は私の命の恩人です。それに、あの時ケイスケ様は私の寝室の方から現れましたわ。寝室は隠れ場所なんてありませんし、私は拘束される直前まで寝室で休んでおりました。私は、ケイスケ様の仰ることを全面的に信じますわ」
なんか、すごく庇ってくれるな……。時折、ティアラは俺の方を見たが、やっぱりどこか視線が妖しいような気もする。
けど、俺にとってティアラが味方してくれるのは本当にありがたい。ルドルフや他の審問官たちは参考にするように頷き、フレッド隊長は歯を砕きそうな顔をしていた。
「し、しかし姫様……仮にそやつが賊どもの仲間でなくとも、王族である姫様の私室へ無断で立ち入ったこと、これはいかなる理由があろうとも罰せられるのが我が国の法律! 拷刑は免れても、罪には然るべき罰が与えられなければなりません! どうか、厳正なるご判断を!」
「あら、そうですわね。でしたら私、1つ良い案がありますの」
フレッド隊長の表情が、わがままを聞き入れてもらえた子どものように明るくなった。
そんなに俺に罰を与えたいのか。
案の内容がなんとなく気になってティアラの方を見ると、彼女はチラリと目を合わせ、ニヤッと不敵に笑った。
「ルドルフ。たしか王族の私室への無断侵入に対する罰則は、王族の裁量で下してもよいのでしたよね?」
「はっ。姫様の仰せの通りでございます。今回の場合は姫様の私室への無断侵入ですから、姫様の望む厳罰を下すことができます。……許すことも」
ルドルフが最後に呟いたのを、俺はなんとか聞き取れた。もしかして、ティアラはこの規則を使って俺を助けてくれるのか?
俺は見えてきた一筋の希望に、胸を撫で下ろした。
よかった――これで殺されなくて済む…………。
「では、私の裁量によって、ケイスケ様を【コムレイズ】の一員にする刑に処しますわ!」
得意満面の顔で、声高に宣言するティアラ。ざわつく審問官たち。そしてポカンと口を開けるフレッド隊長。
なんかまた知らない単語が出てきたし、俺は今、嫌な予感しかしていない。
不安になって再びティアラを見ると、もう大丈夫と言わんばかりに余裕のある笑みを返してきたけど、全く頼もしくなかった。
「この素性の知れない男を姫様の直属護衛隊に!? それはいくらなんでも、あまりにお戯れが過ぎますぞ!」
フレッド隊長がダンッと卓上に拳を叩きつけて立ち上がった。
彼は着ている鎧をカチカチ鳴らすほど腕を震わせ、こめかみには青黒い血管が浮き出ている。正直、初めてフレッド隊長を怖いと思った。
だがティアラの方は、さすが王族と言うべきか、まるで動じている様子はない。
「ふざけてなどいませんわ。ケイスケ様は賊3人を1度に相手取り、私を守り抜いた実力者です。あの太刀さばき、きっと何かの流派に精通しているに違いありませんわ!」
「姫様は武術の心得がないでしょう! それに、【コムレイズ】には私が立候補いたしますと、以前から申し上げているはずです!」
「フレッド隊長は王宮騎士隊の隊長もなさっていますわ。激務の中、私の護衛も兼任となっては負担が大きいでしょう?」
「とんでもございません! この身は王家に捧げると先祖に誓っております。こやつに姫様の護衛を任せるくらいならば、某が姫様を守って死にます! ですから姫様、どうか今一度、冷静にご判断を――」
「隊長。これは第1王位継承者としての命令ですわ。体を労って、しっかりお休みをとり、ご先祖ではなく今のご家族との時間を大切にしてください」
気前の良いことを言われ、フレッド隊長は悔しそうに歯軋りする。
「――では、無断侵入の件は、これで落着ということで。次に、答弁人の姫様誘拐未遂幇助の罪について、決を執りましょう」
ルドルフが審問官たちに目配せして切り出した。深々とした頷きを了承の意思表示とし、ルドルフは俺の方を向き直った。
「答弁人――ニイハラ ケイスケの姫様誘拐未遂幇助の件について、有罪と認める者は、挙手を」
カチャ、という金属音と共に高々と手が挙がった。
しかし、俺の有罪に票を入れたのは、フレッド隊長ただ1人だけだった。
フレッド隊長の挙げた右手が、苛立ちでプルプルと震えた。
「では、無罪と認める者」
今度は、ティアラやルドルフら審問官――フレッド隊長を除く全員が手を挙げる。
バンッ! と弾けるような音と同時に、フレッド隊長は席を立った。
「皆、あとでこの判決を悔いても遅いのだぞ!」
フレッド隊長は審問官たちを一瞥して怒鳴った後、俺を睨んで部屋を立ち去った。出口へ向かう途中、『どうかしているっ!』と悪態をつくのが微かに聞こえた。
しばらく静寂が続き、ティアラが俺を見て嬉しそうに微笑んだ。
「では、ケイスケ様。あなた様を、私直属の護衛隊として正式に――」
「姫様、お待ちください」
ルドルフが制止する。
「姫様直々に下された決定に、執事の分際で口を出すような無礼はいたしません。しかしながら、1つだけお願いがございます」
ルドルフが一瞬、俺を見たような気がした。少なくとも、審問官たちは皆、俺を見ている。
「どうか私めに、ケイスケ殿と手合わせさせていただきたいのです」
ルドルフの眼が、剣のように鋭くなった気がした。




