勇者ハザード 一本の枝から始まる終末
「役目が終わったからって急に還されても・・・」
故郷への想いはあるが今さら帰っても、受験も就職も失敗している。
このままここに残っていたら英雄なのに。
異世界で三年もの時を過ごした勇者は実のたっぷりついたその枝をを持ち帰った。
◆二年後
テレビ【テレビショッピング】
「新種のトマト リコスノー。 こんなにちっちゃいミニトマトですけれど、なんとリコピンが通常のトマトの二倍!糖度は15。野菜嫌いのお子さまでもフルーツ感覚で食べられます。
『トマトおいしー』『野菜嫌いの子が食べてくれました』『これを食べてからお肌の調子がよくなって』(個人の感想です)。この箱丸々、○○円。ご希望の方には夏休み用の苗もお付けします。寒さに強く、寒冷地でも冬を越せー」
ネット
『リコスノーまじおいしー』
『白いトマトってどうかと思ったけれど案外いける』
『世の中には白なすびもあるぞい』
◆三年後
テレビ『園芸番組』
『ー新種のトマト。リコスノーの失敗しない育て方。です 教えてくださるのは園芸研究家のー』
ネット
『オススメダイエットある?』
『リコスノーダイエット。ぽっこりお腹が引っ込む。お通じもすっきり』
『え、普通のトマトより高いんじゃない?』
『おうちで育てるの簡単よ?』
◆四年後
テレビ 【料理番組】
『本日はホワイトトマトで食べる夏の冷製パスタとひんやりトマトスープです。』
ネット
『あれは肉と一緒に串焼きにするのが一番!』
◆五年後
テレビ【バラエティー】
『毎日たったの三粒普段の食事に加えるだけ!ホワイトトマトで○○は痩せられるか!?一週間続けた結果は?』
ネット
『初めて野菜作るんだけれど、家庭菜園って難しい?』
『リコスノーなら簡単。野菜に困らない』
『手入れしなくてもいっぱい実るし、取り損ねたトマトほってたら、芽がにょきにょき生えてくる』
『脇芽も地面に挿しといたら勝手に生えてくる』
『四季咲きだから年中とれる』
『連作障害の心配もない』
◆六年後
テレビ【ドキュメンタリー】
『少ない水で育つリコスノーは砂漠緑化に期待大』
ネット
『へー』
『ホー』
『リコスノーは世界の食料危機を救う!のか?』
◆七年後
テレビ【ニュース】
『ートマトの価格大暴落についてです。トマト生産農家からは悲鳴が上がっています』
『リコスノーのせいで、トマトこの箱いっぱいでも二束三文にもならんよ』
『甘く美味しく、海外では砂漠の緑化に貢献しているリコスノーですが...』
ネット
『農家は大変だな。(摘みたてトマトを食べながら)』
『今や一家に一株の時代だからな』
『リコスノームーブは来年までとみた』
◆八年後
テレビ【ニュース】
『ー全く異なるなる遺伝子であり、トマトとは異なる種であることが判明しました。それに伴いリコスノーは『モギミラ』とー』
ネット
『モギミラってw』
『言いにくい』
『遺伝子組み替えってこと?』
『やだ。大丈夫?』
『俺はたべる!』
『だっていっぱい生えてるしおいしーじゃん』
『でも、けっこう大きくなる』
『鉢植えで育てれば? 朝顔みたいに行灯仕立てにすれば場所とらない』
◆九年後
テレビ【政府広報CM】
『特定外来危険生物、モギミラ草の駆除方法。必ず根ごと取り、種が飛び散らないように、ビニール袋等に入れ、自治体の処理方法に従って駆除してください』
ネット
『え、うちの木燃やしちゃわないといけないの?かわいい花いっぱい咲くし年がら年中お野菜に困らないのに』
『除草剤ほとんど効かない』
『最近街宣車うるさい』
【街宣車】
『ーモギミラ草を販売、栽培、譲渡した者には一年以下の懲役、もしくは100万円以下の罰金が課されます。
決して他の方に譲ったりしないでくだー』
◆十年後
【ニュース】
『○○さん、『侵略的外来種』と『特定外来生物』の違いについて教えていただけますか』
『それはですね~』
【スポーツ新聞】
『モギミラ草走る!』『某国のバイオテロか?』
ネット
『木が走る分けないじゃん』
『俺見た』
『私も!木の陰からぬぼっと』
『去年から政府が何度も駆除要請していたのって、この事実を知っていたってこと?』
◆十一年後
テレビ【バラエティー】
『モギミラ草ハンター木村が教えるサバイバル術』
『簡単ですよ。まず、頭と胴体にバーナーをね、こう吹き掛ければいいんですよ。怖い方は、モギミラの指先に火を近づけるだけでも逃げていきます。ね、簡単でしょ』
ネット
『モギミラ御殿すごすぎ』
『やっぱ。俺大きくなったらモギミラハンターになる』
◆十二年後
【街宣車】
『ー大変危険です。不要不急の外出は避け、昼は集団で行動し、夜間はしっかり戸締まりをしてください』
テレビ【ニュース】
『○○事務総長はモギミラ草に関して強い懸念を示してー』
ネット
『日本、国連からめっちゃ怒られてる』
『自家受粉可能な上に、四季咲き。株も年毎に増えるからな。数年後、世界中でモギミラが走るわけかぁ~(とおい目)』
『ってか、どこの研究所だよ。こんな生物兵器作ったのは』
『初出はテレビショッピングらしい。当時の映像が残ってる』
◆十三年後
【女性週刊紙】
『モギミラはハンター木村が作ったものだった!! 当誌は通販会社の元社員Aさんに話を聞くことができた。元社員A『はい。苗と実を持ち込んだのは確かに木村さんでした』』
『はっ』
『まじ!?』
『モギミラ販売と駆除で二度儲けか!』
『そりゃ御殿建つ』
『許さん!』
『モギミラに家押し潰された』
『昨日モギミラに夫が食べられた』
『家特定 ○県○市ーよろ~』
彼が気配を感じて振り返ると、蔦に覆われた『人』たちが斧を振り上げた。
「ひぃっ」
やがて白い実がたっぷりついた太い蔦の波が家を、人を、世界を飲み込み覆い尽くした。
作者はトマトが嫌いなわけではありません。ピザもナポリタンも決して嫌いなわけではございません。
※実在のトマトとは一切関係ありません。