1、プロローグ
スタートから人(母)との別れです。苦手な人はスルーしてください。
しんしんと冷たい雨が降る。今日はお母様と本当のお別れの日です。
あの日も雨が降ってました。
―――8日前、お母様は土砂に巻き込まれて行方不明。
「奥様が事故に…」
その日からお父様は姿を見せてくれなかった。
不安とともに過ごした一週間、お母様は戻っていらっしゃった。私達家族の願いも虚しく、言葉を発することのない、躯となって。
*****
降雨の中、葬別式は進みます。
「可哀想に…子どもは?」
「跡取りはいるとは聞いたが、、、まだ2歳だったか、3歳だったか、あと、上に娘が、ほら、あれだ。」
小さい声で話していても葬別式の静けさでは私の耳に入ってきます。お父様は機械的に別儀式の来客への挨拶とお礼をしています。隣で立つ私は、お母様を見つめます。
家に戻ってきた時に泥だらけの姿を綺麗に、さらに化粧をしてもらったお母様は、今すぐにでも起きそうな、眠っているだけだと錯覚させる様子です。
ふっと手を握りたくなってお母様の元へ寄りました。冷たい手に身体がビクッと強張ります。
ーお母様の手はこんな手じゃない!!
そう、暖かくて、私の頬を温めてくれる、優しい手。今、手を離したらきっともう目覚めてくれない。私はぎゅっとお母様の手を握りしめた。
動かないお母様の手。冷たい手を温めるように両手で力強く。ああ、もう涙で見えなくなってきます。
「お母様!」
ああ、私はまた母を失うのか…。
悲しみとともに唐突に理解ししました。これが本当にお母様との別れであることを。この後、お母様とは、本当に会えなくなる。
―――最後になる。
私はお母様の首元にすり寄るように抱きしめました。涙が溢れてとまりません。
お母様。お母様。どうして。
「お母様…」
冷たい体を抱きしめていたら、背中が温かいような気がします。お父様が私とお母様を抱きしめていました。
「お母様は幸せだね…。愛しい娘に抱きしめられて逝けるなんて」
いやだいやだ。
いかないで。首をふるけど声は嗚咽にしかならない。
「ありがとう、子どもは私に任せて、また会おう」
いやだいやだ。
それって前にも言ってた。お父様。前もそれで父と二人で頑張った。辛いこともいっぱいあったよ。二人でも大丈夫だったけれど、やっぱり母がいてほしい。
いやだいやだ。
お母様!いかないで。涙ばかりが溢れてまた声にならない。前?私、お母様を前にも亡くしてるの?
その時、私の中で多くの記憶が溢れてきました。私は母と父の間で抱きしめられながら、混乱の中、まるで眠るように、気絶しました。
ありがとうございました。