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幸運の木  作者: 白夜
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あたしたち

 村の宴も終わりに差しかかり、持ち込んだ酒が尽きてくる頃になってから、大人たちはやっと今年の仕事についての話をはじめる

 酒瓶を逆さに振って、あきらめ悪く底に残った最後の一滴を舐めながら、今年は何を植えようかとお父さんがぽつりと言った

 大人たちの隙間に座って朝ごはんを食べるあたしの頭の上で、まだ酒くさい大人たちが話し合っていた

 去年訪れた商人が、うちの村で取れたことのない種を持ち込んできたので、今年から試しに育ててみるらしい

 あたしはその商人から、その種から取れると言っていた野菜を味見させてもらった事がある

 瓜の仲間と言っていたけれど、その実は果物のように甘かったから、毎年食べれるようになるならあたしはその案には大賛成だった

 食べ飽きた作り置きのおかずをさっさと掻き込んで、言われる前に食器を下げて食卓を後にする

 いつまでもダラダラと大人たちの近くにいると、手伝いを言いつけられてしまうからだ

 文字も書けない幼年の子たちだけが、膝の上にいられる権利を持っている

 上着を2枚着込んで手袋もして、靴下も2枚履きこんでから家を出る

 村の広場に出ると、食事が終わった子たちがそれぞれのグループを組んで遊びはじめていた

 女子のグループ、男子のグループ

 今はそこに、男女のペアがチラホラと見かけるようになった

 村長の家に来た時は男女それぞれのグループに分かれていたけれど、冬が終わる頃にはペアで過ごす子も出てくる

 グループ分けがあいまいになるこの頃は、一人でいてもあまり変な顔をされなくなるから、あたしは少し過ごしやすい


 ぴったりくっ付いてずっとクスクス笑いあっている最高学年のペアの側を抜けて、あたしは林の中を進んだ

 村長さんちの近くの大岩は、この頃にはペアの人たちの待ち合わせ場所になる事もあるので、暇つぶしには向いていない

 岩から伸びるせせらぎを下り、倒木のある場所を探す

 今日はなかなか見つからなくて、会いたくないのかなと少し寂しくなる

 魔法使いと別れた日から、あたしは毎日雪だるまに会いに行っていた

 幸運な苗木のいる場所は、なぜか日によって場所が変わっていたりして、測っているわけじゃないから気のせいかもしれないけど、会えないときもあった

 あの子たちのところへ行くのは、遊びに行っていると言うよりも、特訓しに行っていると言ったほうが正しいかもしれない

 雪だるまは主を守るゴーレムなのに、すぐに溶けてしまうようじゃ門番なんて言えやしないと、そう言ったあたしの言葉に、雪だるまは目の端を吊り上げて、きりりとした顔でうなずいていた

 修行と名前の付いた押し相撲は、今のところあたしが少しだけ競り勝っている

 最初は力の差もなく押し合って動かないあたしたちだけど、組み合っている内に、あたしの熱で溶け始めてしまう雪だるまが先に押し出されてしまうのだ

 だけど雪だるまの冷たさに、あたしも凍えて動けなくなってしまうので、力の差は本当にほんの少しだった


 せせらぎを下るあたしのつま先に何かがぶつかって、あたしは立ち止まる

 あたしに蹴られた石ころが、倒木にぶつかってもみじのどこかに滑り込んだ

 倒れた木の下には大きめの岩が埋まっていて、その岩の上に根を張った幸運な木は、まだまだ細くて頼りなく、嵐でも来たらすぐに折れてしまいそうだ

 それでもきっと、今年の夏には間違いなく、もっと大きく育つだろうとあたしは楽しみにしている


『いち、にい、さん……』


 吐く息だけで、消えてしまいそうなささやきが、あたしの耳にそっと吹き込まれた


「しい、ごお、ろく……」


 あたしはささやきの後を続けて目をつむり、もういいかい? とふたりにたずねる

 毎回来るたびに最初にはじまる遊びはかくれんぼで、幸運な木に宿ったあの子はこれがすごく得意だった

 あたしと雪だるまはいつも見つけられずに、勝負はいつもあの子の一人勝ちだ


『もういいよ』


 楽しげな声は風に乗り、枯れ木にぶつかって木霊になった


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― 新着の感想 ―
[一言] いわゆる「普通」の世界は、異質なものには厳しいですものね。 そこからはじき出されて外を見たからこそ、見つけられるものもあるのでしょう。 少女が見つけた幸運の木のように。 加護を受けた幸運の…
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