【駅前、靴擦れ、絆創膏、キス、昼寝をキーワードに書いてみたお話】
【駅前、靴擦れ、絆創膏、キス、昼寝をキーワードに書いてみたお話】
女の子side
駅前で突然、抱き締められた。
たくさんの人が行き交う場所。あたしは恥ずかしくて、彼の胸に顔をうずめる。これなら、あたしの顔は誰にも見られない。だけど、抱き締められてるのを見られてる。それが、恥ずかしくて、しょうがない。どうして、こんな事を、こんな場所で、突然したのか、ちゃんと聞きたい。だけど、これじゃあ、彼に聞けない。
「ねぇ……、少しは反省した?」
上から、降ってくる声に驚く。彼はどうやら怒ってるみたいだ。だけど、怒られる理由がわからない。あたしが黙っていると、それを肯定と受け取らなかった彼は、あたしを放し、ズンズンとどこかへ向かって、歩き出した。
確か、今日は水族館で、デートの約束だった。それなのに、何処へ向かうつもりなのか。それが知りたくて、あたしが彼にどこに行くか訪ねると、「オレんち」と短く答え、歩き出す。
せっかくのデートの日。これから、彼の家で何を言われるのか、何をされるのか。わからなくて、あたしは少しだけ、怖くなる。
男の子side
彼女の手が冷たくなってきた。多分、緊張してる。緊張させてるのはオレのせい。だけど、謝りたくない。こうさせたのは彼女のせい。だって、オレが知らない、顔を他の人に向けるから。だから、駅前だけど、抱き締めたくなった。だけど、この気持ちを素直に彼女に伝えるのはイヤだ。だから、オレはそれを態度で示す。だから、今日の水族館デートをキャンセルした。彼女はガッカリするのはわかっているが、オレの気持ちがモヤモヤしたままだと、オレが水族館デートを楽しめない。だから、こうして、オレの家へ向かう。オレの家なら、オレの他には誰もいない。
「待って……足が……」
立ち止まり、彼女の足を見ると、靴擦れを起こしていた。オレは黙って、彼女をお姫様抱っこして、目の前に見えている、オレが住むマンションへ向かう。エレベーターで25階まで向かう中、お互いに無言。エレベーターが開き、胸ポケットに入っている鍵で彼女に鍵を開けてもらう。
「ありがとう」
オレは彼女を床に下ろさないまま、寝室へ向かい、彼女をベッドに座らせ、靴を脱がせたあと、マキロンと絆創膏を取りに向かう。その間、ほぼ無言。だけど、先ほどまで、感じていた感情はもうない。
感情的な気持ちになって、感情的な行動をとってしまった、自分に嫌気がさす。
(はぁ……)
女の子side
ベッドに座らされてから数分、彼が戻ってきた。その手にはマキロンと絆創膏、そしてティッシュを持っていた。
「ありがとう」
「いいよ、オレのせいだし……」
彼は黙ったまま、あたしの手当てをしてくれてる。だけど、マキロンがしみて、声が出る。
「しみる? ごめん、我慢して」
そう言って、テキパキと手当てを終わらせ、最後に、靴擦れをした場所──絆創膏の上からキスをする。
「ちょっ……」
「汚くない……」
あたしが思った言葉を口にする。そんな事をするのだから、もう起こっていないと思い、「駅前での事だけど……」と言うと、彼に抱き締められ、「ごめん……」と謝られた。
「どうしたの?」
「嫉妬した……。オレが見たことない笑顔を他の人に向けてたから……」
子供っぽい理由に笑みがこぼれる。
「そっか」
だから、あたしは彼の頭を撫でる。
「ごめんね。あたしだって、他の人にヤキモチ妬いてる時だってあるのよ。でも、それはしかたないじゃない。私達は最近付き合い始めたばかりなんだもの」
すると、彼は、わたしを抱き締めたまま、私に体重をかけてくる。だから、わたしは自然と彼のベッドに背中から倒れこむ。
「じゃあ、今日は寝顔を見せて?」
「寝顔?」
「そう。だから、今日はお昼寝デートに変更。おやすみ……」
そう言って、彼は優しく、あたしにキスをする。そのキスの感触を感じながら、あたしはまぶたを閉じる。
「寝顔も可愛い……」
直ぐに、聞こえてくる寝息。あたしはその寝息を聞きながら、意識を手放す。
(おやすみ……)
読んで頂きありがとうございました。