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第1話 河童・水藻登場

お待たせ致しましたー



 ここは、錦町(にしきまち)に接する妖との境界。


 ヒトとも接する歓楽街の界隈に、ほんの少し接しているのだが。ヒトから入るには、ある程度の資質を持つ者でしか訪れるのは叶わず。


 たとえばそう、妖が好む霊力があるとすれば。


 元地獄の補佐官だった猫と人のような姿をしている店主の営む小料理屋、『楽庵(らくあん)』に辿りつけれるかもしれない。












 住みにくい世の中になったと、本日楽庵に来た可愛らしいお客がこぼしたのだった。



「……界隈が生じても。僕は必要とされていないのかもしれないです」



 青白いを通り越して緑の皮膚。髪はあるが頭頂にはない。代わりに、白い皿のようなものが載っている。手足は人と変わりないが、指と指の間には水掻きが異常に発達。


 故に、この妖は河童。


 山の神の使い、水神、日本で有名過ぎる妖怪の一種などなど。


 未確認生命体とも言われているらしいが、この妖は立派な妖だ。山の神の使いと言うのもあながち間違ってはいない。



「……信仰心が次第に薄れていくから。ですか?」

「!! そうなんです! 僕は山の神の使いをしているんですが、最近はアマビエアマビエって!? たしかに、彼は凄いですよ? けど、人間達に馴染みが深いのは僕ら河童だと思うんです!」



 座敷童子の真穂(まほ)くらいに幼い見た目だが、地獄で補佐官を務めていた火坑(かきょう)の年齢を合わせても同じくらいかそれ以上。


 楽庵に通い出してくれたのは、まだ最近だ。と言っても、恋人の美兎(みう)よりは長く、ここ十年くらいだが。それでも、ここまで酔い潰れるのは珍しい。


 余程、そのアマビエと言う妖に株を持ってかれたのだろうか。


 年の瀬も迫っているせいか、客足も少ない錦の界隈であれ、客が来るのは嬉しい。


 けれど、悪酔は良くないので、火坑は〆にと作っておいたスッポンの雑炊を彼に差し出した。



「年の瀬とは言え、あまり飲み過ぎはよくないですよ?」

「うう〜……うう……僕も大将さんみたいに恋人が欲しいです」

「ふふ。僕の場合は巡りに巡ってですから」



 美兎の名までは広まってはいないらしいが、火坑が美兎と付き合い出した事実は界隈でそこかしこ広まっているようだ。


 黒豹の霊夢(れむ)の二番弟子が、とかで。最近は落ち着いたが、馴染みの客達からはどんな彼女だと聞かれまくったものだ。



「……どんな彼女さんか聞いてもいいです?」

「ふふ。僕の場合盛大にのろけてしまいますよ?」

「大将さんが!?……じゃあ、それだけ大好きなんですね?」

「ええ。早いですが、この先のこともお伝えしてあります」

「人間?」

「ええ。……内緒ですが。(さとり)御大(おんたい)に縁が深い方なんですよ」

「半妖……じゃないけど、妖力があるんですね?」

「はい。けれど、真穂さんも守護につきたい程の霊力の持ち主でいらっしゃるんです」

「ほえー! それで、真穂様があんまり界隈にいないんですね?」

「それでも、彼女のお仕事以外はこの近辺にいらっしゃるようですよ?」



 年の瀬も近いので、美兎もだが真穂も忙しい。特に真穂は、座敷童子の一角なために界隈を中心に幸運を振りまく仕事があるそうな。


 だから、今日やってくる予定の美兎はひとりで来るらしい。界隈でも真穂と火坑の加護で悪さをしようとする妖は寄ってこないはずだが。


 どうにも、残業にしたって遅い。


 今の時刻はまだ夜の9時ではあるが、LIMEにも特に連絡が来ないのだ。


 と思っていたら、店の引き戸が開いたのだった。



「こんばんは! 遅くなりました!」

「! いらっしゃいませ、美兎さん」

「すみません、連絡出来ずで」

「いえいえ」

「……? あ、このお姉さんが大将さんの!」

「はい」

「え。私の話してたんですか?」



 恥ずかしい、と顔を赤らめるのが最高に可愛く。河童がいなければ抱きつきに行っただろう。


 それが出来ないので、彼の隣に腰掛けた美兎に熱いおしぼりを差し出した。



「ありがとうございます。えと、河童……さんですか?」

「そうです! 河童の水藻(みなも)と言います!」

湖沼(こぬま)美兎と言います。へえ? 本当にお皿が乗っているんですね?」

「外せますよ?」

「あ、いえ! 大丈夫です!」



 河童自ら皿を外すのは滅多にないらしいのに、少々惜しい機会を断ったものだ。が、禿頭かもしれない内側を見てもいいものではないかと普通は思うだろう。


 美兎の場合は、単純に痛そうだとか考えているかもしれないが。



「美兎さん、本日は梅酒がいい漬かり具合なのでお湯割りにしませんか?」

「お任せします! あと、ちょっとしっかり食べたいです……」

「ふふ。であれば、水藻さんにお出ししたカラスミが中途半端に余っているので。炒飯にしましょうか?」

「わあ!」

「た、大将さん! 僕もひと口!」

「構いませんよ?」



 パスタにアレンジすることが多いカラスミではあるが、炒飯は火坑が好んで作る。


 そこで、美兎には心の欠片を提供してもらい、烏骨鶏のような薄い紫色の卵に変換させたのだった。

次回はまた明日〜

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