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第4話『味噌仕立ての牡丹鍋』②

お待たせ致しましたー

 物凄くびっくりした、と言うのが口に出そうになったが。


 プライベートとは言え、会社の先輩が何故(にしき)の界隈にいるのだろうか。だが、一緒に来ている相手は誰だろうかと振り返れば。


 見覚えのある男性が立っていた。



「あ」

「あ」

「なに? (たか)君、湖沼(こぬま)ちゃんと顔見知り?」

「うちの店の常連さん」

「こ、こんばんは」



 人懐っこい笑顔が特徴的な、人間界にある(さかえ)のマカロン専門店のパティシエの一人。そこで、美兎(みう)はあることを思い出した。失礼だが、指を向けると隆君と呼ばれた男は『自分?』と首を傾げた。



「?」

「先輩の彼氏さんって、相楽(さがら)さんだったんですか!?」

「あれ? ケイちゃん言ってなかったの?」

「まあ。君が妖怪なのバレちゃうといけないかなって」

「え゛!?」



 相楽が妖怪、つまりは妖。全然そんな感じに見えなかったのもあるが、人間界で堂々と働くのがすごいと思った。


 しかし、恋人の火坑(かきょう)も猫人から人間に変身してまで仕入れに行くから、普通なのかもしれない。


 すると、相楽が軽く頭を撫でれば。姿は一変したのだった。



「あら、隆輝(りゅうき)じゃなあい?」



 守護についてくれている、座敷童子の真穂(まほ)が声を上げた。


 その間に、相楽の風貌はどんどん変わり。黒髪短髪が紅髪長髪に。黒い角が眉間から細長く二本伸びて、肌も少し青白くなった。目の色まで金髪に。



「……鬼、さんですか?」

「ここに来なれているんなら、俺が鬼になっても驚かないんだね?」



 ただし、人当たりの良さと笑顔だけは元の相楽のままだった。



「嬢ちゃん! 俺と花菜(はなな)が座敷に移動するからさ? そっちの嬢ちゃんと赤鬼はこっちに来なよ」

「お? いいの?」

「だ、大丈夫……です」



 と言うわけで、美兎も火坑を手伝って盧翔(ろしょう)達の卓上コンロを奥の座敷に移動させた。


 そして、カウンターの席に着いてから、相楽、ではなく隆輝が改めて自己紹介してくれたのだ。



「改めて。『rouge』のパティシエ、相楽隆仁(たかひと)でもあるけど。赤鬼の隆輝だよ? 今日は火坑君に恋人が出来たって聞いたから、俺の恋人の桂那(けいな)ちゃんと来たわけ」

「い、いつから……先輩と?」

「私が大学四年からね? 三年の就活の時に道端で偶然」

「だね?」



 そんな長い期間、沓木(くつき)は隆輝とお付き合いをしていたのか。驚き過ぎて、美兎の口があんぐりと開きそうになってしまったが。



「で、湖沼ちゃん」

「は、はい!」



 美兎の右隣に座った沓木が、急に声をかけてきたのだった。



「湖沼ちゃんが……火坑さんの彼女?」

「う……はい」

「察しがいいですね、沓木さん」



 正直に言うと、沓木は何故か美兎の頭を撫でてきたのだった。



「せ、先輩?」

「うんうん。火坑さんが変身する姿は見たことなかったけど。こっちの姿を受け入れてまでお付き合いする仲になったのね? 私も安心出来たわ」

「はあ?」

「火坑君も言ってよ? ここんところ来れなかったにしても、ケイちゃんの後輩ちゃんが彼女だって」

「いえ。存じ上げていなかったので」

楽庵(ここ)来るの、相当久しぶりだったもの」



 さて、と。火坑は二人にも味噌仕立ての牡丹鍋を出したのだった。



「煮え過ぎると肉が固くなるのでご注意ください」

『いただきます』



 真穂も待っててくれたので、まずは姫竹を。


 ゴボウより少し太く見えるが、食べやすい大きさにカットされているので、美兎はひと口で頬張る。


 筍特有の、ザクザクした歯応えと味噌の味付けが絶妙だった。



『美味しい!』



 沓木と声が重なったので、二人で頷き合った。



「味噌仕立てなのが美味しいですよね!?」

「そうね? これ、こんにゃく入れても美味しそう」

「う゛!?」

「あ。湖沼ちゃんこんにゃく嫌いだったわね?」

「……ゼリーくらいしか無理ですぅ」

「美兎らしい!!」

「……ところで、そっちのお嬢さんは?」

「真穂は座敷童子! だから、本当は子供の見た目なんだけどー?」



 と、一瞬で大学生くらいに変身したのだった。



「あら? 湖沼ちゃんとの関係は?」

「あなたの場合は隆輝が担っているでしょうけど。この子が火坑と付き合う前から守護についたの」

「お? 真穂様、風の噂には聞いてたけど。この子に?」

「様付けするくらい凄いの?」

「ぬらりひょん様に次ぐ最強の妖だからだよ」



 と、話題が真穂に逸れそうだったが。全員美味しいうちに鍋の中身を食べようと箸を伸ばし。


 贅沢に姫竹を猪の肉で巻いたら。脂がしつこくなくて、筍にちょうどいい具合にまとまったのだった。

次回はまた明日〜

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